「きつい、給料安い」より離職率を高める 「社員に虚しさ感じさせる」経営者の言動

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   前回に引き続きビジョン関連のお話です。

   個人的な印象ですが、介護事業の現場はかなりハードで離職率が高いイメージなのですが、労働統計等でデータ的に見てみると、実は最近では全産業平均との比較で大きな差はありません。なぜ介護事業は離職率が高いイメージなのか不思議に思ってよくよくデータを調べてみると、事業所別の年間離職率で0%の次に30%以上のところが多くなっていて、同じ介護事業者でも離職率が極端に低い業者と極端に高い業者の二極化していることが分かりました。私は、極端に離職率が高い業者に業界全体を印象づけられていたのでしょう。それにしても離職率30%以上というのはかなりの数字です。どのような実態なのか非常に気になります。

   そんな話を調べていた折も折、介護事業者に勤務する介護士知り合いのAさんとお話をする機会を得ました。Aさんは、現在の勤務先で転職することなく勤続10年以上。仕事や会社に満足感をもって勤めていると話していました。Aさんの職場ではほとんどの同僚が、同じように転職経験なしで安定的に勤務しいている人ばかりだと言います。

「介護士自身の目的意思を邪魔するような会社」?

一口に「介護の現場」といっても…
一口に「介護の現場」といっても…
「我々の場合、例え収入は低くとも、目的意識を持って仕事をしている人がほとんどです。会社のビジョンのあるなしはさほど問題にならないようには思います。なぜなら、介護士自身の目的意思を邪魔するような会社でない限り、みんな使命感に燃えて日々の仕事に取り組んでいるからです」

と言うことは、「介護士自身の目的意思を邪魔するような会社」が離職率の高い会社ということなのでしょうか。

   しばらくたって今度は知り合いの税理士から、複数の介護施設を経営するB社の離職率が40%近くと異常に高く悩んでいるので話を聞いてもらえないか、という相談を持ちかけられました。私は、Aさんの会社とは正反対に離職率が高い介護事業者とは具体的にどのような会社なのか見てみたいという関心もあって、その会社を訪ねてみることにしました。

   まず介護施設の現場を訪問しながら、人事採用の責任者である総務部長のお話をうかがいました。彼が言うには、「仕事がきつい、汚い、給与が安いという状況が定着率を下げている」のだと。確かに、現場の特養老人ホームに一歩踏み入れた時に感じた異様な臭いに就労環境の悪さが印象づけられ、改善の余地ありとは思わされました。しかし職員ヒアリングからは、勤務時間、職務内容および給与体系は同業他社と大きな違いはなく、臭い以外にB社の離職率がとりわけ高い理由が何であるのか、ハッキリとは分かりませんでした。

   次に本社を訪ねて、B社社長と面談をさせてもらうことになりました。今後3年以内に上場して現在の関東圏での施設展開を一気に全国へ広げたいと社長の鼻息は荒く、そのためにも離職率の高さは企業の評価を下げかねず早期に改善したいのだとの強い意気込みが伝わってきました。高い離職率の根本原因は判然としないものの、私はとりあえず職員の職場環境改善策として、現場訪問で気になった臭いの対策をしてあげて欲しいと社長に進言しました。すると社長は驚くべき言葉を返してきたのです。

カネがかかることなら職場環境の改善すらしたくない…

「そんな話に私は興味ない。私がして欲しいのは、カネのかかる話ではなく、カネが儲かる話。離職率を下げたいのも、無駄な募集コストをかけたくないから、企業評価を下げて上場時の株価を下げたくないから、だと分かりませんか。企業は儲けてナンボです。コンサルタントさんもしっかりその点を理解しないと仕事になりませんよ」

   驚きました。初対面の私にここまで言うかと思うモノ言い。ハッキリ分かったことは、B社社長のビジョンは「カネ儲け」一色だったということ。カネがかかることなら職場環境の改善すらしたくない、こんな社長の下では、一般企業の社員以上に熱い使命感に燃え働いている介護士の人たちですら、確実にやる気を失わせられていたのです。離職率で二極化している介護ビジネス界における、高離職率企業経営者の一端を垣間見た気がしました。

   ここまで露骨に「カネ儲け第一」を口にする経営者は少ないのかもしれませんが、明確な「ビジョン」を持たない経営者は、結果的に「カネ儲け」が自社の目指すところであるかのようになってしまいがちです。このことが、ふとしたきっかけで社員の心が会社から離れていく原因にもなるのです。自社のトップがこれといったビジョンがなく、「もしかして、おカネのためだけに会社を経営しているのか」と感じさせられたなら、社員が自分の仕事が虚しいものに思えてしまうことは普通に起こり得ることなのです。

   私は社長面談を早々に切り上げ、その後B社を訪問することはありませんでした。B社が上場できるかどうかは分かりませんが、今後も同社の離職率が下がらないことだけは間違いないでしょう。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。 連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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