2024年 4月 29日 (月)

他人でなく、自分に向けて発する 言葉はこれで「ちから」を取り戻す
梯久美子さんに聞く「言葉のちから」/創刊4周年記念インタビュー第4回

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   インターネットが浸透し、「活字離れ」が喧伝される現在、「言葉のちから」は弱まっているのだろうか、やさしい語り口の文章で知られるノンフィクション作家の梯久美子さんに聞いた。

――大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した「散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道」をはじめ、戦争をテーマにした著書が目立ちます。戦争についてなにか強いこだわりがあるのでしょうか。

 そういう訳ではありません。雑誌のライター時代から「人」を追いかける取材が多く、あるとき興味を持った人物がたまたま軍人だったのです。

平明で普通の言葉を使い、分かり易く親切な文章を

「ネットはよく見ますよ。自分でブログはやっていませんが」と話す梯久美子さん(写真=角川書店提供)
「ネットはよく見ますよ。自分でブログはやっていませんが」と話す梯久美子さん(写真=角川書店提供)

――2010年7月に出された近著「昭和二十年夏、女たちの戦争」(角川書店)では、「軍人の妻や母」ではない普通の女性たちの戦争時代に焦点をあてています。

 「散るぞ悲しき」で総指揮官という「偉い」軍人について書く中で、普通の若い兵士たちのことを知りたくなり、「昭和二十年夏、僕は兵士だった」という本にまとめました。その取材の過程で、彼らと同世代の女性たちはあの時代をどう生きたのだろうと思い始めました。それで、妻や母ではなく、独身の働く女性や女子学生を主人公にしたんです。

――どんな「発見」がありましたか。

 戦中の若い女性というと、テレビドラマの影響か、私たち戦後世代は、モンペ姿の軍国少女か、さもなければ「表面には出せないけど心の中では戦争に反対し、戦地の夫や息子の心配をしている健気な女性」をつい想像しています。
   ところが取材を進めると、モンペの下にきれいなブラウスを着ておしゃれをしたり、演劇に打ち込んだり、不倫の話も出てきたり、そこには今の若い女性たちと変わらない「普通の」生活が見えてきました。彼女たちのことを身近に感じるほどに、戦争の恐ろしさを実感しました。今と同じような日常と隣合わせに戦争があったということですから。

――「発見」を言葉で表現する際に心がけていることは。

 平明で普通の言葉を使い、分かり易く親切な文章で書きたい。戦争の話であっても、常套的な表現は避け、実感のある、現代的な文章で描きたいと思っています。

――取材相手から話を聞き出すコツのようなものはあるのでしょうか。

 その人の話が聞きたい、この人にこんな事を聞きたいと本気で思うかどうか、ではないでしょうか。あとは、相手の発する言葉だけに耳を傾けるのではなく、一緒に時間を過ごす中で、存在そのものに触れるというか、その人のもつ空気のようなものを共有することも必要だと思います。話を聞くことだけが取材なのではなく、黙って側にいさせてもらうことの方が大切なこともあります。

ネット上の個人ブログの言葉は「力」を持っている

――活字離れが進む一方、ネットで文章を読む人が急増している現代の「言葉のちから」についてどう考えますか。

 言葉の役割を考える際、今は「他人とコミュニケーションするため」の側面ばかりが強調されている気がしますが、自分がどう感じ、何を考えているかを整理するための言葉、つまり「自分のための言葉」という面ももっと重視されて良いと考えています。

――「自分の言葉」とはどのようなものでしょうか。

 ネット上の個人ブログでの言葉などの中に、商業化されたマスコミ言葉ではない「自分の言葉」としての「力」を持っているものを見つけることが時々ですがあります。例えば、私の本を取り上げてくれる書評の場合、新聞や雑誌にはない鋭さや、生活実感のあるリアルな言葉を見つけてハッとさせられることがあります。
   言葉が、他人向けだけでなく、自分に向けての「ちから」を取り戻す意味で、ネット上にみられる「自分の言葉」には可能性があると思います。
【プロフィール】

梯久美子(かけはし・くみこ)
ノンフィクション作家。1961年生まれ。北海道大学卒業。編集者を経て文筆業に。06年、「散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道」で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。同書は世界8か国で翻訳・出版されている。「世紀のラブレター」「昭和の遺書―55人の魂の記録」などの著書がある。近著に「昭和二十年夏、女たちの戦争」(角川書店)、「硫黄島 栗林中将の最期」(文春新書)がある。


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