大気圏突入時の高温流を磁場で制御する技術を開発 ―磁場による宇宙機の熱防御・減速技術の実飛行実証へ―
記事配信日:
2026/07/28 14:00 提供元:共同通信PRワイヤー

●宇宙機の加熱低減と減速を目指すMHDエアロブレーキングの研究に向け、秒速約7 kmの極超音速流中で強い磁場を安定して発生させる実験システムを開発しました。
● 模型前方で最大1.58テスラを達成し、同程度の大きさのネオジム永久磁石と比べて2倍を超える磁場を実現しました。秒速約7 kmのMHDエアロブレーキング実験として世界最高水準の磁場強度です。
● 強磁場を印加した結果、宇宙機模型前方の発光領域が約16%拡大し、磁場が高温の衝撃波層に作用することを実験的に確認しました。
● 本成果は、磁場による熱流束低減や空気抵抗増加を定量評価するための基盤となり、観測ロケットを用いた低軌道突入カプセルの実飛行実証につながることが期待されます。
概要
宇宙機が大気圏へ突入すると、機体前方に高温の衝撃波層(注1)が形成され、耐熱材料に大きな負担がかかります。東京都立大学と鳥取大学の研究グループは、磁場で高温の流れを制御するMHDエアロブレーキング(注2)の研究に向け、極超音速風洞の短い試験時間に同期して強磁場を発生させる装置を開発しました。秒速約7 kmの極超音速流(注3)中で最大1.58テスラを実現し、同程度の大きさのネオジム永久磁石の2倍を超える磁場を安定して印加しました。その結果、模型前方の発光領域が約16%拡大し、強磁場が衝撃波層に作用することを確認しました。本成果は、将来の熱防御・減速技術の実飛行実証につながる基礎研究です。
本研究成果は、2026年7月23日付け(日本時間)でアメリカ航空宇宙学会が発行する専門誌「Journal of Spacecraft and Rockets」に掲載されました。
なお、本研究は、JSPS科研費 JP26K01138の助成の支援を受けて行われました。
研究の背景
宇宙機が地球や惑星の大気へ秒速数kmで突入すると、機体前方の空気は衝撃波によって急激に圧縮・加熱され、数千度に達する高温の領域が形成されます。現在は耐熱タイルや、表面を少しずつ消耗させて熱を逃がす材料によって機体を守っていますが、重量の増加、表面の損耗、再使用時の点検・補修が課題です。
そこで、機体周囲の電気を帯びた高温の空気に磁場を作用させ、その流れを機体から遠ざける「MHDエアロブレーキング」が注目されています。この技術には、機体への加熱を抑えるとともに、空気抵抗を増やして減速を助ける効果が期待されます。しかし、実際の大気圏突入に近い秒速7 km級の風洞実験では、従来の永久磁石では磁場の強さや広がり方に限界があり、効果を詳しく調べることが困難でした。そのため、短い試験時間に合わせて、より強く、形状に応じた磁場を発生させる新しい実験技術が必要とされていました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202607202794-O4-S5fLjwEG】 MHDエアロブレーキングの大気圏突入時の概念図
研究の詳細
これまで、実際の大気圏突入に近い秒速7 km級の極超音速流を用いたMHDエアロブレーキング実験では、主に宇宙機模型の内部にネオジム永久磁石を組み込む方法が用いられてきました。しかし、永久磁石で発生できる磁場の強さには限界があり、磁場の広がり方も磁石の形状によってほぼ決まります。このため、磁場をさらに強くした場合に衝撃波層がどのように変化するのか、また、宇宙機の形状に合わせて磁場を変えた場合にどのような効果が現れるのかを詳しく調べることが困難でした。
本研究では、極超音速風洞で流れを観測できる時間が約40マイクロ秒と非常に短いことに着目しました。長時間連続して磁場を発生させるのではなく、流れが模型に到達する瞬間だけ大電流を流せば、冷却装置を必要とせず、永久磁石を上回る強い磁場を発生できます。そこで、複数のコンデンサとコイルを交互に接続した7段のパルス整形回路(Pulse Forming Network:PFN)を製作しました。コンデンサに蓄えた電気エネルギーを順番に放出することで、単一のコンデンサを放電する場合よりも平坦で長い電流波形をつくり、約1 kAの電流を模型内部の空芯コイルへ供給しました。
また、磁場を単に強くするだけでなく、模型の形に応じて必要な場所に強い磁場をつくることを目指しました。先端形状の異なる直径20 mmの模型を2種類製作し、電磁場の数値解析を用いて、それぞれの模型前方に形成される衝撃波層を覆うようにコイルの直径と巻き数を設計しました。一方の模型には直径12 mm、49巻きのコイルを組み込み、比較的広い範囲に緩やかに変化する磁場を形成しました。もう一方のカプセル型模型には直径4.5 mm、54巻きの小型コイルを組み込み、模型表面付近に強く集中した磁場を形成しました。
実験では、東京都立大学の極超音速風洞を用いて秒速約7 kmの空気流を発生させました。流れが試験部へ到達する前に圧力センサーで衝撃波を検出し、設定した遅延時間の後にPFNを作動させることで、極超音速流、磁場および高速度カメラをマイクロ秒単位で同期させました。磁場が最大値の99%以上に保たれる時間は風洞試験全体を十分に覆うことができました。
