2024年 4月 30日 (火)

農業と食料供給のための技術を提供し、「遺伝子組み換え作物」への不安、解消していく
モンサント 山根精一郎氏に聞く

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   遺伝子組み換え作物は、ドキュメンタリー映画や書籍などで盛んに批判が行われている一方、日本には年間約1600万トン輸入され、主に家畜の飼料やサラダ油などの油類に用いられており、今日では日本の食の一端を担っている。

   厚生労働省では、遺伝子組み換え作物の食品としての安全性について、パンフレットを通じて「食べ続けても問題ありません」と周知している。だが、不安を抱く人もいる。そこで、遺伝子組み換え作物の種子や農薬開発の世界大手企業、モンサントの日本法人である日本モンサント株式会社の山根精一郎氏に「遺伝子組み換え作物」について話を聞いた。

  • 遺伝子組み換え作物について語る山根氏
    遺伝子組み換え作物について語る山根氏
  • 遺伝子組み換え作物について語る山根氏

遺伝子組み換えは食料増産と資源の保全につなげられる重要な技術

――そもそもなぜ、遺伝子組み換え作物が必要なのでしょう。

山根 世界の人口は、2050年には現在より3割多い90億人に達すると考えられます。これに対応するには、今より倍の食料が求められます。単純に食料も3割増といかないのには、人々の生活が豊かになって肉食が増えている事実があります。牛肉1キロ得るには、トウモロコシ約10キロが必要なため、膨大な量の穀物を賄わなければならなくなるからです。
   ところが、地球上にこれ以上農地は増やせませんし、水資源にも限りがあります。問題解決には、農業技術を活用して土地や水などの自然資源を保全しつつ、生産量を増大することが必要です。モンサントでは大豆、トウモロコシ、ナタネ、綿(わた)の収量を2030年に2000年の倍にする目標を立てていますが、育種、農薬、微生物製剤、精密農法などの栽培管理方法と並ぶ重要な技術として、遺伝子組み換え技術を推進しています。
   遺伝子組み換えは、従来の育種ではできなかったことを実現する新しい育種技術ととらえて頂くのがよいのではないかと思います。例えば、ハワイの特産品のひとつ、パパイヤは1970年代にウイルス病が発生して壊滅状態になりました。育種技術を駆使してウイルスに抵抗性を持つパパイヤを作ろうという試みも失敗しました。そこで米コーネル大や米農務省が遺伝子組み換えでウイルス抵抗性のパパイヤを開発し、ハワイのパパイヤ産業を救ったという例があります。

――遺伝子組み換え作物反対派は映画や書籍で、「環境や人体に与える影響は誰にも分からない」と主張しています。安全性をどのように説明しますか。

山根 遺伝子組み換えでつくった害虫抵抗性のトウモロコシを例に挙げると、害虫が食べると死ぬ「Btタンパク質」の遺伝子をトウモロコシに入れたもので、従来のトウモロコシとの違いは遺伝子が1つ加わった点です。実は人間は、トマトでも魚でも「膨大な数の遺伝子」から成る食物を日々食べています。遺伝子は基本的に私たちの消化器官で分解されるので、これまでの長い歴史の中で「遺伝子を食べる」ことで人体に問題が起きたことはありません。
   遺伝子はタンパク質を作るもので、タンパク質は消化されます。確かに、消化されずに腸に達してアレルギーを起こすタンパク質もありますが、消化されれば分解されてアミノ酸となり、腸で吸収されてアレルギーは起こしません。国際的な安全性評価基準では、タンパク質が消化されるかどうかをしっかり確認しています。
   遺伝子もタンパク質も消化されれば、体の中に何かが残るわけではありませんので、子どもや孫の体に影響が受け継がれる心配もありません。
   さらに日本では食品安全委員会が、こうした点を含め当社が提出したあらゆる研究データを分析したうえで、安全性を確認しています。

