2024年 4月 27日 (土)

読売、産経が朝日のシリア取材「批判」 外務省は渡航見合わせ強く求めていた

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   過激派組織「イスラム国」をめぐる取材で、朝日新聞が同業者から批判される形になっている。外務省が危険だとして退避を呼び掛けているシリア国内に複数の記者が入って記事を掲載したためだ。かつて天声人語を担当した記者が、ツイッターで「政府広報じゃないんだから、もっとジャーナリズムしませんか」などと煽ったこともあって、朝日批判が加速している。

   ただ、これまでも朝日以外のメディアが、外務省が退避を呼び掛けている地域から記事を書くケースは多々あり、こういった批判が結果として自らの手足を縛ることになる可能性もありそうだ。

「移動経路に『イスラム国』の影響が及んでいないことを確認」と説明

朝日新聞は連日シリア発の記事を掲載している
朝日新聞は連日シリア発の記事を掲載している

   朝日新聞では、イスタンブール支局長が1月24日朝刊の「時時刻刻」をシリアの首都、ダマスカス発で執筆したのに続いて、翌25日の外報面ではダマスカス市民の声を伝えた。31日の朝刊1面では、イスラム国から奪還されたばかりのシリア北部の都市、アインアルアラブ(クルド名:コバニ)のルポが掲載された。執筆したのはカイロでの駐在経験が長いニューデリー支局長だ。2月1日の朝刊1面トップでは、イスタンブール支局長がシリア北部の都市、アレッポまで移動してイスラム国支配地域から逃れてきた人々の様子を報じた。

   2月1日の記事では、取材環境を、

「情報を精査して移動経路に『イスラム国』の影響が及んでいないことを確認した」
「アレッポでの取材は朝日新聞が独自で行った。ヘッロ市長の取材のみ、シリア情報省経由で実現した。いずれの取材も情報省の職員が立ち会ったが、検閲は受けていない」

と説明している。

   朝日記者のシリア入りは、読売新聞が1月31日夕刊、産経新聞が2月1日朝刊で伝えている。読売記事では、外務省が1月21日の段階で「日本新聞協会などに対し、シリアへの渡航を見合わせるよう強く求めていた」と指摘。産経記事では、

「外務省幹部は『記者も当事者意識を持ってほしい。非常に危険で、いつ拘束されてもおかしくない』と強い懸念を示した」

などと解説しており、両紙の記事では朝日の取材が望ましくないという前提になっている。

   両紙の報道について、07年から13年まで天声人語を担当したことでも知られる冨永格特別編集委員が、ツイッターで

「日本国の要請に逆らって危険地帯に立ち入るとはけしからん、ウチは我慢してるのにというフラストレーションがありあり(笑)。政府広報じゃないんだから、もっとジャーナリズムしませんか。もちろんリスクを慎重に吟味した上でね」
「読売に抜かれてるぞ、がんばれ産経」

と揶揄したことへの反発もあって、ネット上では朝日批判が広がっている。

シリア全土に最も危険度高い「退避勧告」出たのは2011年5月

   読売記事で指摘されているとおり、外務省は1月21日に

「いかなる理由であっても貴社関係に日本人報道関係者のシリアへの渡航を見合わせるよう、強くお願いします」

とする要請文を霞クラブ(外務省を担当する記者クラブ)加盟社、日本新聞協会、東京写真記者協会、テレビ・ニュース映画協会、日本雑誌協会に送っている。外務省がシリアに関連して報道機関に注意喚起するのは、これで11年5月以降10回目だ。

   外務省が出している渡航情報では、「十分注意してください」「渡航の是非を検討してください」「渡航の延期をお奨めします」「退避を勧告します。渡航は延期してください」の順に危険度が高くなる。シリアについては、2011年4月から全土で最も危険度が高い「退避を勧告します。渡航は延期してください」が出ている。

   そういった中でも、各社はシリア国内での取材を続けてきた。例えば読売新聞は14年6月30日の朝刊で、シリア外務次官との単独インタビューをダマスカス発で掲載。事務次官はイスラム国対策として「イラクの軍や情報機関と連携を強化した」などと語った。産経新聞も、14年12月にはダマスカス発の共同通信配信記事を掲載している。

   単純に「退避勧告が出ている=記者を退避させる」とした場合、朝日新聞のシリア入りを批判的に報じたことと、自社紙面にダマスカス発記事を載せることとの整合性が問われることになりそうだ。

   こうした中で、独自の方針を打ち出しているのがフランスのAFP通信だ。14年9月23日付の「記者コラム」によると、同社はダマスカスに支局を持つ唯一の国際通信社で、シリア人記者が常駐している。政府が支配している地域には記者を送ることがあるが、13年8月以降は、「危険すぎる」として、反体制派が支配している地域に記者を送ることをやめた。

   日本のメディアでは、社員を取材に出せない地域はフリージャーナリストがカバーすることはしばしばだが、AFPでは、

「フリーの記者がシリアに行って取材してきた情報も写真も映像も、私たちは使わない」

という方針を定めている。

菅官房長官は朝日批判避ける

   菅義偉官房長官の2月2日午前の会見では、

「一部報道が危険区域に入っている。取材を続けているという現状はかなりリスクをともなう」

という質問も出た。朝日新聞を念頭に置いているのは明らかだ。

   菅官房長官は、1月30日付でトルコとシリアの国境地帯についても退避勧告を出したことを指摘しながらも、

「政府としては、現在の法律の中でできる限りの喚起は行っていきたい。先般もトルコの国境で報道陣の皆さんに対して、きわめて危険な状況でありましたので、退避、危険注意、そういうものも喚起したところ」

と述べ、直接的な朝日新聞批判は避けた。国境地帯は、イスラム国からの人質が解放される際に利用されてきたルートで、多くの報道陣が取材拠点にしてきた。退避勧告が出たことで、多くのマスコミは撤収を急ぐことになる。

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