大質量星団は、銀河最強クラスの宇宙線加速器だった

大質量星団は、銀河最強クラスの宇宙線加速器だった100年来の謎「宇宙線の起源」解明に大きく前進

2027年7月27日
岐阜大学

大質量星団は、銀河最強クラスの宇宙線加速器だった 〜100年来の謎「宇宙線の起源」解明に大きく前進〜

 

 

本研究のポイント

・ 大質量星団「ウェスタールンド1」に付随する星間雲(注1)を電波観測で初めて特定しました。

・ 星間雲分布とガンマ線(注2)分布の一致から、ウェスタールンド1周辺のガンマ線が、宇宙線(注3)陽子と星間雲の衝突によって発生したことを明らかにしました。

・ ウェスタールンド1は、銀河最強クラスの宇宙線加速器「ペバトロン(注4)」のひとつであることを示しました。

・ 星間雲同士の「衝突」によって星団が形成された痕跡も発見しました。

 

 

研究概要

 岐阜大学工学部の 佐野栄俊 准教授と、名古屋大学大学院の 福井康雄 名誉教授らの研究チームは、国立天文台、オーストラリアの西シドニー大学、アデレード大学などとの共同研究により、銀河系最大の質量をもつ星団Westerlund 1(ウェスタールンド1)において、銀河最強クラスの宇宙線が発生していることを世界で初めて示しました。

 本研究は、ガンマ線望遠鏡H.E.S.S.による最新の観測成果と、名古屋大学や岐阜大学などが南米チリで共同運用するNANTEN2電波望遠鏡、ならびに国立天文台のアステ電波望遠鏡で得られた星間雲の観測結果を詳細に比較することで得られました。

 本研究によって、大質量星団ウェスタールンド1周辺から放射されている高エネルギーガンマ線が、宇宙線陽子によって発生していることが明らかになりました。ウェスタールンド1は、銀河最強クラスの宇宙線加速器「PeVatron(ペバトロン)」のひとつであるとみられ、100年来の謎とされてきた宇宙線の起源解明に大きく前進しました。

 また、本研究の副産物として、ウェスタールンド1星団そのものの形成過程も明らかになりました。2つの異なる分子雲(高密度な星間雲)が、秒速20キロメートル以上の速度差で、およそ400–500万年前に衝突したことで、銀河系最大の質量をもつ星団が誕生したと考えられます。

 本研究成果は、2026年6月10日付で天文学術雑誌「アストロフィジカルジャーナル」に掲載されました。

 

 

研究背景

 宇宙線は、光速に近い速さで宇宙空間を飛び交う粒子放射線の総称です。主成分は陽子であり、銀河や物質の進化に多大な影響をおよぼすため、その発生源(加速源)を探ることは、現代天文学の最重要課題のひとつです。銀河系内の宇宙線発生源としては、星が生涯最期に起こす大爆発である「超新星爆発」が最有力とされており、少なくとも約100テラ電子ボルトの宇宙線が発生していることは観測的に証明されていました。一方、銀河系最大のエネルギーをもつ宇宙線(約3ペタ電子ボルト)がどこで発生しているのかは、未だによく分かっていません。このような銀河系最強クラスの宇宙線加速器を「ペバトロン (PeVatron)」と呼びます。

 ウェスタールンド1は、地球から13,000光年離れた場所に位置する、銀河系で最も質量の大きな星団です。その質量は太陽の約10万倍に相当し、3光年ほどの範囲内に、太陽質量の8倍を超える大質量星を168個も内包しています。2022年には、星団の周りから非常に強力なガンマ線が検出され、ペバトロン候補として再注目されるようになりました(図1)。もしペバトロンであれば、ガンマ線は、ペタ電子ボルトの宇宙線陽子と、周辺の星間雲との衝突で発生したはずです。この場合、ガンマ線光度は、星間雲の密度に比例します。しかしながら先行研究では、そのような星間雲は存在しない、と結論づけられていました。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202607243091-O7-J0f5pn48

