こんにちは。ネットニュースの明日を探っているJ-CAST名誉編集長・山里亮太です。1回目は、「文字起こしニュース」を根絶やしにしたいと熱く思いを語り、2回目はそんな「文字起こし軍団」との共存方法を考えました。3回目は、テレビとネット、そしてネットが陥っている広告問題について掘り下げます。お話を伺うのは、ジャーナリストで法政大学社会学部メディア社会学科准教授の藤代裕之さんです。これまでの記事もチェック↓【1】「文字起こしニュース」を根絶やしにしたい【2】ネット軍団と共存するには尾を引くフジテレビ買収事件山里:ネットとマスメディアって、ちょっと敵対している感じありませんか? ネットでテレビの動画を扱うこととか、神経質ですよね。藤代:テレビとの関係についていえば、2005年に起きたライブドアのフジテレビ買収事件。あれがアレルギーになっているんですよね。そのあと、楽天の三木谷さんがTBSを買収する話もあったじゃないですか。今考えてみると、彼らが言っていたのはそんなに難しい話じゃなくて、「テレビとネットをリンクさせてショッピングとかやったら儲かるよね」みたいな話をしているんですよ。当時、テレビ局の人は「そんなバカな!」って怒っていましたけど、今ものすごい勢いでそういうのやってますよね。山里:やってますねー。ジャーナリスト/法政大学社会学部メディア社会学科准教授 藤代裕之さん藤代:ちょっと先見性が足りないですよね。テレビはあぐらをかいていたと思うんです。でも、ユーザーさんは便利な方を取りますよ。テレビは持ち歩けないですし、ワンセグ機能もスマホになって使われなくなった。テレビはネットから遠ざかったことで、お客さんが減っちゃったと思うんです。山里:手厳しいですね。藤代:ただ、状況は変わってきています。ネットを上手に使えるテレビ番組にはファンが多いんです。よく例にあげるのが、ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)とか「真田丸」(NHK大河ドラマ)とか、「あまちゃん」(NHK連続テレビ小説)です。(逃げ恥の)踊ってみたっていう動画をYouTubeにアップしたり、(あまちゃんの)似顔絵描いてツイッターにあげたりして、それを見た人が「おもしろそう」「見てみようかな」と、どんどん広がっていきますよね。そういう風に、これまで話題に出てきた「バッドな循環」じゃなく「いい循環」を作れればいいんですよね。山里:あの買収事件のときに、ネットとの融合という流れになっていれば、今違っていたかもしれないですね。藤代:そうかもしれませんね。あの時と似たような状況が今、漫画界で起きているんですよね。漫画の違法サイト「漫画村」の問題ありますよね。政府がブロッキングするサイトを名指しして、憲法違反という指摘も出ていますが、そもそも、漫画をもっとスマホでスムーズに読めるんだったら「漫画村」なんて読まないですよね。いかにスムーズに読ませるかっていうことを、テレビとか出版社がもっと真剣に考えないとダメですよ。山里:なるほど、そうですね。藤代:芸能人の方の方がネットの大事さを分かっていると思うんですよ。どういう風にお客さんとつながっていくか、いいお客さんをソーシャルメディアで味方に付けていくか。「テレビ番組見てね」とつぶやくと、すぐに「いいね!」「見ます!」って返ってくるファンがいるアイドルとかは、強いですよね。山里:たしかにネットと上手にタッグを組めている人の方がうまくいっている気がします。ネット広告のロジックはブラックボックス藤代:実は"いいお客さんをつかまえる"という意味では、メディアも一緒なんです。さっき言った「いかにスムーズに見られるか」に加えて、もうひとつ重要なのが、「広告問題」です。フェイクニュース問題が認知されるにつれて、いいコンテンツが集まるサイトにいい広告を出そうという動きが起きています。だから、メディアにもいいお客さんがつかないといい広告がつかなくなっている。ゲスいメディアには、ゲスい広告しかつかないんですよ。山里:そうなんですか。藤代:最近は、変なサイトに大企業が広告出していると攻撃されるんですよ。攻撃はネットの得意技ですから(笑)。さっきの「漫画村」にも電子コミックを運営するNTTソルマーレ社やDMMの広告が出ていて批判されています。山里:なんでわざわざそこに出しちゃったんですかね? ダメだって分かってるんじゃないですか?藤代:ネットってどのサイトにどの広告が出るかわからない仕組みなんですよ。テレビや新聞だと放送局や新聞社、番組を指定して広告を出すことができますよね。