「日中偶発軍事衝突」は起こるのか(10)
国家の論理振りかざすと戦争につながる 尖閣諸島は「東アジアの共有地」にしたい
「琉球独立論」松島泰勝氏に聞く

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   尖閣諸島は、沖縄県石垣市に属している。中国との間で領有権問題はないというのが日本政府の立場だ。地元では日本の立場をどうとらえ、日中関係をどうすべきだと考えているのか。

   石垣市生まれで、琉球独立を目指す、龍谷大学教授の松島泰勝さんに尖閣問題に対する「異論」を聞いた。

自衛隊配備計画めぐり島が二分され、親族が対立して住みにくくなった

尖閣諸島は「コモンズ」にすべきだと話す龍谷大学経済学部教授の松島泰勝さん
尖閣諸島は「コモンズ」にすべきだと話す龍谷大学経済学部教授の松島泰勝さん

―― 2012年に尖閣諸島を国有化したのを機に、周辺海域の緊張が高まっています。真っ先に影響を受けるのが琉球だとも言えますが、この国有化をどう評価しますか。

松島: 国有化から急に緊張感が高まりました。それまでは、尖閣をいわゆる「棚上げ」状態にして、その扱いを将来の世代に委ねることになっていました。つまり、尖閣を争点にしないことで、平和が維持されていたわけです。ですが、国有化を通じて「尖閣諸島は日本領で、日本国の持ち物だ」と世界に、特に中国に宣言した形です。
   それ以降、島嶼(しょ)防衛や自衛隊基地配備計画が進み、日本最西端の与那国島でも配備受け入れをめぐって島が二分されました。同じ島の中で親兄弟、親族が対立することになり、非常に住みにくくなり、人口が減るという結果を招きました。このようなことは、石垣島や宮古島でも起こりうると思います。これらの島々が戦場になる恐れも高まります。そういう危機感を持っています。

「また戦争が来る」という思いを強く持っています

―― 琉球では、国有化は「余計なことをしてくれた」と受け止められているわけですね。

松島: 「余計なこと」でもありますし、国有化の意志決定が琉球の人々の生命や財産、安全を念頭に置いて行われたのか、きわめて疑問です。国有化で中国、台湾が反発して緊張が高まることは予想されていたわけで、琉球人の日本政府に対する信頼を、さらに損ねる結果になりました。
   これは米軍基地とも密接な関係があります。琉球人は米軍基地がなくなることを望んでいますが、日本政府の「尖閣周辺の緊張が高まる→先島防衛が必要→日米安保の強化→辺野古移設を進める」といった理屈で、尖閣諸島の緊張を理由に米軍基地の存在を正当化する動きを強く懸念しています。ゆくゆくは戦争につながることも恐れています。
   なぜ琉球人が戦争におびえるかというと、実際に70年前に、多くの住民が生活している島において、日本で唯一の地上戦を経験しているからです。「軍隊は住民を守らない」という本質を思い知らされています。島で戦争が発生すると、周りは海に囲まれているので逃げ場がありません。戦闘に住民が巻き込まれたり、日本軍に殺されたり、集団死を強要されたりした記憶が今でも継承されています。「また戦争が来る」という思いを強く持っています。こうした琉球人の記憶と、日本の内地(本土)の人との認識には、本当に大きな隔たりがあります。温度差どころではなく、「認識の壁」があります。

東アジア共有の財産として利用するような新たな知恵が必要

―― そうは言っても、現実に国有化が完了し、緊張が高まっています。今から何かできることはあるのでしょうか。下地島空港などに自衛隊を配備して「国境防衛」を強化すべきだとの声も強い。仮に配備をすべきでないとすれば、中国とはどう付き合うべきでしょうか。

松島: 尖閣諸島の領有権は、中国以外にも台湾が主張しています。もちろん日本も主張しています。まずは平和的な解決を模索すべきです。抑止力で均衡を保とうという考え方では、何かのきっかけで紛争に発展するリスクが残ります。やはり話し合いです。
   尖閣諸島についても「これは日本のものだ」と国家が占有するのではなく、東アジア共有の財産として利用するような新たな知恵が必要です。従来の国民国家の論理を振りかざし合うだけでは戦争につながってしまいます。原油は共同開発し、無人島を東アジアの平和のための空間として活用すべきです。実際、すでにそのような提案も出されています。