図1 (a) H.E.S.S.ガンマ線望遠鏡によるウェスタールンド1の周りのガンマ線画像と、(b) ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による星団中心部の赤外線画像。

 

 

研究成果

 本研究では、名古屋大学と岐阜大学などが南米チリの標高5,000mで共同運用するNANTEN2電波望遠鏡と、オーストラリアのATCA干渉計で取得した星間雲のデータを、ガンマ線望遠鏡H.E.S.S.で得られたガンマ線画像と詳しく比較しました。その結果、ガンマ線分布にピタリと一致する星間雲が新たに見つかりました(図2a)。その総質量は、太陽質量の160万倍にもなります。また、アステ電波望遠鏡を用いた観測により、ウェスタールンド1の中心方向に、空洞分布を持つ分子雲を捉えました(図2b)。これは、大質量星からの強力な紫外線や、ガスの噴出流(恒星風)によって作られたと解釈できます。実際に恒星風によって、毎秒5 kmの速さで膨張していることもわかりました。穴の大きさと膨張速度から、70万年前に作られたことも明らかになりました。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202607243091-O5-oDNBk88N

図2 (a) 星間雲から求めた水素柱密度の画像に、ガンマ線強度を等高線で重ねた図。(b) 星団中心部の拡大図。分子雲画像・等高線に、赤外線画像を重ねてある。点線は、大質量星からの恒星風により形成された、分子雲の空洞分布を示す。

 

  なぜ、ウェスタールンド1では、銀河系最強レベルの宇宙線を発生できたのでしょうか。先行研究では、大質量星からの恒星風が、宇宙線発生に直接寄与したというシナリオが提示されていました。一方、私たちが着目したのは、超新星爆発による宇宙線加速が効率よく起きたという説です。ウェスタールンド1では、中性子星の存在から、過去に超新星爆発が1回以上起きたことが分かっています。爆発で生じた衝撃波は、時間と共に広がって宇宙線を生み出し、そのエネルギーは、衝撃波の速さと磁場強度に比例します。星団周辺の分子雲空洞内では、衝撃波はほとんど減速されずに進むことができます。また、多くの大質量星からの恒星風が入り乱れることで、磁場強度が高められます。結果として、高いエネルギーの宇宙線を発生できた可能性があるのです。もしこの説が正しければ、銀河最強クラスの宇宙線発生機構の解明に大きく前進したと言えます。

 

 また、本研究を通して、思いがけない発見もありました。アステ望遠鏡によるデータを詳しく解析したところ、毎秒20km の速度差をもつ2つの分子雲が、星団方向で入れ子状に重なっていることがわかりました(図3)。どちらもジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で撮られた赤外線画像との空間的によく対応しており、ウェスタールンド1と同じ距離に位置しているとみられます。また、2つの分子雲は、その中間の速度をもつ淡い分子雲で接続されていました。これらの観測的特徴は、およそ400–500万年前に2つの分子雲同士が「衝突」し、水素ガスが急圧縮されたことで、大質量星団ウェスタールンド1を形成したと考えて矛盾しません。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202607243091-O6-EmA2Z7Q7

図3 星団の赤外線画像に、等高線で2つの分子雲を重ねた。青色が私たちに対して近づく分子雲、赤色が遠ざかる分子雲を示す。

 

 大質量星団の形成機構は長年の謎でしたが、近年、星間雲同士の衝突によって引き起こされたとみられる現場が観測によって見つかり始めました。一方で、ウェスタールンド1だけは、年齢が400–500万年と比較的古いため、星団の材料となった星間雲は、大質量星からの強力な紫外線ですでに破壊され、見つからないと思い込まれてきました。そのため、今回の結果は、宇宙の物質循環や進化において、従来の常識を覆す重要な観測成果と言えます。

 

 