ネットでもサイトに広告を出す方法もあるんですが、アドネットワークと呼ばれる仕組みが登場し、自動的に広告を出してくれるようになったんです。ただ、どのサイトにどの広告が出るか、そのロジックはブラックボックスなんですよ。だから違法サイトにも広告が出ちゃうんですね。(図1、2)図1:「アドネットワーク」という仕組みがなかった時代は、広告主は媒体(WEBサイト)を指定して、個別に広告掲載を依頼していた。図2:広告媒体を束ねる「アドネットワーク」という仕組みが登場すると、広告主は媒体よりも「読者層」などの条件を指定して出稿できるようになった。これにより、効率的、かつ効果的に出稿できるというメリットがある一方、「どのサイトにどの広告が出ているのかがわからない」というデメリットもある。広告関連技術は急速に進化しており、現在はさらに複雑になっている。山里:知らなかったなぁ。でもそれを聞いて思うのは、ネットの問題っていつも後手後手ですよね。毎回言われるのが、法整備が追いついていないとかシステムが追いついていないとか。社会の仕組みはネットの進化に追いついているんですか?藤代:今、すごい勢いで社会のしくみとネットの常識がぶつかっているとところだと思います。特にアメリカとかヨーロッパでは顕著ですね。フェイスブックの創業者ザッカーバーグさんが議会に呼び出されて追究されています。その理由の1つが広告なんです。広告がロシアのプロパガンダに使われ、選挙操作やアメリカ社会の分断が疑われています。ブラックボックスの広告の仕組みがフェイクニュースやヘイトサイトが広がる温床にもなっているんですが、それは逆に広告を絞ったらそういうサイトは生きられない、ということです。一所懸命フェイクニュースを書いたり、違法漫画をアップロードしたりしても、広告収入が入って来なかったら、やる価値なくなりますよね。違法なサイトに広告を出している企業の商品の不買運動も欧米ではあります。ハイブランドの企業の広告が、フェイクニュースサイトに出るのはまずいじゃないですか。こんなところに出しているの?ってなりますよね。エロサイトとかヘイトサイトとかも同じです。山里:ですね。ニュースに引っ張られてこの商品もはたして信用していいのかってなりますよ。藤代:でも実は広告主は出したいんですよ、ネットやスマホに。多くの人がスマホでニュースを見るようになっていますからね。でも安心して広告を出せるところがないんですよ。山里:それは出すに値するところがないということですか?藤代:そうですね。テレビやラジオ、新聞社はスマホで存在感が乏しいじゃないですか。あるのはゲスいメディアばかりで、そこにゲスい広告が出ている。ハイブランドはそんなところに広告を出したくない。企業の広告担当者から「どこに出していいか困っている」という話も聞きます。ブランド化されたメディアを作っていくと、ハイブランドや大手企業の広告が入ってくると思うんですけどね。山里:先生がおっしゃっている真ん中のメディア(編注:ミドルメディア)は気付いてはいないんですか? それともそこまで成熟してないんですか?藤代:そうなんです、成熟していないんですよね。雑誌だと、なんとなくわかれていますよね。『文春』とか『新潮』ならこんな記事内容で、こんな広告が掲載されている、『GQ』とか『Pen』ならこんな広告だろう、と。そこに載っている広告イメージってあるじゃないですか。コンテンツと広告は不可分なんですよ。でもそれがネットにはまだないんですよね。ちょうど今が、ネットでも媒体がわかれていく境目にきていると思うんです。Photo中川容邦(続く)これまでの記事もチェック↓【1】「文字起こしニュース」を根絶やしにしたい【2】ネット軍団と共存するには藤代裕之氏プロフィールふじしろ・ひろゆき 1973年徳島県生まれ。広島大学文学部哲学科卒業、立教大学21世紀社会デザイン研究科前期修了。徳島新聞記者を経て、NTTレゾナントでニュースデスクや新サービス立ち上げを担当。現在、法政大学社会学部メディア社会学科准教授。専門は、ジャーナリズム論、ソーシャルメディア論。近著に『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』(光文社新書)。ミドルメディアだけでなく、ニュース変化の歴史や、フェイクニュースが生まれる構造についても詳しく書かれている一冊。ネットメディア覇権戦争偽ニュースはなぜ生まれたか(光文社新書)postedwithカエレバ藤代裕之光文社2017-01-17
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