2016年10月から、秋のGIシリーズが開幕した中央競馬。ファンならずとも馬券を買って、ひと儲けしたいと思っている人は少なくないはず。そんななか、大阪国税局が寝屋川市職員の男性(48)を所得税法違反の疑いで、大阪地検に告発した。
その男性は2012年と14年の2回、日本中央競馬会(JRA)の「WIN5」(5レースすべての1着馬を当てる馬券)を的中し、4億3000万円の払戻金を手にした。14年10月には、WIN5の当時の最高額、約2億3200万円の払戻金を受けていた。それにしても、税務署はどうやって当たり馬券がわかったのか。
「一時所得なので、必要経費は認められません」
大阪国税局によると、その男性は2012年と14年に、JRAの「WIN5」で4億3000万円の払戻金を得たが、申告しなかった。このうち、課税対象の「一時所得」とみなされたのは、払戻金から当たり馬券の購入金(経費)と特別控除額(50万円)を差し引いた金額の半分にあたる約1億6314万円で、約6200万円の所得税を脱税した疑いがある。
追徴税額は、脱税分の約6200万円と過少申告加算税(約1000万円)を加えた約7200万円になる見通しだが、男性はすでに修正申告して一部を納付した。
国税庁の通達では、競馬の払戻金は原則「一時所得」にあたる。一時所得は、毎年継続的に得られる収益ではなく、思いがけず(一時的)に得られるもので、馬券などの公営ギャンブルの払戻金などが該当する。ただ、50万円までの当たり馬券であれば、課税されない。
今回の男性のケースについて、大阪国税局は2016年10月14日のJ-CASTニュースの取材に、「(馬券は)競馬新聞の情報をもとに買われていたもので、一般の人と同じような、趣味の範囲と判断しました」と話し、「一時所得」として課税したという。
雑所得として必要経費が認められるケース
一方、馬券の払戻金は、必要経費が広く認められる「雑所得」と判断されるケースがある。2013年3月に最高裁が、ソフトウェアなどを開発して事業として長期間、網羅的に馬券を購入している場合などを、「営利目的とする経済活動で生じた所得」として雑所得に該当すると判断。当たり馬券以外のハズレ馬券も経費に当たると認めた。
この最高裁判決に基づき、国税庁は通達を見直し。それまで「一時所得」扱いだった馬券の払戻金に、「雑所得」を加えた。同年5月には、競馬の予想ソフトウェアを改良してインターネットで馬券を大量に自動購入していた大阪市の男性(当時41)の脱税事件で、大阪地裁が「雑所得」と判断した。
大阪国税局は、「費用をかけてソフトウェアなどを開発したり、網羅的に馬券を購入したりしているかなどの経済活動であるかどうかが重要で、(一時所得か、雑所得かは)そこを判断します」と説明する。
今回の寝屋川市職員の男性のように、競馬新聞などの情報をもとに予想して馬券を買っている人は、どんなに高額な払戻金を手にしたとしても、当たり馬券代だけしか必要経費として認めてもらえず、それをもとに所得税(一時所得)を払わなければならないわけだ。 JRAの「WIN5」や1、2、3着を順番どおりに当てる「3連単」馬券は、100円が数百万円、ときには1000万円台や数億円も飛び出す、高額配当が期待できる「夢の馬券」だ。時間をかけて予想して、大儲けしても一時所得として税金がかかることになる。
インターネットで馬券を買うと......
そもそも、国税当局はどうやって高額配当の馬券を当てた人を見つけるのだろう――。今回の件が報道されると、インターネットでは「なぜばれたのか?」といった投稿が相次いだ。
競馬場や場外馬券売り場で馬券を買って、支払機で払戻金を受け取れば、誰がいくら買って、いくら払い戻したかなどはわからないはずだ。そもそも年間で50万円を超える当たり馬券をまじめに税務申告する人も少ないとみられる。
しかし、最近はインターネットを通じて馬券が買える。この場合、購入時と払い戻し時の金額のやり取りの履歴が銀行口座にしっかり残る。それが「動かぬ証拠」になることはありうる。
また、払戻金が1億円超にもなると、宝くじが当たった人のように、本人が黙っていてもどこからともなくウワサになったり、家の駐車場に突然、高級外車が置かれていたり、羽振りがよくなることもあるかもしれない。
競馬場では馬主などのVIPが当たり馬券を払い戻す窓口の裏には税務署員が待機しているといった話がまことしやかにささやかれてもいる。その一方で、そんな人たちは馬券を少額に小分けするなど、わからないように買っているともいわれる。いずれも真偽は不明だ。
今回の脱税摘発となった件については、インターネットで馬券を購入していたとの報道もある。大阪国税局に、今回の脱税が発覚した経緯について聞くと、「それはお話しできません」と、きっぱりと断られた。