タイパ重視「倍速視聴」の危うさ 脳や健康への影響指摘する専門家も

   動画などを早送りで視聴する人が増えている。20代の半数は、ほぼ日常的に「倍速視聴」を利用しているという。時間の効率利用(タイムパフォーマンス=タイパ)になるのは確かだが、本当に内容を理解できているのか――。健康への影響なども心配する報道も相次いでいる。

倍速視聴は便利だけど、気を付ける必要もありそうだ
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3人に1人が利用経験

   市場調査会社「クロス・マーケティング」が2021年3月、全国の20~69歳の男女計1100人に行った調査では、動画を倍速視聴した経験がある人は20代で約半数に上り、60代でも20%台に達した。平均すると、3人に1人が倍速視聴の経験があった。

   動画配信サービスが広がり、様々なコンテンツを自分でスピード調整しながら簡単に視聴できるようになったことが大きい。勉強のため、インターネットで講演や講義を視聴している人の中にも、「倍速」を活用している人が少なくない。

   普段よりも高速で視聴し、その内容が十二分に理解できれば、時短メリットは大きい。しかし、なかには「頭痛がするようになった」「目が疲れる」など、身体の不調を訴える人もいる。

脳がついていけない可能性

   「マネーポストWEB」は2022年2月14日、「動画『倍速視聴』に潜む落とし穴 『理解が浅くなり、記憶の定着度下がる』」という記事を公開している。

   そのなかで、「加藤プラチナクリニック」の加藤俊徳院長は、脳のスペシャリストとしての立場から、倍速視聴は目的によって使い分けるべきだと主張している。

   脳はさまざまな機能を分担する「脳番地」に分かれて働いているが、言葉を聞き取る「聴覚系脳番地」と、物事や言葉を理解するのに関係する「理解系脳番地」の働きが倍速再生についていけない可能性があるという。

   読売新聞は22年5月26日、「広がる『倍速視聴』 メリットと不安」を取り上げている。そのなかで、玉川大脳科学研究所の松田哲也教授(認知神経科学)は、倍速だと細かい情報を見落としてしまい、推察力などを習得する機会を無意識のうちに失うリスクがあると指摘。「倍速視聴は効率的だが、得られる情報量は減り、感情移入しにくくなる場合がある。その功罪を理解して使うことが大切だ」と助言している。

自律神経に影響

   NHKは23年1月30日、「あさイチ」で、「倍速視聴」について、かなり詳しく紹介している。「時短!でも体にいいの? "倍速視聴"を徹底検証」という内容だ。

   特に注目されたのは、「自律神経」との関係。

   普通のスピードでドラマなどを見ているときは、副交感神経が優位になり、リラックスした状態になる。それが、倍速視聴の場合は、交感神経が優位に。ストレスを抱えた状態になり、その結果、身体に様々な影響が出てくる可能性があるという。

   実験結果に基づいていたこともあり、この番組には反響が大きかった。ツイッターでは「倍速視聴」がトレンド入りした。

   社会のデジタル化が進み、便利さは増しているものの、一方で、様々なリスクも指摘されている。スマホについては、内外の専門家による研究も多く、『スマホ依存から脳を守る』(朝日新書)、『スマホが学力を破壊する』 (集英社新書)、『スマホ脳』 (新潮新書)など、利用者に注意を呼びかける本も出版されている。

   「倍速視聴」は、一般に広がってからまだ日が浅い。今後、専門家による研究が進むことになりそうだ。

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