2024年 4月 26日 (金)

「羽賀やれ、ジャニーズやめとこう」 芸能マスコミ衰退の深層
(連載「テレビ崩壊」第1回/芸能リポーター・梨元勝さんに聞く)

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   テレビがあえいでいる。相次ぐ取材のトラブルや捏造放送。広告の急激な落ち込み。地上デジタル放送への完全移行に伴う不安。そして、肝心の視聴率にも低下の兆しが見える。マスコミの中では「不沈艦」に等しいと思われたこの業界に、かつてないほど厳しい状況が出現している。テレビの将来はどうなるのか。全10回のインタビューシリーズで考える。

   初回は、「恐縮です!」でおなじみの芸能リポーター・梨元勝さんに、ワイドショーを初めとするテレビ芸能ジャーナリズムのあり方について聞いた。

――芸能マスコミの勃興期は1970年代だと言われます。当時と比べると、今は悪くなった?

梨元 とにかく今は、どうにもなりません。僕は週刊誌時代を含めると、芸能記者を41~42年やっています。テレビだけでも35年ぐらい。振り返ってみると、今の状態は、「出だしよりも悪い。だったらやらないほうが良かった」というぐらい悪いです。
   そもそもワイドショーに芸能ニュースが入ったのは、30年ほど前。当時、和田アキ子が前の夫と離婚したというニュースがあって。ちょうど僕は週刊誌からテレビに転身した直後でした。「取材しなきゃ」と思っていたのですが、和田アキ子に密着していたテレビクルーは離婚のことを何も知らなかった。僕が所属事務所に取材をしようとすると、「テレビが、そんなことをやるんですか!?」と驚かれました。そんな時代でした。

ジャニーズやバーニングは、タレントを守ろうと頑張る

ケータイなどで進めている取り組みについて「ノーモア地上波」と語る梨元勝さん
ケータイなどで進めている取り組みについて「ノーモア地上波」と語る梨元勝さん

――当時の芸能マスコミは、何を目指していたのですか。

梨元 雑誌の原点は「人間を追いかける」。スキャンダルで「飛ばす」ことは時にはあったのですが、「マンネリ化」の対極にあたるセンセーショナリズムを持ってやってきたんです。一方のワイドショー。芸能については週刊誌を解説するくらいだったのが、「自分たちで取材して、自分で伝えたい」となり、(午後のワイドショーの先駆けとして知られる)アフタヌーンショーで芸能がレギュラー化する、という流れができました。これに他の局が追随したんです。

――雑誌から転身してみて、テレビにどんな魅力を感じたのでしょうか。

梨元 テレビが雑誌と違うのは、「状況を映し出す」力があることです。例えばあるタレントさんの同棲が発覚して、自宅に直撃取材する。ドアから呼びかけるけど返事がなくて困っている中、カメラは玄関の植木と、隣の家でワンワン吠えている犬の顔にズーム・インする。活字にすると「何だこりゃ」ということになってしまうのですが、映像にすると、それなりに成立してしまいます。テレビでは、よく玄関で「ピンポンピンポン」ってやってますが、「取材してきました」という状況を示すための一種のアリバイ証明のようなものなんですね。活字が平面的なものだとすれば、音と映像があるテレビは立体的。それだけ人を引きつける力があるんです。それだからこそ、取材が活きる。
   週刊誌では、取材は「とにかく現場に行く」ことです。新聞みたいに支局がある訳ではありません。これをワイドショーに、そのまま持ち込んだんです。それで、ワイドショーは伸びてきた。ここまでは良かった。

――では、何が転機で暗転したのでしょうか。

梨元 ここまで話したようなことは、十分後輩に伝えてきたと思ってたんです。でもそうではなくて、テレビは大いなる勘違いをしている。テレビは偉くも何ともない。新聞やラジオなど媒体にはそれぞれ特徴があって、テレビにはインパクトがある。でもそれは「偉い」ということじゃない。ところが、ディレクターの様子を見てみると、どうも違う。例えばセーター。これって着るもんですよ。それを腰の周りで結びつける。河田町(お台場移転前のフジテレビ)には、実際に、そういう人がいたんです。日本人は油足なんだから、石田純一以外は靴下を履けばいい。なのに素足で靴を履いている。打ち合わせでは机の上に足を乗っけている。そんなことだから、色々な人につけ込まれるんです。

――テレビ局側の「気のゆるみ」のようなものをきっかけに、ワイドショーの活力がなくなった、ということでしょうか。

梨元 プロダクションも「何で梨元が来るんだ」と、その理由を懸命に学習した訳です。その結果、「事務所はタレントを守らないといけない。良い話は出して、悪い話は出さないようにする方法はないだろうか」。これが、最近問題化している肖像権問題などの発端です。
   逆に言うと、ジャニーズやバーニングなどの事務所は、タレントを守ろうとして頑張っているんです。例えば、ワタナベエンターテインメントの広報担当者は見事なもので、「羞恥心」の野久保直樹が深夜の1時半ぐらいにブログで「独立宣言」をしたときに、ケータイでやっている「梨元芸能! 裏チャンネル」で速報したのですが、すぐ「事務所が認めたものではない」という連絡がありました。この対応の早さ・瞬発力には驚きました。一日中ウォッチしてるんでしょうね。