―― 「理想論」「夢物語」と批判されたりはしませんか。

松島: 確かにそういった意見も内地(本土)からはあります。だからこそ「琉球独立論」が出てくるのです。琉球の人口は日本全体からすればわずか1%。どんなに反対しても、結局は数の力で「尖閣を国有化する」「自衛隊を配備する」ひいては「戦争する」といったことが決まり、琉球人が犠牲になることになります。「だったら日本から分かれて平和的に問題を解決しよう」という選択肢を考え始めています。

偶発的な衝突で被害を受けるのは琉球人

―― 尖閣諸島については、日本政府は「領土問題は存在しない」という立場です。

松島: 尖閣の状態を再び「棚上げ」にすることを日本政府が検討するのであれば琉球人の考え方も変わるでしょうが、その可能性は皆無といっていい。そうであれば、琉球の人の生活や財産を守る方法として、独立する選択肢も真剣に考え、行動する必要があります。独立した方が「島を東アジア共有の財産にする」「東アジアを平和な空間にする」といった構想が実現しやすくなると考えています。今の状況では、日本も中国も台湾も「自分のもの」と主張するでしょうし、相手に軍事的影響力を及ぼして、実効支配をしようとしている。その時に偶発的な衝突が起こったときに被害を受けるのは琉球人なので、そうならないような発想が必要です。

―― 仮に独立しない場合、現行の沖縄県としてはどういったことが可能でしょうか。「一番まし」なシナリオはどうなりますか。

松島: 「元の状態に戻して島については争点にしない」というあたりで日中合意できるのが望ましいと思います。棚上げして、みんなのもの、「コモンズ」にする。

周辺の大国の力借りて独立するのはだめ

―― 中国共産党機関紙の人民日報や、同系列の環球時報は「独立を支援すべき」という趣旨の論文を掲載しました。これは独立運動にとって追い風ですか。それとも警戒すべきですか。

松島: 「琉球人による、琉球人のための」琉球独立であって、主体は琉球人です。琉球人以外の民族が支援するような筋のものではありません。あくまで琉球人自身が努力して考えて研究して実行に移すべきだというのが独立運動の柱です。中国側が言う「支援」の形がどのようなものであれ、この方向性は変わりません。
   中国の論文では「琉球の政治的な地位を再定義すべき」だとしています。つまり、沖縄県という日本の一部を再定義すべきだということです。この「再定義」する主体が問題です。中国政府であってはならず、あくまでも琉球人でなければなりません。自己決定権を持っているのも琉球人です。
   1972年日本復帰前に唱えられていた古い琉球独立論では、場合によっては米国や台湾の後ろ盾を期待する声もありました。今では皆無といっていい。周辺の大国の力を借りて独立を実現しようとするのはだめです。パラオをはじめとする太平洋の島々のように、人口が少なくても、大国の支援なしに独立できたケースはいくらでもあります。他国に依存するのは独立の精神に反します。

独立後は「アジアのジュネーブ」になりたい

―― あらゆる国から距離を置く必要があるわけですね。

松島: 独立した場合は永世中立を目指し、あらゆる国と対等な外交関係を結ぶことを求めています。

―― 独立した場合、日本、琉球、中国、台湾といった国や地域の間の関係は、どのように変化するのでしょうか。琉球は、日本と中国のクッションになるのでしょうか。

松島: 琉球独立を求めている背景はいくつかありますが、第1は米軍基地をなくすためには独立が最も有効だということです。繰り返しになりますが、1%の人口しかない琉球人が「基地はいらない」と言ってみたところで、多数決の原理のもとでは基地は押しつけられたままです。現状の日本政府は日米同盟堅持を打ち出しています。このまま日本政府が「日本の抑止力は米軍基地に依拠しており、米軍基地で日本が守られている」という考え方を続けるのであれば、琉球独立後は琉球内の米軍基地は日本本土に移ることになり、本土の自治体が、これまでの琉球と同様に米軍基地を抱えることになります。
   中国を仮想敵国として位置づける限り、日中関係は改善しないでしょう。日本政府や、日本国民の大部分の中国に対する見方や考え方が変わってはじめて日中関係は改善する。ただ、琉球は非武装中立を目指しており、それが実現した場合は、琉球が国連のアジア本部や世界の人権機関が拠点を置くなど、ジュネーブのような場所になればいいと考えています。平和を志向する人や機関が集まって、会談をして日中の緊張緩和が期待できます。アジアの中のジュネーブ、平和を作る場所として琉球が位置づけられればいい。

