2024年 5月 1日 (水)

「給付型奨学金」めぐる社説バトル 「さらに拡充を」VS「疑問」を連発

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   大学・短大・高専・専門学校に進む学生を対象に、返済不要の「給付型奨学金」制度ができる。正式には2018年度スタートだが、私立大の下宿生らに対象を限定して2017年度から一部先行実施される。これまで「貸与型」だけで、卒業して社会に出る段階で何百万円もの借金を背負ってスタートし、取り立ても厳しいなど、「消費者金融並み」との批判もあっただけに、大きな政策変更だ。

   今の高校2年生が対象になる2018年度に始まる制度は、月額で国公立大の自宅生2万円▽国公立大の下宿生と私立大自宅生3万円▽私立大下宿生4万円▽児童養護施設出身者には入学金支援として一時金24万円も別途給付――というもの。対象者は住民税非課税世帯の1学年約2万人。全国約5000の高校で1校1人以上採用し、2人目以降は各校の非課税世帯の生徒のうち、貸与型奨学金を使った進学者の割合をもとに配分する。高校の成績が一定以上の生徒や、課外活動などで優れた成果を上げた生徒の中から各高校長が推薦する。具体的な推薦要件は文部科学省が指針を策定する。

  • 「給付型奨学金」をめぐり
    「給付型奨学金」をめぐり
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参院選を前に急に話が進んだ理由

   本格的な運用開始に先立ち、2017年度は児童養護施設出身者と私立大下宿生に月4万円を支給する。

   日本学生支援機構に専用の基金を設け、2017年度予算案に70億円を計上し、先行実施分に14億円を充てる。本格実施後の予算規模は年間200億円を超える見込みだ。

   給付型奨学金について、国による制度がないのは、経済協力開発機構(OECD)加盟国では日本とアイスランドだけという「不名誉」にもかかわらず、政府は必ずしも積極的ではなかった。

   非正規雇用の増加などを背景に格差社会への関心は年々高まり、特に子どもの6人に1人が貧困(相対的貧困率16.3%=2012年)とされ、経済的理由で十分な教育が受けられず、貧困が次世代に連鎖するという悪循環も指摘される。政府も2014年8月に「子供の貧困対策に関する大綱」を閣議決定するなど、「貧困対策」を総合的に進めてきた。ただ、奨学金については、同大綱でも「無利子奨学金制度の充実を図る」などとするにとどまり、給付型への問題意識は低かった。

   野党などは前から選挙公約などに掲げていたが、与党が一気に動いたのは2016年に入ってからといわれる。「7月の参院選で格差問題が争点化するとの懸念から、野党の『目玉政策』つぶしの狙い」(全国紙政治部キャップ)というのだ。

制度設計はバタバタの作業

   このため、制度設計はバタバタの作業。文科省が検討チームを設けて初会合を開いたのが6月22日の参院選公示後の7月4日で、投開票(7月10日)後の8月2日に閣議決定した経済対策に、2017年度予算編成の過程で検討すると書き込む――といった具合だった。

   それでも、とにもかくにも給付型奨学金の誕生が大方の好評を得ているのは間違いなさそう、と思いきや、全国紙の社説の論調は分かれている。「教育の機会均等の観点からも、新たな制度を創設する意義は小さくない」(読売2016年12月31日)など、朝日、毎日、読売が基本的に歓迎しているのに対し、産経はかなり懐疑的と、立場にはかなり差がある。

   比較的ニュートラルなのが読売で、「親が十分な教育費を捻出できず、成績が伸び悩む生徒もいる」「大学進学率が5割を超える中、学費や生活費の工面に苦労する学生が増えている」など格差の現状を説明し、国の奨学金が貸与型しかないことに、「学生は大学卒業時に平均310万円の借金を抱える。非正規雇用で返済に苦しむ人も多く、3か月以上の滞納者は17万人に上る」として、「教育の機会均等の観点からも、新たな制度を創設する意義は小さくない」と評価している。

「ブラックバイトと分かっていても続けざるを得ない学生は多い」と指摘も

   これに対し、不十分との立場が朝日と毎日だ。朝日(12月21日)は「心もとない船出だ」と題し、「『貸与型』だけだった施策の大きな変更であり、意義深い」と、基本的に評価しつつ、「規模があまりに小さい。将来をになう若い人材をどこまで励まし、支えることにつながるのか、心もとない」と強調。具体的に、「住民税が課税されない低所得世帯から進学する若者だけで、推計で毎年6万人いるのに、その3分の1しかカバーできない」「金額も(略)授業料の減免や無利子の奨学金など他の制度も組み合わせて、何とかやっていけるレベルの額でしかない」などと指摘している。

   毎日も、成人の日に合わせた社説(2017年1月9日)の中で「奨学金の拡充を」との小見出しを取り、「生活費が足りず、ブラックバイトと分かっていても続けざるを得ない学生は多い」など過酷な実情にも触れ、新制度の額など「一歩前進ではあるが、まだまだ不十分だ」「とくにハンディを負うのは児童養護施設の人たちだ。(略)進学したくても諦めるケースは多い」などと触れ、格差の固定化を避ける必要を訴えている。

   一方、給付型の制度自体への懐疑的な見方が突出するのが産経。具体的制度が検討されていた16年10月25日時点の主張(社説に相当)で「本当に困っている学生に行き渡る制度改善となるのか疑問だ」「現行制度でも、卒業後の事情に応じて返済を猶予できる。経済的に困窮する世帯への助成策なら、学費減免など就学支援策がある」「優秀な学生が進学を諦めないようにするためなら、学費を免除する特待生制度などを大学ごとに工夫する方が有効ではないか」など疑問を連発。与党が制度創設に動き出した春にも、貸与型の返済負担が重いとの批判に反発し、「ローンを押しつけているかのように制度を非難し、返せない者が多いから『給付制を』というのでは本末転倒である」(4月18日主張)と断じていた。

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