2024年 4月 30日 (火)

「曲がり角」にきたイチロー 「振り子打法」捨てて「生き残り」

   天才打者も「曲がり角」に差し掛かったようである。マリナーズのイチローが代名詞の振り子打法を捨て、新たな打法で活路を求めた。

   大リーグ生き残りへの挑戦だ。

連続200安打途切れ、より「確実性」狙う改造

   アリゾナ州ピオリアでキャンプインした2月18日、マリナーズの同僚たちは驚いた。フリーバッティングでイチローが独特の「振り子打法」ではなく、おとなしい打法を見せたからである。

「ちょっと考えるところがあってね。振り方は変えない。ある動きを省いている」

   どんな打ち方なのか。昨年までは右足を上げ、体全体を振り子のように揺らせてタイミングをとっていた。それが右足をすり足のように短くステップしている。ノーステップに近い。これは上下の動きがなくなるのでミートの確実性が高まる。

   打者には大別して2つのタイプがある。1つは投球の軌道に合わせる「線で打つ」タイプ。もう1つはポイントを決める「点で打つ」タイプだ。イチローは典型的な後者で、どのコースの投球もとらえることができ、これが「イチロースタイル」だった。

   その変則打法で、日本球界では7年連続首位打者に輝き、大リーグでは10年連続シーズン200安打をマーク。「天才打者」といわれたゆえんだ。

   打法を変えたきっかけは、昨年、シーズン200安打が途切れたからである。それでも184安打(打率2割7分2厘)を記録しているのだから大したものなのだが、本人にとってはプライドが傷つき、我慢がならなかったに違いない。

   しかし、彼の心中はそんな単純な動機ではないと見る。「衰えへの挑戦」と思う。

   昨年のイチローは球威に負けることが多く、得意のコースもファウルになることが増えた。明らかに反射神経の衰えの兆候だった。それに視力の問題もあるかも知れない。タイミングがとれず正確な打撃ができなかった。

   今回の打法改造はオーソドックスなもので、確実性の高い「線で打つ」形である。足を上げる「動きを省いた」打ち方だ。もともとミートする能力は高いので、新打法での打撃はさすがによかった。キャンプインまでに神戸で階段上り、シアトルで急坂上りなどトレーニングをして下半身強化に努めた。当然、改造スイングで振り込んできたはずである。

   打者は速球に詰まることを嫌がり、恐れる。これは晩年になると顕著で、相手投手はどんどんスピードボールで攻めてくる。打球が飛ばなくなり、引退へ追い込まれるのである。イチローはそれに対する防御策のため、子供の頃からの変則打法をあきらめたのかもしれない。

38歳、5年契約最終年――。メジャー「生き残り」かかる正念場の年

   大リーグの厳しさをイチローはだれよりも知っているだろう。あの名門ヤンキースで主力を打った松井秀喜がいまだに行き場所が決まらない。福留孝介はやっと前年の10分の1ほどの年俸でインディアンスと1年契約を済ませた。西武の看板、中島裕之はヤンキースから入札されながら控え扱いで古巣に戻った。

   イチローは、明日は我が身、を察したことだろう。今シーズンは5年契約の最終年で、昨年の成績を下回れば放り出される可能性がある。それどころかシーズン中にファーム行き、トレードだってありうる。日本のようにスター選手だから、チーム功労者だから、などの温情はない。すべてビジネスライクだ。

   日本は「前年の成績を重要視」して契約するが、大リーグは前年を参考に「今年どのくらい働けるか」を判断する。だから年齢を重ねると、どんな大選手でも1年契約であちこちの球団を渡り歩くのである。

   そういう意味でイチローは、自らが「打者としての曲がり角に来た」ことを認識し、来シーズン以降に備えたといっていい。どんな大打者も晩年はもがき苦しんで打開策を探り、体力の衰えに自分が勝てないことを悟ってバットを置くのである。

   「打球が野手の正面を突いて抜けない」と言ったのはミスタープロ野球こと長嶋茂雄。世界のホームラン王で一本足打法の王貞治は「打っていた投手に抑えられるようになった」と言って引退を決意した。

   38歳のイチロー。「何かをやるときは不退転の決意でやる。自分のセンスを信じたい」と言葉は強い。今シーズンは「生き残り」がかかる、重要な年である。(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)

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