2024年 4月 29日 (月)

「原発回帰」安倍政権 再稼働の行方(7)
石炭火力稼働か、CO2削減優先か 水面下で「暗闘」が続く

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   原発を動かさないことで起きる大きな問題のひとつが、二酸化炭素(CO2)に代表される温室効果ガスの増加だ。電力会社は火力発電所を動かして電力需要に応えようとするが、化石燃料を燃やす分CO2増加は避けられない。

   京都議定書では、CO2の排出量を90年比で6%減らすことを国際社会に約束してもいる。火力の増強は、国際的な約束を反故にすることにはならないのか。

火力発電で温室効果ガスが年間3.9%増えた

   環境省が2012年12月に発表した11年度の温室効果ガス排出量(速報値)によると、10年度から11年度にかけて、約5,100万トン(3.9%)温室効果ガスが増加している。環境省では、要因は「火力発電の増加」にあるとみている。さらに、電気事業連合会のまとめによれば、12年度も火力発電が増加傾向で、さらに温室効果ガスは増えるとみられる。

   日本が参加している京都議定書の「第1約束期間」(2008~2012年度)では、日本は90年比で6%削減することを義務づけられている。京都議定書では、森林がCO2を吸収した分を自国の削減分として上乗せできる。これに加えて、排出権取引の一種である「京都メカニズムクレジット」を考慮すると、08年~11年度の4年間の削減幅は平均9.2%。このことから、環境省は目標について「達成可能ではないかと考えております」としており、国際公約を破らずにすみそうだ。

   日本は13年度以降の「第2約束期間」には参加していないが、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)下で2010年に結ばれたカンクン合意に基づき、2020年度までの削減目標を設定することにしている。

   ただし、この削減目標については、岸田文雄外相が13年2月28日に行った外交演説で、

「(13年11月に開催される)国連気候変動枠組条約第19回締約国会議(COP19)までに温暖化ガス25%削減目標をゼロベースで見直す」

と明言。原発事故前に民主党が掲げていた政策を完全に覆すことになる。

石炭火力増設で環境省-経産省が綱引き

   火力が増える中での削減努力は茨の道だが、環境省では、

「我が国の優れた環境技術を活かした攻めの地球温暖化外交戦略の策定や、低炭素社会を創出するためのファイナンス・イニシアティブ、浮体式洋上風力発電の実証事業、蓄電池による風力発電等の出力安定化等の施策を通じた自立・分散型のエネルギー社会の構築、それから、フロン類の一層の排出抑制のための法改正などを進めていきます」

とコメントしている。それ以外にも、再生可能エネルギーの普及促進などを進めたい考えだ。

   このような背景もあって、火力発電所増設をめぐる経産省と環境省の綱引きが表面化している。すでに東京電力は火力発電所増設に向けて13年2月に入札の受付を始めたが、成立するかは予断を許さない状況だ。

   火力増設は廃炉となる福島第1原発1~4号機(事故前の出力計約280万キロワット)の代替電源を新設することが目的で、原発に代わるベース電源(24時間稼働の基礎電源)を想定している。すでに13年2月に説明会を実施済みで、5月24日に入札を締め切り、7月下旬に落札企業を決定し、原発並みに安価な電源を確保したい考えだ。落札総額は数千億円規模に達すると見られる。

石炭火力は「CO2削減には非常にネガティブな発電装置」

   原発事故で財務体質が悪化した東電は、自社単独での発電所新設を断念。実質国有化を受けて2012年春策定した「総合特別事業計画」に、入札による外部からの電源購入計画を盛り込んでおり、建設費などの初期投資を抑える考えだ。特に、燃料コストの安さを重視して石炭火力を想定している。これは、13年4月と見込んでいた柏崎刈羽原発再稼働の見通しが全く立たず、電気料金の再値上げの検討も迫られているとあって、低コストの石炭火力は必須の状況だからだ。

   電力市場自由化の旗を振る経産省にとっても、電力の安定供給はもちろん、発送電分離もにらみ、異業種参入を促す好機という位置づけだ。

   ところが環境省がこれ待ったをかけた。発電コストは石炭火力が1キロワット時あたり9.5~9.7円と安価だが二酸化炭素(CO2)排出量は多いのに対し、液化天然ガス(LNG)火力は同11.5~11.9円(設備利用率50%)で石炭より高コストだがCO2排出量は少ない。このため、旧型の石炭火力を最新鋭石炭火力に更新するのは良いが、新鋭であっても石炭火力の新増設は認めないというのが同省の基本姿勢で、「(石炭火力は)わが省のレゾンデートル(存在意義)たるCO2削減には非常にネガティブな発電装置だ」「これから決める(削減)数値目標が大変厳しいものになる。それでいいのか」(1月15日、石原伸晃環境相)として入札延期を働きかけ、経産省と対立した。環境省に入札を中止させる権限はないが、環境影響評価(アセスメント)に意見できるため、過去にも石炭火力の建設計画を白紙に追い込んだ実績がある。

   水面下で両省は調整に動き、2月7日、急遽、両省の関係局長会合が開かれ、12日には両省副大臣らが最新鋭石炭火力を視察するなど、歩み寄る努力を続けた。その結果、環境省が東電の「入札」までは認める形で「譲歩」したのが現時点の状況だが、展望が開けたわけではない。実際、東電が2月15日に本店で開いた入札説明会には、商社や重電メーカーなど約50社が出席し、一見、盛況だったが、会場は熱気には程遠い雰囲気。入札条件は、上限価格が1キロワット時=9.53円と、石炭火力水準で、ガス会社からは「入札条件をクリアできそうにない」との声が漏れる一方、石炭火力に強い商社なども「環境省との調整が終わらないと札は入れられない」と、消極姿勢を崩さず、5月の締め切りまでに入札企業が出ないとの見方も出ている。

   ことは東電の火力発電所一つの話では済まない。原発の再稼働の見通しが立たない中で、「低コストの石炭火力を活用するのか、CO2削減を優先するのか」という今回の争いだが、自民党政権は原発を再稼働させる方針で、原発が動くなら火力発電所を新設する必要はなくなる。石原環境相発言は、原発再稼働へ誘導するのが目的との見方すら出ている。

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