2024年 5月 1日 (水)

高橋洋一の民主党ウォッチ
今こそ東電を「解体」せよ 送電網売却し賠償原資に

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   東電の福島第1原発事故によって、原子力政策そのものにいろいろな批判が向けられてきた。その一つは、原発の発電コストだ。これまで、政府資料では原発の発電コストは最も安いものとされ、原発推進の理由の一つだった(もう一つは「原発はCO2を出さないので環境にいい」)。具体的には、原子力5.6円/kWh、火力6.2円/kWh、水力11.9円/kWhだ。

   この計算に対しては、「モデル計算で現実を反映していない」「税金投入が考慮されていない」などの反論があった。それらを考慮すると、必ずしも原発の発電コストは最も安いとはいえないという主張だ。

電力自由化の「キモ」とは

   しかしながら、その反論にはさらに再反論もあって、なかなか一筋縄ではいかない。データで検証しようにも、最終的には、電力会社という民間会社の企業秘密の壁にぶち当たる。

   一般的なコスト論については、学者の研究対象になっても実際の市場では競争で結果がでてしまう。電力について、原子力、火力、水力、その他のエネルギーで、コスト論があること自体、競争がなかった結果だ。

   電力といえば、経済学の教科書でも地域独占の典型になっている。電力事業では巨額の設備投資が必要だ。そのため固定費用が大きく、平均費用はなかなか低下せず、地域で1社しか存続できない。こう習った人も多いだろう。今でもそう教えているところも多い。

   ところが電力事業を発電と送電に分けると、最近の技術進歩によって、発電で地域独占の理由はとっくになくなっている。今や、太陽光発電などで小規模発電設備も可能なのだ。となると、NTT民営化で、電話網を開放することによって電話会社の新規参入を促したように、電力事業も発電と送電を分離して、送電網を開放し、発電事業に新規参入というアイディアも自然にでてくる。これは、前々から指摘されていたことだ。ちなみに、独禁法においても、地域独占の適用除外規定は2000年改正で削除されている。

   送発電の分離こそが、電力自由化のキモである。これができれば、抽象的なコスト論は意味がなくなる。個々の発電会社が参入して競争を行えばいいのだ。安定供給をモットーとすれば多少のコスト高も容認されるだろう。

東電の送電網の資産価値は5兆円以上

   ところが、これまで経産省は電力会社と結託して、電力の自由化を拒んできた。もちろん、「なんちゃって自由化」はやってきた。しかし、それはあくまで形式的な話で、送発電の分離という根幹を欠いてきたので、発電に参入しても買い取りは東電なので、参入業者にはうまみはなかった。

   例えば、農業関係で水管理をしている人が、水が足りてきたので小さな水力発電を行った。今回の無計画な「計画停電」になって、やっと水力発電の威力が発揮でき、地域にささやかな還元ができると思っていたところ、東電は地域的な配電はできないように措置してしまったという。もし送電網管理だけの会社であれば、発電元がストップすれば、他の発電元に供給を求めるのが普通だ。しかし、送発電一体の東電では、そういう芸当はできない。

   残念なのは、ほどなく決定される見込みの政府の東電賠償スキームに、送発電分離の考え方が入っていないことだ。細野豪志・首相補佐官は、将来は東電の送電網売却も議論対象というが、2000年以来これまで経産省と東電が抵抗してきた案件をなぜ今できなくて将来できるというのか。

   東電の送電網の資産価値は5兆円以上だ。それを賠償原資とすることができる。もちろんその場合、株主や債権者等の東電のステークホルダーとの関係も整理する必要がある。

   今の賠償金はとても東電だけでは負担できないのは、社長自らが公言している、ということは実質債務超過だ。本来であれば、それは株主や債権者が負担する。その時資産も同時に売却される。その売却の際、送発電分離をやるのだ。

   東電を解体し、送電網を売却・開放すれば、電力料金の引き下げになって、将来の日本の産業競争力が増す。一方、東電を温存して株主や債権者に負担させない今の賠償スキームでは、送電網を売却するチャンスはまずない。しかも、東電温存の分だけ、電力料金値上げで国民負担を増すという愚かな政策だ。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「日本は財政危機ではない!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)など。


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