2024年 4月 29日 (月)

日本人副領事はなぜ逮捕されたのか 外交官なら「不逮捕特権」があるはずなのに

   スパイ小説でもおなじみの「外交官不逮捕特権」が、ネット上で話題になっている。アメリカ・サンフランシスコにある日本総領事館の副領事が、妻へのDV(家庭内暴力)容疑で米当局から逮捕、起訴されたからだ。

   「日本外交官をDVで起訴」(時事通信)などと報じられている。ツイッターでは、外交官は逮捕されないはずだとして、「日本は米国に抗議するべきだ」といった声も上がっている。「外交官不逮捕特権」とは何なのだろうか。

殺人容疑でも外交官には「不逮捕特権」がある

在アメリカ日本大使館のサイト。米国内各地の総領事館も紹介している。
在アメリカ日本大使館のサイト。米国内各地の総領事館も紹介している。

   日本時間の2012年5月8日、在サンフランシスコ総領事館の長屋嘉明・副領事(32)が、米捜査当局に逮捕され、家庭内暴力(DV)と傷害の罪で起訴されていたことが分かったと、マスコミ各社が報じた。副領事は無罪を主張、現在は保釈されている。

   報道を受け、ツイッターなどでは、外交官の不逮捕特権に触れ、「逮捕されて驚いた」という声が相次いだ。

「日本は米国に抗議しなければなりません」「よほどひどいことをしたのか」

といった反応もあった。

   中には、「外交官特権は、正式業務に関わることをして犯した犯罪にだけ適用される」という「解説」をし、「アメリカに抗議を」と主張している人たちをたしなめる意見もある。実際、共同通信(5月8日配信)などは、「外交官は職務のための行為では任地で訴追されない特権があるが、職務と無関係の事件は特権の対象外」と記事で指摘している。

   一方で、「酒気帯び運転して人をひき殺しても逮捕されず、自国へ逃げた」外交官のニュースを読んだ記憶があると、指摘する人もいる。

   逮捕された副領事が総務省からの出向であることから、「出向組は外交官ではないということなのか」という推測も出た。

   外務省に確認すると、確かに「外交官の不逮捕特権」は、「外交関係に関するウィーン条約」で保護されている。

   条文では、「外交官は、いかなる方法によっても抑留又は拘禁することができない」「刑事裁判権からの免除を享有する」といった文言が並んでいる。一部の民事・行政裁判権を除けば、ほぼ全面的に裁判から免除されている形だ。仮に殺人容疑であっても、不逮捕特権は認められるそうだ。

副領事は「外交官」ではなかった

   それでは、今回の「副領事逮捕」は、日本側が米側に抗議するべき案件なのか。

   実は、副領事ら総領事館に務める外交職員は、「外交官」ではない。あくまで「領事官」だ。総領事館トップの「総領事」も、外交官ではなく領事官だ。

   外交官とは、大使館に派遣された外交職員を指す。他省庁からの出向かどうかや、キャリアかノンキャリアかは関係ない。

   例えばアメリカ現地なら、日本大使館は首都ワシントンDCにあるだけだ。一方、総領事館は、シアトルやサンフランシスコ、ニューヨーク、ホノルルなど15か所にある(ほかに出張事務所も)。

   今回逮捕された副領事は、外交官ではないので、いわゆる「外交官不逮捕特権」は適用されないことになる。

   「領事官」については、別に「領事関係に関するウィーン条約」がある。「身体の不可侵」規定はあるが、「外交官」より弱く、例外がある。「重大な犯罪の場合において権限のある司法当局の決定があったときを除く」などとなっている。

   裁判の免除も「任務遂行に当たって行った行為」に限定されている。任務以外のことなら裁判にかけられる、というわけだ。

   読売新聞などは、在サンフランシスコ日本総領事館の「今後の司法手続きを見守りたい」とするコメントを報じている。

   ちなみに、東京の外務省本省勤務の場合は、「外務公務員」と呼ぶ。海外の大使館や総領事館に赴任する際に、「外交官」や「領事官」に任じられる。帰国して国内勤務になれば、「外交官」「領事官」ではなくなる。

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