ミニッツ・シンキング

スパルタ教育本家

市民資格も命がけ

卒業検定Aコース 特殊部隊

義務教育の最後に、市民資格を得るための、さまざまな卒業検定がある。
リュサンドロスさんはAコース。1か月間の「クリュプテイア」配属だ。これは将来有望な者だけの特殊部隊で、秘密のベールに覆われている。
ウワサでは、単独行動で昼は山野に身を隠し、夜間に活動するらしい。任務は、奴隷のなかで将来反乱を指導しそうな者を暗殺することらしい。

卒業検定Bコース チーズ争奪戦

町の東にある、アルテミス・オルティアの神域。ここも、検定コースの舞台だ。
課題はチーズ争奪戦。神殿の祭壇に山と積まれたチーズを、守る側と奪う側とに分かれて争う。これには、全ギリシャから観戦を楽しむ人が訪れた。だがやる方にとっては楽しいものではない。 観客の目は、僕らの戦いぶりを厳しくチェックしている。守る側は本気で鞭をふるって「死守」し、必ずや流血の争奪戦になるのだ。

キケロは見た「鞭打ちの儀式」

卒業検定のチーズ争奪戦は、後に形を変え、鞭打ちの儀式になりました。
誇り高くどこまで苦痛に耐えうるか…これもギリシャ中から訪れた観客がチェックするので、みっともない声などはあげられなかったことでしょう。最後まで音をあげず、皆に賞賛されつつそのまま息絶えた若者もおり、彼の母親は息子のことを自慢した、という言い伝えもあります。
紀元前2世紀になり、ローマの属州となってかつての勢力を失ったスパルタでも、鞭打ちの儀式は行われていました。しかしそれは、観光イベント的なものになってきます。共和政ローマ期に、政治家・文筆家・哲学者として名をはせたキケロ( B.C.106年- B.C.43年)も、この儀式を見物しています。

卒業検定Cコース エピスキュロス

「エピスキュロス」というボールゲームもある。
夏祭りの季節に、14人ずつのチームが優勝を争うもので、市民は観戦を楽しみにしている。
1つのボールを巡って2チームが競うサッカーに似たゲームだが、手を使って「暴力的プレー」も繰りひろげるのだ。この試合は重傷者や、時には死者も出るくらいワイルド。戦闘モード全開の球技だといえよう。

スパルタ教育基本法

日本の教育基本法 第一章 教育の目的及び理念 第一条 には、
「教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない」
と記されています。
もしもスパルタにも教育基本法があったら、その目的及び理念にはおそらく、
「教育は、兵士の完成を目指し、質実剛健な国家及び社会の形成者として必要な忍耐力と服従心を備えた心身ともに強い市民の育成を期して行われなければならない」
などと書かれていたことでしょう。そしてさらに、「20歳までにこの教育を終えないと、市民資格を失う」と続きます。そこにはこの章で紹介した、過酷な通過儀礼も含まれているのです。

市民資格をゲットしよう!

聞くところによるとアテナイでは、18歳になると2年間の辺境防備の任務があって、それを果たすと、市民資格がもらえるという。
スパルタでは、市民となり、参政権を手にするには、命がけの検定をくぐり抜けなければならないのだ。リュサンドロスさんは、特殊部隊をやり抜いた。自分にもその日が来る。どのコースになるのだろう。
がんばれ自分!

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