ミニッツ・シンキング

美術はこんなに面白い

西洋と日本 考えの違い

生涯学習センター講師 伊藤 淳

「衣服」 色・柄・質をまとう

もう少し、西洋と日本の考え方の違いをみていきましょう。
まず、絵画の人物を飾り、色・柄・デザインも多様な「衣服」について。
手ざわりやボリュームの違い、着ることで際立つ立体感を、画家たちは、どう捉えたのでしょうか。

再びダ・ヴィンチ vs 菱川師宣


レオナルド・ダ・ヴィンチ
『 衣服の習作 』(1480年ごろ)
© Web Gallery of Art

菱川師宣
『 見返り美人 』 部分
Wikimedia Commons

ダ・ヴィンチは、白と灰色の色調を見事に使い分けてボリューム感を出しています。いっぽう、師宣の着物は線だけを入れ、模様もパッチワークのように平面的に置いています。日本では絵画も、まるで《行間を読む》ことを前提に表現されるようです。

閉じる
閉じる

「空間」見たまま?あるまま?

日本画と西洋画には、空間の描き方に、大きな違いが見られます。
位置を固定して、そこから見えるように描くのか、視点を変えて、実際そこにあるべき形で描くのかにより、構図の作り方が異なります。

スパルタの父


レオナルド・ダ・ヴィンチ 『 受胎告知 』

『 源氏物語絵巻(竹河) 』
(12世紀)徳川美術館 Wikimedia Commons

『 受胎告知 』 は、空間要素を1点に集める一点透視図法で構成されています。
いっぽう日本の絵巻は、縦書き文字のように右から左に巻きながら動き、視点が固定されません。屋根をあえて描かない「吹き抜け」構図も特徴です。やはり《行間》を読むのが前提のようです。

国宝。二人の姫君(左部分)が桜の木を賭けて碁を打っている場面。
そこに登場している人物の顔は線を引いただけの目と鼻で表現されている「引目鉤鼻」になっている。
閉じる
閉じる

「庭」 自然と人工の融合

日本でも西洋でも、庭は人の手を加えて造ります。
どちらも美しさを念頭において造られますが、伝統的な庭を見ると、両者にはそれぞれ異なった主張があるように思えます。

ヴェルサイユ vs 龍安寺


ヴェルサイユ宮殿 庭園 』
(17世紀)パリ Wikimedia Commons

龍安寺石庭』
(15世紀)京都 Wikimedia Commons

平面幾何学的な庭園は、主にフランスで発達。形が明確で、自然に対する人間の優位性を見せつけるかのようです。対して、日本の庭は不定形。見る人それぞれが、仙境の思いにふける余地があります。

1682年にルイ14世が建てたパリ郊外の宮殿。
核心地域 1070 ha・緩衝地域 9467 haの広大な庭園は、
アンドレ・ル・ノートルによって造られた。
世界遺産に登録されている臨済宗妙心寺派の禅寺。
1450年に創建され、特に石庭(幅22m、奥行き10m)で知られる。
閉じる
閉じる

「部屋」 広い狭いは別として

建築様式の違いもありますが、応接間、居間など部屋の内部の作り方には、西洋人と日本人の考え方の違いが顕著に表れています。
伝統的な部屋を比較してみましょう。

ピッティ宮殿 vs 慈光院


ピッティ宮殿 』 (15世紀)
フィレンツェ Wikimedia Commons

三溪園 『 春草廬 』 (桃山時代)横浜 J-CAST

板絵・壁画が壁を埋めつくすピッティ宮殿。いっぽう、「無」の空間に一輪の花がアクセントとなる茶室。 この違いは、饒舌な主張の文化と、 《行間》で伝えようとする文化の違いのようでもあります。

ルネサンス様式の宮殿で、フィレンツェの銀行家ルカ・ピッティが建造を始め、
16世紀にフィレンツェ大公コジモ1世が買収。
現在は、パラティーナ美術館をはじめ、複数の美術館を併設。
広大なボーボーリ庭園もみどころ。
桃山時代の建築といわれる、重要文化財。春草廬は茶室内に九つの窓があることから、かつて"九窓亭"と呼ばれていた。三畳台目(さんじょうだいめ)の小間茶室は、織田有楽斎の作品と伝えられている。
閉じる
閉じる
西洋と日本 考えの違い |
もどる すすむ 前へ 次へ
Copyright (c) Kamakura Women's University. × J-CAST. Inc. 2011. All rights reserved.