模型前方で測定された最大磁場は、一方の模型で1.24テスラ、もう一方で1.58テスラでした。これは、比較に用いた同程度の大きさの球形ネオジム永久磁石に対して、それぞれ約1.7倍、約2.1倍に相当します。すなわち、今回開発した装置は、秒速7 km級の極超音速流中で、永久磁石の2倍を超える磁場を安定して作用させることに成功しました。
さらに、この強磁場を印加すると、模型前方の自己発光領域の厚さが、磁場を印加しない場合に比べて2種類の模型でそれぞれ約15.7%、約16.2%増加しました。窒素分子や窒素分子イオンに由来する発光スペクトルにも変化が現れました。これらの観測結果から、永久磁石を大きく上回るパルス磁場が、高温の衝撃波層に作用し、その構造と内部のエネルギー状態を変化させたことを確認しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202607202794-O5-3Z3sKS8R】
はやぶさ探査機のサンプルリターンカプセルを模擬した風洞模型のコイル図面(上)と磁場分布(下)
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202607202794-O6-GcgKo91e】
宇宙機前方の自発光画像の比較(上)磁場無(下)磁場有。磁場有の方が、衝撃波層が拡大している。
研究の意義と波及効果
本研究の最も重要な意義は、秒速7 km級の極超音速流を用いた実験において、従来用いられてきたネオジム永久磁石の2倍を超える磁場を、風洞の試験時間に合わせて安定して作用させる技術を確立したことです。これまでの実験では、永久磁石の磁場強度と空間分布が材質や形状によって制限されていたため、磁場を強くした場合に、宇宙機前方の衝撃波層や空力加熱がどのように変化するのかを系統的に調べることが困難でした。今回開発したパルス磁場発生システムでは、電流値、コイル径、巻き数を変更することで、磁場の強さだけでなく、磁場が作用する範囲や空間分布も模型形状に合わせて設計できます。これにより、永久磁石を用いた従来の実験から一歩進み、磁場強度とMHD効果の関係を定量的に評価できる実験基盤が整いました。
学術的には、数値シミュレーションによって予測されてきた衝撃波層の拡大、機体への熱流束の低減、空気抵抗の増加を、実際の大気圏突入に近い高速・高温流中で検証することが可能になります。今回、永久磁石の約2.1倍に相当する最大1.58テスラの磁場を印加した結果、模型前方の自己発光領域が約16%拡大し、発光スペクトルにも変化が確認されました。これは、開発した強磁場が衝撃波層の構造や内部のエネルギー状態に作用したことを示す結果です。今後、熱流束、抗力、衝撃波位置、電子密度などを同時に測定することで、電磁力によって高速流を制御する仕組みの解明が進むと期待されます。
本研究は、電磁力エアロブレーキングを実際の飛行環境で実証するための基礎研究としても位置づけられます。研究グループが参画する科研費基盤研究(A)では、電離剤の供給方法や、磁場強度と搭載スペースを両立する磁石配置を開発し、それらを搭載した低軌道突入カプセルを観測ロケットから飛行させる実証試験が計画されています。今回確立した強磁場風洞実験技術は、飛行前にカプセル形状、磁場分布、作動条件を地上で検討し、設計の妥当性や安全性を確認するための基盤となります。
将来的に電磁力エアロブレーキングが実用化されれば、大気圏突入時の高温流を機体表面へ到達する前に制御し、耐熱タイルやアブレーション材に加わる負担を軽減できる可能性があります。熱防御装置の軽量化による搭載量の増加、再使用型宇宙機の点検・補修負担の低減に加え、地球帰還カプセルや、火星など大気を持つ惑星への探査機の安全な突入・減速技術への波及が期待されます。
用語解説
(注1)衝撃波層
宇宙機が大気中を高速で飛行すると、機体前方に衝撃波が生じます。この衝撃波と機体表面との間に形成される、高温・高圧の気体の領域を衝撃波層と呼びます。
(注2)MHDエアロブレーキング
宇宙機の前方にできる高温の気体に磁場を作用させ、電磁力によって流れを機体から遠ざける技術です。機体に伝わる熱を減らすとともに、空気抵抗を増やして宇宙機の減速を助ける効果が期待されています。
(注3)極超音速流
一般に、音速の5倍以上で流れる気体を極超音速流と呼びます。本研究では、実際の大気圏突入に近い秒速約7 kmの極超音速流を風洞内に発生させて実験しました。
論文情報
掲載誌:Journal of Spacecraft and Rockets
タイトル:Quasi-Steady Magnetic Field Generated by Pulse Forming Network for Magnetohydrodynamic Aerobraking
著者:Takeaki Muramatsu, Kohei Shimamura, Akira Kakami, Hiroshi Katsurayama
DOI: 10.2514/1.A36635
URL: https://arc.aiaa.org/doi/10.2514/1.A36635
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