ミニッツ・シンキング

美術はこんなに面白い

勤勉で万能な天才

鎌倉女子大学 生涯学習センター講師 伊藤 淳

①髭の『自画像』

レオナルド・ダ・ヴィンチの作品を、クイズを交えて鑑賞しましょう。
まず第1章でご覧いただいた『自画像』。
「この世で最高の美男子」と言われた面影は、いま一つ…でも、眼光鋭く、エネルギーが感じられますね。
ところでこの絵には、彼の「ある特徴」がたいへんよく表れているのです。

絵に表れた作者の特徴は?

1.ベジタリアン
2.左利き
3.筆が速い
答える

正解は2.左利きです。
画面の左側、髪のあたりで、左上から右下へと斜めに細かく線が描かれているのがわかります。これは、左利きの自然な描き方。右利きの場合、描線は逆方向(右上から左下)に流れます。

正解
不正解

②2つの『岩窟の聖母』パリ版

1483~86年頃の作品、『岩窟の聖母』。ミラノの「無原罪の御宿り」同信会の依頼で制作されましたが、代金の支払いで裁判となり、この作品自体は、実は納品されていません。現在、パリのルーヴル美術館が所蔵しています。
人物が三角形の中に配置され、それぞれ観る者の視線を誘導しています(矢印)。

②2つの『岩窟の聖母』ロンドン版

後にミラノに納品された『岩窟の聖母』は、こちら。1491~1508年頃、レオナルドの指揮で主にデ・プレディス兄弟が描いたと言われ、現在、ロンドンのナショナル・ギャラリーが所蔵しています。
先ほどの「パリ版」とほぼ同じに見えますが、色あいの他にも、どこか少し変わったように感じませんか?

変わったところはどこ?

ロンドン版の変更点を見つけましょう。正解は画像をクリック!

閉じる

ロンドン版、ここを変更

パリ版ではあえて描かなかった聖なる存在を示す光輪が、マリア、イエス、ヨハネに。

マリアの恩寵の手をさえぎらないよう、天使の手が引っ込められました。視線の向きも異なります。

葦の十字架(アトリビュート)を持たせ、洗礼者ヨハネであると示しています。

アトリビュート(持物:じもつ)は、登場人物が誰かを特定する持ち物です。「あの人は、背番号3の巨人軍のユニフォームを着ているから、長嶋茂雄だろう」と、見る人に思わせるようなもの。

②2つの『岩窟の聖母』ロンドン版

ミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラッツェ聖堂。その食堂の奥では、今もイエスと12人の使徒がテーブルについています。
『最後の晩餐』(1495~98年頃)はまるで、ここから続く空間のような壁画です。
20世紀末に終了した大規模修復作業で、後世の度重なる描き直しも除かれました。 もう少し近づいてみましょう。

通常、壁面にはフレスコ画技法が用いられますが、
レオナルドは板絵に使う油性テンペラという技法を用いました。
その結果、顔料が壁面に十分固着せず、剥落(はくらく)を招いていました。

空間はここから広がる

一点透視図法で描かれていますが、消失点はどこでしょうか。

空間はここから広がる

放射線が集中するのはキリストの頭部。絵をクリックすると、消失点を拡大表示します。

矢印の先に釘の跡が見えます。ここが消失点です。
中央に三角形の形で座るイエス。そのこめかみに釘を打ち、紐を引いて線を描いたと思われます。

閉じる

弟子たちのざわめきを想像


イエス:「あなたがたのうちの1人がわたしを裏切ろうとしている」
絵をクリックして当時を再現!

閉じる

空間はここから広がる

1503~05年の作品『モナ・リザ』。ルーヴル美術館では『La Joconde(ラ・ジョコンド)』という名前で展示しています。
過去、盗難にあった『モナ・リザ』は、1974年に日本で展示された際には、50億円もの保険がかけられたそうです。
一見自然な姿に見える彼女。実は、解剖学的にかなり無理なところがあるのです。

閉じる

いったいどこが無理?

1.右目
2.左肩
3.右手
答える

正解は2.左肩です。
左肩の肩甲骨(ここをクリック)は、もっと上に隆起しているはず。これでは、肩が無く不自然です。しかしレオナルドはあえて形を変え、なだらかにヴェールで覆いました。なぜでしょう。

正解
不正解
閉じる

自然を超えた優美さ

もっと高いはずの肩甲骨をなだらかに描いたのは、安定感のある三角形構図に仕上げるため。時に解剖をおこない、絵を真実に近づけようとしたレオナルドですが、同時に、真実を超えた優美な表現も求めていました。
彼は計算された三角形構図を、他の肖像作品でも繰り返し使っています。そしてそれをすぐにまねたのが、ラファエロでした。

3章まとめ

計算された構図、観る者を独自の世界に誘導する構成。レオナルドの作品は、いかがでしたか。次章の巨匠は、ミケランジェロ・ブオナローティです。

勤勉で万能な天才 |
もどる すすむ 前へ 次へ
Copyright (c) Kamakura Women's University. × J-CAST. Inc. 2011. All rights reserved.