種苗メーカーが生産者のニーズに合った品種をつくるお手伝いをしている

――モンサントに対しては、遺伝子組み換え作物で「世界の農業を独占しようとしている」「利益優先だ」という批判があります。この点はいかがですか。

山根 当社が持つ除草剤耐性の大豆の技術は、米国の大豆栽培総面積の95%に使われています。こうしたことから「独占」の批判があると承知しています。しかし大豆の品種は1つではありません。日本のコメに「コシヒカリ」「あきたこまち」「ひとめぼれ」があるように、米国の大豆の品種も多様で、約2000種存在します。種苗メーカーは、栽培地の気候に合わせた大豆の品種を開発しており、こうして新たに開発された種子に当社の技術が採用されています。当社が2000品種すべてを独占しているのではありません。当社の除草剤耐性という技術は、特性の1つを付与するもので、各種苗メーカーが生産者のニーズに合った品種をつくるお手伝いをしていると考えています。
   「生産者は高額な種を買わされて疲弊している」との批判もありますが、モンサントでは1996年、最初の除草剤耐性大豆を売り出すとき、まず生産者にとってどのような新しい価値が生まれるかを考えました。除草の回数や費用が減る、畑を耕さずにすむ、栽培方法ができてトラクターなど機械が不要になり、燃料費を削れる、収量も増える――こうしたメリットで得られる価値を金額に換算し、それを当社と生産者が分け合うような関係を築けるビジネスモデルを考案しました。多くの生産者の方に当社の種子を利用して頂いているのは、メリットだけでなく、このビジネスモデルについてもご理解を頂けているからだと思います。

大豆を輸入できない時代がくるかもしれない

――日本は既に遺伝子組み換え作物の一大輸入国となっています。なぜそれほどの量が必要なのでしょう。

山根 専門家の推計では、年間約1600万トンの遺伝子組み換え作物が輸入されています。国内でのコメの年間生産量が約800万トンですから、その倍に当たります。油類として商品化されている一方、多くは家畜の飼料として使われており、その肉や牛乳、卵を私たちは食べています。
   ではなぜ日本で相当な量を輸入しているのか。農林水産省は、日本が現在輸入している穀物を国内で自給するのは不可能だと報告しています。遺伝子組み換え作物の輸入を止めれば国内の畜産業もストップし、消費者は現在のような形で肉や卵を食べられなくなってしまいます。輸入による食料をどうやって確保していくかも、日本が抱える課題だと思います。
   1つの例が大豆です。日本では年間約300万トン輸入していますが、1990年代後半からは中国で、肉食が増えて大豆の輸入が盛んになりました。その量は、今日では5000万~7000万トンに上ります。こうなると、今後生産国で大豆が不作にでもなれば、大豆を輸入できない時代が来るかもしれません。
   今日、遺伝子組み換えの大豆により生産国の収量は以前より増加しています。中国がこれほど大量の大豆を輸入しても日本が必要量を確保できるのは、遺伝子組み換え技術による作物の増産が寄与している面もあります。穀物を安定的に輸入し続けるうえでも、遺伝子組み換え作物が果たす役割は小さくないと言えるのではないでしょうか。

茨城県の農場で見学会を開催、フェイスブックによる情報提供も開始

――今後モンサントでは、日本と世界の食にどのように貢献していきますか。

山根 2030年に穀物の生産量を倍にする目標の達成には、遺伝子組み換えだけでなく、育種技術を磨いて新しい品種の開発期間を早めるような努力も大切です。農薬でも、例えば微生物を活用するような方法も検討しています。
   米国では、ビッグデータを活用した栽培方法を推進しています。生産者に対する当社のコンサルティングサービスで、例えば耕作地の土壌の豊かさを分析して、過去の天候データを参照しながら「この畑にはこの品種を植えるとよい」といった助言をするものです。植える時期はいつか、植え方をどうすれば収量アップにつながるか、さらには害虫駆除や病気防除、収穫の時期までもデータに基づいて解析し、各農家に情報を提供します。
   生産者はスマートフォンやタブレット型端末などで情報を閲覧でき、例えば「肥料をまく時期」と「正しい肥料のまき方」の情報がタイムリーに、場所を問わずどこでも受け取れます。
   一方で遺伝子組み換え作物に関しては、現状では映画や書籍などで事実ではない情報やネガティブな情報も多く出ており、十分に理解を頂けていない面があります。事実ではない情報については科学的な事実に基づいたデータなどを提供し、また、信頼を得るために、技術の目的や、背景にあるミッションなどもお伝えしていきます。
   国内では、輸入の許認可を得るためのデータの収集のため、茨城県の農場で遺伝子組み換えのトウモロコシや大豆を栽培しており、見学会も開催しています。実際の現場を見てもらうと、「雑草や害虫の防除効果がはっきり分かる」「こういう技術なら受け入れてもいい」との言葉を頂きます。ただ年間で200~400人ほどと限られた人数ですので、少しでも多くの人に現状を知ってもらうために積極的に広報活動に努めています。また農業や食の議論を活性化するため、2015年にはフェイスブックページによる情報提供も開始しました。    予測される世界的な人口増加に十分な食料を供給するため、農業の生産性向上に技術を通じて貢献していきたいと思います。

プロフィル
山根精一郎(やまね・せいいちろう) 農学博士。1976年、東京大学大学院農学系研究科農業生物学専門課程博士課程修了後、日本モンサントに入社。アグロサイエンス事業部、生物研究部、バイオテクノロジー部などを経て2000年に取締役副社長、2002年より代表取締役社長。


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