ミニッツ・シンキング

美術はこんなに面白い

神から愛された男

鎌倉女子大学 生涯学習センター講師 伊藤 淳

①5.17m 『ダヴィデ像』

4章は「神から愛された男」ミケランジェロ。彼の彫刻作品から見ていきましょう。
フィレンツェ共和国のシンボルとして作られた、5mを超す大理石像の青年。旧約聖書でイスラエル王となるダヴィデが、まだ羊飼いをしていた頃の姿です。
写真をクリックしてみましょう。ふだんは見られない正面からのアップが表示されます…おや? ダヴィデの瞳が…気がつきましたか?

19世紀後半までフィレンツェのシニョーリア広場にありました。
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このハートマークは?

1.単なる瞳の輝き
2.恋多きダヴィデの象徴
3.作者のあるメッセージ
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正解は1.単なる瞳の輝きです。
ミケランジェロは、眼球中央の両サイドを深く彫り込んで、太陽光による影を作りました。この影が瞳の輝きを演出したのです。シニョーリア広場で、人々は背の高い像の顔を見上げ、時と共に変化する瞳の輝きと影を感じ取ったことでしょう。

正解
不正解

無駄に立派な頭じゃない

「ねえ、ダヴィデってイケメンだけど、ちょっと頭デカくない?」…はい。実は、意図的に大きく作られています。身長5mのダヴィデを見上げたとき、一番バランス良く感じる大きさなのです。そして視界に入らない頭頂部は、深彫りせず、粗削りに仕上げられています。
ところで彼、眉間に皺を寄せて、誰かをにらみつけていますね。

特徴その3 マニエリスム

1.不実な恋人
2.羊を狙うオオカミ
3.敵の兵士
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正解は3.敵の兵士です。
膠着(こうちゃく)状態の対ペリシテ戦。イスラエル軍の兄に食料を届けに来た羊飼いのダヴィデは、敵の兵士ゴリアテの挑発に奮起し、対戦を決意します。この彫刻は、敵を眼中に収め、これから石の一投で打ち倒そうと踏み出すところです。

正解
不正解

手は口ほどに物を言う

この像は、手も若干、大きめに作られています。
正面から観ると脱力しているようですが、ベルトの端をつかんだ右手は、背中側の小指に力がこめられています。
曲げられた手首、甲に浮き出た静脈…これから巨漢の敵と対決しよう、というダヴィデの緊張感と興奮状態が伝わってきます。

今まさに、攻撃開始

地面を踏みしめた右足は、筋肉に緊張が見られます。この軸足を、後ろから木の幹が支えています。やや開いた左足は軽く地面に触れ、ゆったりバランスをとりながら、踏み出そうとするようです。 ダヴィデは今、攻撃モード。
ミケランジェロは立像としては難しいコントラポスト(contrapposto)という姿勢を用い、緊張の瞬間を大理石に刻みました。

左右非対称でありながら、調和や均衡の取れた表現手法。
ダヴィデは片脚に体重がかかり、胴体や、肩と腰の軸がよじれています。
ここからゆったりした印象や動きの変化が醸し出されます。

②なぜ喋らない!『モーセ像』

ミケランジェロは1505年、ローマ教皇ユリウス2世から霊廟モニュメントの制作を依頼されました。中央に座るのは、旧約聖書のモーセ。その顔は、ユリウス2世の肖像とも言われます。
表現のリアルさで、最高傑作に数えられるモーセ像。ようやく完成したとき、ミケランジェロはこの像に向かい「なぜ喋らないのだ!」と思わず叫んだ、という逸話があります。ところで…

当初40体以上の彫刻群で制作する予定でしたが、随時縮小され、
現在の7体(モーセ、ラクエル、リア、法王ユリウス2世、聖母子、巫女、預言者)
になりました。
旧約聖書の『出エジプト記』などに現れる、
紀元前13世紀ごろ活躍したとされる古代イスラエルの民族指導者。
シナイ山で神から「十戒」の石版を授かったといわれます。

この頭の突起は?

1.頭飾り
2.角(つの)
3.輝く光
1503~72年。フィレンツェ近郊のモンティチェリ出身。 『 十字架降下 』 のポントルモに学ぶ。トスカーナ大公の宮廷画家となり、幅広く活躍した。
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正解は3.輝く光です。
モーセの輝く光を、角のように表現する伝統があります。 十戒を授かりシナイ山を下るシーン。旧約聖書はヘブライ語でモーセの顔を「カーラン」(角が生えた・光り輝く)と表現し、これをラテン語に翻訳する際「角が生えた」としたのが発端です。

出エジプト記 34:29-30,35
正解
不正解
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足はガクガク、背中ガチガチ

教皇ユリウス2世は、霊廟制作と同時期にシスティーナ礼拝堂の天井画をオーダーします。「自分は彫刻家だ」と主張するミケランジェロも、教皇の依頼は断りきれず、確執を含みつつこの大作に取り組みました。そして4年半。終始仰向けの苦しい作業を、ほぼ一人でやり遂げました。
この時のようすを、彼はソネットに書いています。
右の写真をクリックしてみましょう。

【第2章5ページ、写真参照】

この困厄の中で俺はもう喉を害めてしまった。
 まるでロンバルディアかあの辺りの澱んだ水で
 猫がやられるように。
 そこで腹は胸の下へぐっと引きつられ、
髯は天を向き、うなじは肩にくっついている。
 わたしはまるでアルピア※のようだ。
      …中略…
皮膚は前に引き延び、
 身を後に屈めるとまた皺よる。
 俺はアッシリアのアーチみたいにふんぞり返る。

(『ミケランジェロ伝』 A.コンディヴィ著 高田博厚訳岩崎美術社 1978年 より抜粋)
※「アルピア」はギリシャ神話に出てくる怪鳥。風の激しい力を比喩する。人間の女の頭部をもった鳥として表わされる。

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④壮麗!『リビアの巫女』

システィーナ礼拝堂には、イエスの誕生を予言した預言者や巫女が12人描かれています。
その中でひときわ目立つ『リビアの巫女』。
美しく光沢を放つ衣服をまとい、胴をねじって大きな本を取り上げようとする姿は壮麗です。動きのあるこの姿勢を、ミケランジェロは背面から捉えました。
巫女のモデルは、いったいどんな人でしょう。

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この巫女のモデルは…

1.女性司書
2.修道女
3.工房職人
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正解は3.工房職人です。
当時の工房職人は、ほとんどが男性。そして彼らはしばしばモデルとして駆り出されました。彫刻のような筋肉表現が得意なミケランジェロは、『リビアの巫女』のために筋肉質の弟子を選んだようです。
☞ デッサンを見る(ここをクリック)

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4章まとめ

ルネサンスを象徴する石像を彫り、世界中の人が「一目見よう」と訪れる天井画・壁画を、苦労の末に完成させたミケランジェロ。いかがでしたか? 次章の巨匠は、ラファエロ・サンツィオです。

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