「iPhone」つくれなくなる? アップル製品の大生産地がロックダウンに

   新型コロナウイルスによる中国のロックダウンが、「iPhone」などアップル製品の生産に大きな影響を与えているという。というのも、アップル製品の大半は中国で生産されているからだ。実際に現地で請け負っているのは、台湾企業の受託製造サービス企業だ。

アップル製品の大半は中国で生産されている
Read more...

台湾企業5社に委託

   ウォール・ストリート・ジャーナル日本版は2022年5月22日、「アップル、中国以外での生産増を模索」というニュースを報じた。米アップルが、中国以外での生産を増大させる意向を一部の委託製造業者に伝えていたことが関係者の話から分かった、という。ロックダウンなど、新型コロナウイルス感染症に対する中国の厳しい対応などがその理由だ。

   アップルと中国の緊密な結びつきは深い。最近の状況については、「アップル、中国封鎖ショック 生産受託の台湾勢が工場停止 減収1兆円予測、拡大も」という5月14日の日経新聞記事が詳しい。以下のように説明している。

   ――世界で販売されるアップル製品は現在、9割以上が中国で生産されている。生産委託先も限られ、台湾の電子機器の受託製造サービス(EMS)企業が大半を請け負う。

   具体的には、鴻海(ホンハイ)精密工業、和碩聯合科技(ペガトロン)、仁宝電脳工業(コンパル)、広達電脳(クアンタ)、緯創資通(ウィストロン)の台湾企業5社だ。

   このわずか5社が、全世界で販売されるアップルの主力製品のスマートフォン「iPhone」、タブレット端末「iPad(アイパッド)」、ノートPC「MacBook(マックブック)」を毎年ほぼ全量受注し、大半を中国工場で生産する。5社合計の中国での年間売上高は30兆円を超え、雇用は100万人規模になる。

   5社が生産する中国の地域も限られている。最大拠点が中国内陸部、河南省の「鄭州」。次に生産が集中するのが沿岸部の「上海・昆山」と「深セン」。この3地域だけで、世界のアップル製品の約8割が生産されているのが現状だ。そのため、5社が工場を持つ中国3地域で問題が起きれば、アップル製品の世界出荷に直ちに影響が出る構図になっている――。

台湾の最大の貿易相手国は中国

   対立ばかりが報道される米中、中台関係だが、実際には経済面で互いに深く結びついている。

   2017年のデータによると、米国の輸出先として、中国は、カナダ、メキシコに次いで第3位。輸入先では20%余りを占めトップだ。

   日本は、米国の輸出先では4位。しかし、金額的には中国の約半分にとどまる。米国の輸入先では中国の約4分の1で、こちらも4位。米国の貿易相手国としては、中国が日本をはるかに上回る。

   中国から見ると、輸出先のトップは米国。日本は3位だが、米国の約3分の1にとどまる。輸入先では韓国がトップだが、日本、台湾、米国が僅差で続く。

   台湾は輸出も輸入も中国がトップ。とくに輸出は、20年のデータで、中国大陸(香港含む)向けが全体の42%を占めている。米国向けは、中国の3分の1程度だ。

   中国の輸入品目では半導体が最大。多くを台湾企業に依存している。「中国が台湾への統一圧力を強めるなかでも、相互依存を高めている」(日経)。

インドやベトナムに注目

   アップル商品の中国での生産も、こうした米中、中台の経済関係を反映している。しかし、単一国に生産を集中させているリスクが、コロナ禍で改めて指摘されることになった。しかも、中国は西側の国ではない。ウクライナ問題でロシア制裁に与しない。

   ウォール・ストリート・ジャーナル日本版によると、アップルは現在、輸出向け製品の生産を含め、インドでの事業拡大について、いくつかの既存サプライヤーと話をしている最中だという。

   ただし、インドには問題もある。その一つは、中国との冷え込んだ関係だ。このため中国を拠点とする組立業者がインドに足場を確保することが難しいという。 両国の軍隊は2020年に係争中の国境で死者を出す衝突を起こしたほか、最近では中国のスマートフォンメーカーである小米(シャオミ)に対するインドの規制当局の扱いを巡って、外交紛争が起きている。そのため、アップルと取引のある中国拠点の委託製造業者は、ベトナムやその他の東南アジア諸国により注目しているという。

   ベトナムは中国と国境を接しており、すでにアップルの世界的な有力ライバルであるサムスン電子のスマートフォン製造拠点となっている。

   アップルは、フォーブスが12日に発表した世界企業ランキングでは、7年連続でテクノロジー部門のトップになっている。米国を代表する大企業だ。その生産体制をめぐる最新動向は、経済的には緊密だが、政治的には緊張が続く米・中・台の関係を象徴する形となっている。

注目情報

PR
追悼