今後の展開

 大質量星団ウェスタールンド1が、銀河最強クラスの宇宙線加速器のひとつであることが、本研究によってわかりました。次の課題は、そのような星団が他にもあるかどうか、を探ることにあります。すでに銀河系内の10個内外の星団から、ガンマ線が検出され始めています。今後、チェレンコフ・テレスコープ・アレイという次世代ガンマ線望遠鏡や、日本が主導するアルパカ実験が本格的に稼働すると、さらに多くの星団からガンマ線が検出されるとみられます。これによって、宇宙線加速器としての星団の役割が明らかになり、銀河や物質の進化の理解にブレイクスルーをもたらすと考えられます。

 もうひとつの課題は、ウェスタールンド1で、母体となった分子雲が壊されずに生き残った理由を突き止めることにあります。この究明には、より高い解像度の分子雲データが不可欠です。現在、世界最高性能を誇る大型電波干渉計アルマを用いた観測提案書が採択され、今まさに観測が進められています。アルマによる観測では、本研究の約5倍の解像度が得られる見込みであり、分子雲の温度や密度をより精確に求めることもできるようになります。銀河における物質の進化についての常識を塗り替えるような成果が得られるかもしれません。

 

 

用語解説

(注1)星間雲:

星と星の間を満たす、水素からなるガス状の塊。中性水素原子から構成される低密度星間雲(1~100個/cc程度)を原子ガス雲、中性水素分子を主成分とする高密度星間雲(約1,000個/cc以上)を分子雲と呼ぶ。この分子雲が何らかの仕組みで圧縮されることで、太陽のような自ら光る星(恒星)が生まれる。

 

(注2)ガンマ線:

電磁波のひとつで、波長が約0.01ナノメートルよりも短いものを指す。ガンマ線を放射する物理過程は複数存在し、そのひとつが陽子起源ガンマ線であり、宇宙線の陽子が星間雲中の陽子(水素)と衝突することで発生する。このときガンマ線の光度分布は、宇宙線の標的となる星間雲の密度分布と一致する(正の相関を示す)ことが知られている。

 

(注3)宇宙線:

宇宙から地球に降り注ぐ高エネルギー粒子放射線。宇宙線の主成分は陽子で、その10分の1のヘリウム原子核と、100分の1以下の電子・その他の原子核から構成される。蛍光灯ひとつは3電子ボルトのエネルギーを放つが、銀河系で最も高い宇宙線のエネルギーは約3,000兆(3×10¹⁵または3ペタ)電子ボルトと言われている。これは、地球上にある粒子加速器で実現できる最大エネルギーの400倍以上に相当する。

 

(注4)PeVatron(ペバトロン):

3,000兆(3×10¹⁵)電子ボルトに匹敵する、銀河系で最大のエネルギーを持つ宇宙線を加速(発生)できる天体の総称。ペバトロンの正体については、ブラックホールや大質量星団、超新星爆発などの候補天体種族が提案されているものの、議論が続いている。

 

 

論文情報

雑誌名:The Astrophysical Journal(アストロフィジカルジャーナル)

論文タイトル:Discovery of Molecular and Atomic Gas associated with HESS J1646-458 (Westerlund 1): Spatial TeV Gamma-Ray and Interstellar Proton Correspondence

著者:佐野栄俊1, 福井康雄1,2, 藤森将太1, 村瀨建1, Rami Z. E. Alsaberi1,3, Miroslav D. Filipović3, Gavin Rowell4, 有賀麻貴2, 淺野裕也1, Bhuvana G. Rajendra1, 出町史夏2, Sabrina Einecke4, 深谷直史2, 濵田莉来2, 井上陽登1, 鎌﨑剛5, Sanja Lazarević3,6,7, 南谷哲宏5,8, Zachary Smeaton3, 須藤広志9, 立原研悟2, 高羽浩1,5, 柘植紀節1,2,5, 山田麟1,5

所属:1岐阜大学, 2名古屋大学大学院, 3西シドニー大学, 4アデレード大学, 5国立天文台, 6オーストラリア国立望遠鏡機構, 7ベオグラード天文台, 8総合研究大学院大学, 9仙台高等専門学校

DOI: 10.3847/1538-4357/ae6337

 

 

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