マスコミは本来、受け手の方を向いていないといけない

――では、取材する側については、どのように感じておられますか。

梨元 本来、ニュースを伝える側からすれば、ニュースの肖像権は気にする必要はないのですが、最近は局の側から「これは肖像権、これは音事協…」と自主規制してしまっている。打ち合わせの場で、担当ディレクターが「音事協に入っていないところ、プロダクションが弱いところをやりましょう」という発言をするんです。そりゃ、僕もカンカンに怒りますよ。最近の例でも、「羽賀研二、どんどんやれ。草なぎ、ジャニーズだからやめとこう」となるんです。

――先日のSMAP草なぎ剛さんの復帰会見でも、特定マスコミしか出席が許されなかった上、「突っ込みが甘い」との批判がありました。

梨元 凱旋会見とか「奇跡の生還」じゃないんですから。お酒の「お」の字も出てこなかった。一方、スマップの番組では、キムタクが「おれたちは(逮捕は)2度目」との発言がありました。中居が止めようとすると、キムタクが言ったのは「包み隠すのはやめよう。それをやっていたら、SMAPの先はない」。あれは、「良く言った」と思いました。
   ところが、その直前に行われた記者会見は「凱旋会見」。なぜ、これが逆じゃないんでしょうか。情けなくなります。でも、怒られている側は、その理由が分からない。先輩から、やり方を伝授されているだけだからです。全く「取材」ということじゃないんですよ。
   記者が記者会見ばっかりに頼っているのもおかしい。本来は、記者が特ダネを抜いて、抜かれた側が「どうぞ取材してください」と、半ば開き直って開くのが記者会見なんです。これに疑問を持たなくなっている。このあたりに、もっと早く気づけば良かったと思います。岐路は、ここ10~15年ぐらいでしょうか。

――最近は、芸能人がブログで一方的に発表することも多いですね。

梨元 ブログで発表したのであれば、まずそれをストレートニュースで流して、その先をちゃんと取材すればいい話です。ただ、ブログを本人以外の声でナレーションを入れて読み上げているのには違和感を覚えますね。雑誌の内容を抜粋して読み上げるだけだったり…。本当に何も歯止めがないですよ。
   マスコミという「伝える側」は、本来は受け手の方を向いていないといけないのに、それがすっかり忘れ去られてしまっています。
   これは政治部も社会部も、同じような時があるかも知れません。よく「たかが芸能」と言われますが、「たかが芸能、されど芸能」。一般の報道などが抱えている問題が、芸能の分野でわかりやすい形で現れている。そういうことに過ぎないんです。

芸能ニュースサイトで生中継「それ、やりたいなー」

――以前から「キー局はもうダメだ」と仰っていますが、地方局についてはいかがですか。

梨元 名古屋テレビ(メ~テレ)と福岡放送(FBS)でレギュラーを持っています。地方局はやる気はあるのですが、どうしても東京に機材を出して取材、という訳にはいかない。週刊誌や新聞の引き写しということにはしたくない。でも、どうにかして(放送)時間を埋めないといけない。そうなると、僕が批判している「解説」の範囲にとどまってしまうジレンマはあります。大阪は「東京より自由。大阪はゲリラ」という話があって、一時期は良かったのですが、今ではすっかり吉本などのコントロール下です。いずれにしても、予算と距離が、どうにもなりません。

――地上波については、見通しは厳しそうですね。それでは、今後はどのような方向に活路を見いだしたいとお考えですか。

梨元 僕は「ワイドショーやめちゃえ!」って言ってますが、やり直せるとすれば、BSかネット。(現在「裏チャンネル」を運営している)ケータイでは画質に難があるのも事実なので、「PC向けのネットでワイドショーをやろう」という話も進行しつつあります。理想としては、日々取材する「梨元チャンネル」をネットやケータイで実現して、地方局などに「有料で配信するから受けてくれ」という試みをやりたいと思っています。スタジオをつくって、配信の時間も決める。
   「梨元チャンネル」では取材費は必要ですが、中継車などの「送り」の問題はありません。極端にいえば、交通費とカメラとPCが1台ずつあれば成立します。その分、大幅に身軽になります。

――現在でも、ケータイで「裏チャンネル」を運営していますね。月額315円の有料会員が5万人とも聞きます。

梨元 会員数は、公表してはいけないので推定にお任せします。次のステージが必要だと思っています。ハードの進化にあわせて、いかに人間の生身を伝えていくか、が大事です。伝え方は変わっても、伝えるものは変わりません。新メディアでは、ゼロからできることが魅力になります。BSや「梨元チャンネル」では、「ゼロからやってみようよ」という意気込みでやっています。でも、必ず、机の上に足を上げて打合せに臨むような人間が出てきます。ここで「ノーモア地上波」を目指すことが大事です。この反省さえきちんと押さえておけば大丈夫、という思いがあります。

――そういえば、マイケル・ジャクソンさんが急死した時、芸能ニュースサイト「TMZ」が、搬送先の病院から生中継をやっていましたね。

梨元 そうなの?それ、やりたいなー。ケータイにとっては理想の形なんだよねー。もうちょっとハードが進歩すれば実現出来そうですよね。

梨元勝さん プロフィール

なしもと・まさる 芸能リポーター。東京・中野区生まれ。法政大社会学部卒後、講談社「ヤングレディ」記者となる。1976年に芸能リポーターとして独立し、テレビ朝日「アフタヌーンショー」に出演。「恐縮です」の突撃取材スタイルで話題を集める。その後、テレビ朝日を中心に、ワイドショーに出演。2005年からケータイサイト「梨元 芸能!裏チャンネル」をスタートさせ、ネット媒体でも活躍している。著書多数。

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