2024年 4月 26日 (金)

気仙沼に今も残る巨大漁船どうする 「震災の記念碑化」に市民戸惑い

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   東日本大震災から2年にあたる2013年3月11日、テレビからは多くの特別番組が流れてきた。中継地として頻繁に登場したのが宮城県気仙沼市だ。

   津波で陸地に打ち上げられた巨大な漁船が、今もその姿をさらしている。徐々に復興へ向けて歩み出す気仙沼だが、この「震災の象徴」をどう扱うか、市民の間で戸惑いが広がっている。

「船がなくなったら誰も来なくなってしまう」

第18共徳丸の取り扱いをめぐり、市民の間で意見が分かれる
第18共徳丸の取り扱いをめぐり、市民の間で意見が分かれる

   第18共徳丸。全長約60メートル、総トン数330トンの大型巻き網漁船は、震災から2年が経過しても津波で流れ着いた場所に置き去られたままだ。J-CASTニュースの記者が2013年3月24日に現地を訪れると、多くの人がやって来てカメラやスマートフォンで次々に写真を撮っていた。観光気分の浮かれた雰囲気はなく、船体の前に設けられた簡易な祭壇に手を合わせる人も多いが、撮影をちゅうちょする様子はない。記者は1年前にも同じ場所に来たが、この時はほんの数人が車で来ては遠慮がちにさっとカメラを向けて、すぐに引き上げていた。時間の流れとともに人の意識も変わってきたようだ。

   船が打ち上げられた気仙沼市鹿折(ししおり)地区は、津波に襲われたうえに震災当夜には大火災が発生して、一帯が焼けつくされた。積み上がっていたがれきや、焼け焦げた車の残骸の山も、今ではすっかり片づけられ、震災後に建てられたと見られる一部の仮設の建物を除けば目の前には広大な「空き地」が広がる。

   第18共徳丸をめぐっては、震災や津波による悲惨な体験を風化させないためにも保存しようとの動きがある。一方で船を所有する水産会社は、4月にも解体する意向を市側に伝えた。菅原茂市長は2013年3月25日の会見で「保存を諦めたわけではない」と話したという。

   市民の間では賛否が分かれる。保存に気が進まない表情を見せたのは、佐々木洋一さん(72)。1年前に記者が当地を訪問した際にガイドを務めてくれた男性で、津波により自宅が全壊している。「うーん、どうだろう。(保存施設を)つくるのは簡単だけど、維持管理にどれだけお金がかかることか」。それ以上多くを語らなかったが、被災経験を呼び起こさせる大型船をいつまでも残しておきたくないのかもしれない。逆に、鹿折地区の高台に住む女性は「私はぜひ残してほしい」ときっぱり言い切った。「船がなくなったら、誰も鹿折に来なくなってしまうから」。

   皮肉なようだが記者が訪問した日、がらんとした光景が広がる鹿折で人が集まっていた唯一とも思える場所は、第18共徳丸の周辺だった。住民にとって、どんな理由にせよ「集客力」が見込めるものを安易に撤去しては、ますますさびれてしまうとの考えも一理ある。

大槌町の遊覧船は解体、南三陸町の庁舎は議論

1年前は津波の被害を受けた建物の多くが残ったままだった南気仙沼駅前(写真上)。同じ場所は空き地が広がる光景に変わっていた
1年前は津波の被害を受けた建物の多くが残ったままだった南気仙沼駅前(写真上)。同じ場所は空き地が広がる光景に変わっていた

   一口に被災者といっても、震災被害の度合いや現在の住環境は人それぞれだ。第18共徳丸の取り扱いをめぐる考え方の違いは、そういった事情から生まれるのかもしれない。

   他の被災地でも、見た人に強いインパクトを与える「震災のシンボル」があった。岩手県大槌町では、民宿の上に大型遊覧船「はまゆり」が乗りあげ、取り残されたままとなった。保存する意見も出たが、余震による落下の危険性があったため、船を所有する釜石市が早々に撤去に踏み切った。宮城県南三陸町では、防災対策庁舎が「骨組み」だけを残した姿で今もたたずんでいる。これも「モニュメント化」の動きがある一方、被災者の間では「見たくない」と取り壊しを求める声も上がっており、決着がついていない。第18共徳丸と同様のケースだ。

   震災から2年、気仙沼の市街地では随分「片づけ」が進んだ。1年前は崩れ去った鉄筋ビルや、スクラップとなった乗用車の山、ボロボロに壊れたバスが何台も目に入ってきたJR南気仙沼駅前も、「何もなくなっちゃったから、どこを運転しているか分からなくなるんですよ」と佐々木さんが苦笑するほど「整理」され、むしろ何もなくなった印象だ。

   あちこちで道路のかさ上げのため盛り土作業が始まり、低層の土地に工場を誘致して「工業地帯」とする、といった計画も聞こえてきた。だが、実現に向けて具体的な作業が本格化するのはこれから。今はまだ、生活感のない殺風景な土地ばかりが目につく。

   その中で「巨体」をさらす第18共徳丸は異様な存在感だ。震災のつらい記憶を葬るか、永遠に忘れないために残すのか、住民はまだ答えが出せていない。

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