2024年 4月 26日 (金)

黒田夏子さんの「abさんご」が品切れ状態 難解さが魅力? 発行9万部に

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   史上最高齢の75歳での芥川賞受賞が話題になった黒田夏子さんの「abさんご」。その話題性に加え、独自の文体が評判を呼んで2013年1月20日発売の初版発行分は発行元の文藝春秋社でさえ「品切れ」状態となっている。

   ただ、全文横書きで平仮名を多用し、かぎカッコやカタカナ、固有名詞の一切を排除した実験小説はやはり、十分すぎるほど難解だ。辛口なネットユーザーらの感想も「手強い!」「この作品を楽しまれる方がうらやましい」などが多い。

誰も「abさんご」を論じられない?

   芥川賞効果はてきめんだった。複数の都内書店を22日に巡ったところ、「abさんご」は売り切れ状態で、文藝春秋社も「初版8000部の在庫は当社にも1冊もないんです」とうれしい悲鳴だ。

   同社によると、「abさんご」の書籍発売を決めたのは12年9月の早稲田文学新人賞の受賞直後だったため、初版部数は控えめになったという。芥川賞受賞で8000部は完売し、今週末に出荷する2刷の部数は6万部に上る。すでに3刷、2万2000部の追加発行も決まり、累計では9万部に達する予定という。

   新聞各紙によると、作者の黒田さんは1937年(昭和12年)に東京で生まれた。早稲田大学教育学部を卒業後、教師や校正者などとして働く傍ら、同人誌で小説を書き続け、63年には『毬』で読売短編小説賞に入選している。作家としての本格的なデビューは昨年秋の早稲田文学新人賞がきっかけだったという。

   一方、各紙とも黒田さんのこうした経歴には触れていても、芥川賞受賞作の「abさんご」の内容に踏み込んだ記事は見当たらない。新聞やネットであらすじを調べても「黒田さんの自伝的小説で、幼子が成長して両親を見送るまでの物語」など漠然とした記述にとどまっている。

   今回、記者が一読して、各紙の紹介があっさりしていた理由が理解できた。あらすじを書こうにも書きづらい内容なのだ。固有名詞やかぎカッコがないため、努力してページをめくっても、ストーリーが薄ぼんやりとしか頭に入ってこない。おまけに横書きのうえ、平仮名が意図的に多用されている。

   この、平仮名を漢字に変換しながら読み進める作業は、思いのほか大変だった。平仮名が大半を占める文章を前にしては、速読は通用しない。意図的に熟読を強いているとも言えるのだろうか。

「これを読まずにすごせば、生きている意味の大半を見失いかねない」

   早稲田文学選考委員として「abさんご」を新人賞に決めた東大元総長でフランス文学者の蓮実重彦氏は、選評でこう激賞している。

「奇跡というべきだろうか、一篇だけ、『ため息』をもらさずに読み終えることなどとてもできない作品がしたたかにまぎれこんでおり、その作品をみたしている言葉遣いと語りの呼吸にはとめどもなく心を動かされた。」
「『固有名詞』やそれを受ける『代名詞』もいっさい使わずに、日本語で何が書け、何が語れるか。『個性』的な黒田夏子が直面するのは、おそらくこれまでいかなる作家も見すえることのなかった言語的な現実である。」
「誰もが親しんでいる書き方とはいくぶん異なっているというだけの理由でこれを読まずにすごせば、人は生きていることの意味の大半を見失いかねない。」

   黒田さんは読売新聞の1月22日付朝刊で読売短編小説賞を「毬」で受けた50年前を振り返り、こうつづっている。

「タミエ(「毬」の主人公)はどこへ行ったのか、やがて作中の子どもにいかなる名もつかなくなり、作中人物すべてにいかなる名もつかなくなる。」
「タミエがいたころからの五十ねんを多くのぐうぜんにもたすけられながら生きしのいで、いま受賞でき、出版できることを感謝している。」

   実験小説とも前衛小説とも称される「abさんご」に挑戦したネットユーザーからは「よく言えば斬新だけど、本好きじゃないと読めないかも」「手強すぎてすぐに白旗揚げました」「もはや古文を呼んでいる感覚」といった声のほか、「ひらがなを脳内で漂わせ漢字に変換しながら…というのは確かに時間はかかるけど、その時間さえ愛おしいような感覚」などの感想が寄せられている。

   文藝春秋社発行の「abさんご」は表題作のほか、「毬」「タミエの花」「虹」を併録。この3篇については縦書きなので、前からも後ろからも読めるリバーシブル本となっている。

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