武力の強化という方向はゆるめるべき

―― 松島さんの琉球独立論では、「米軍基地が残った形での独立はありえない」と位置づけています。そうなると在沖米軍は岩国や硫黄島が引き受けることになり、対中戦略の大幅な見直しが迫られそうです。

松島: 日本政府は日中関係を力の均衡による「積極的平和主義」で乗り切ろうとしているように見えます。これが続けば、「日本が核兵器を持つ」という議論にもつながりかねません。日本が本当に日中関係の改善や東アジアの平和を願うのであれば、武力の強化という方向はゆるめるべきです。今の状態は集団的自衛権の実現、憲法解釈の変更など、武力、戦争を前提に、抑止力に基づいた「平和」に大きくかじを切りすぎています。中国も海洋大国を目指しており、同様の傾向です。お互いがしのぎを削っていては、両国の緊張は解けません。しかも、琉球は日中がしのぎをけずった結果、最も犠牲になりやすい場所です。そうならないための独立が必要です。

尖閣は「みんなのもの」にするように中国を説得する

―― 非武装を標榜する琉球が、独立後に中国や台湾と向き合った際、関係はどう変化するのでしょうか。

松島: 沖縄県は日本の西端で、その先には国境線がそそり立っています。想定される変化を、まず経済の面から説明します。与那国島は日本の最西端で非常に物価が高い。台湾よりはるかに遠い那覇から石垣島を経由して物資を持ってきているからです。独立すると、与那国は台湾と行き来ができて物価が下がる。
   中国との関係を見ると、今でもマルチビザ制度を通じて、富裕層が琉球を経由して日本に来ています。すでに全日空(ANA)が那覇空港をハブ(拠点)に、日本本土とアジア各地を結ぶ貨物路線を運航していますが、独立にともなって、こういった経済的なつながりがさらに強まることを期待しています。
   島同士は互いに行き来できたほうが活きてきます。島が衰退するのは、人工的に引かれた境界線が原因です。太平洋の島々では、欧州諸国が引いた人為的な線によって島民が島に閉じ込められ、孤立化するわけです。琉球は独立したとしても、新たに国境線を引くのではなく、むしろ国境という意味での「ハードル」を下げたい。これまでの近代国民国家とは違う国のあり方、大陸国家ではない島嶼国家だからこそできることを追求したいです。今の日本政府のもとでは、それは不可能です。

―― 尖閣周辺はどう変化しますか。安全保障面の課題は山積しています。

松島: コモンズにするように琉球側から提案して説得します。それが実現したら、密漁船が来ないような国際的な条約も取り決めます。「東アジアみんなのもの」にするというのは、琉球国だからこそ可能なことです。

―― ルール作りをするとなると、それが実効性のあるものにするのは大変な作業ですね。最近の事例を見ても、1996年に交渉が始まった日台漁業協定は、合意に至ったのは2014年1月のことでした。

松島: 1996年から琉球人は国連の各種委員会に対して毎年のように働きかけています。国連をいかに活用するか、琉球人は経験を蓄積しています。ネットワーク作りも実績がありますし、独立後もそのような経験が活かせると思います。元来、国際的なルール協定作りは琉球人が長けているところです。なぜならば、琉球人はかつて、600年にわたって琉球国という国を運営してきたからです。当時も、周辺国との協定をまとめあげた優秀な外交官がいました。

松島泰勝さん プロフィール

まつしま・やすかつ 龍谷大学経済学部教授、琉球民族独立総合研究学会共同代表。1963年沖縄県石垣市生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。専門は島嶼経済。在ハガッニャ(グァム)日本国総領事館専門調査員、在パラオ日本国大使館専門調査員、東海大学海洋学部助教授等を経て現職。2007年「NPO法人ゆいまーる琉球の自治」を立ち上げ代表を務める。2013年5月15日「琉球民族独立総合研究学会」の設立メンバーとして同学会共同代表就任。著書として『琉球独立論』、『琉球独立への道』『琉球の「自治」』『ミクロネシア』等、多数。

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