読者の皆さん、こんにちは。J-CASTニュース・名誉編集長の山里亮太です。これまで6回にわたり、ネットニュースの課題と向き合ってきました。いよいよ最終回です。最終回は、「SNSと芸能人」について。モデルは、あのキングコング西野です。僕とアイツとは、吉本のお笑い養成所の同期なんですが、まあ、たしかにすごい! 悔しいですが、アイツのSNSの使い方、全部"正解"なんですよね。そのあたり、どう思いますか? 法政大学社会学部メディア社会学科准教授の藤代裕之先生!これまでの記事もチェック↓【1】「文字起こしニュース」を根絶やしにしたい【2】ネット軍団と共存するには【3】テレビのネットアレルギー【4】ラジコが起こした革命【5】「炎上ビジネス」が終わる日【6】「正義」を振りかざす恐怖西野は日本の芸能界の「トランプ」山里:今、SNSの使い方って大事じゃないですか。そのなかで、僕1人「こいつは!」っていうのを知っているんですけど、吉本の同期で「キングコング」の西野(亮廣)(※1)っていうやつで。こいつが「炎上」の使い方っていうか、SNSの使い方がめちゃくちゃうまいんですよ。認めたくないですけど、あいつのこれまでのSNSの使い方、ぜんぶ正解をたたき出しているような気がして。その辺どう思います?(※1)西野亮廣さん(37歳)(写真左)は、お笑いコンビ「キングコング」のツッコミ担当。今は「絵本作家」としての方が有名になりつつあるかも。近著の「えんとつ町のプペル」(幻冬舎)は、累計発行部数は35万部越えの大ヒット中。藤代:僕もそう思います。いいかどうかは別として使い方はうまい! 山里さんからみて西野さんのどのあたりが上手だと思います?山里:自分がブログで発信することで、それがどう叩かれるかも分かっていますよね。ツイッターやブログを見ている人たちは"叩かせられている"と思うんです。藤代:あー、なるほど。山里:「自分がこう書いたら、相手はこう攻めてくるだろう」とか、「これをつぶやけば、これくらいの反響になるな」とか。攻撃のされ方も、みんな西野が知っているパターンで。全部わかったうえでやっていますよね。ブログで発信したことがSNSで叩かれて、アクセス数が上昇して、それをワイドショーが取り上げて、こんどはそれを観た人がブログに「どれどれ」って戻ってくる。そうやって炎があがって、あがりきったところで、「では皆さん! こんな僕ですが、今からこんなことをやります」と、ぐうの音も出ないようなアイデアを見せつけてきて。(※2)さらには、この前の「ハレノヒ事件」(※3)のときですよ。どのメディア、どの著名人よりも、日本で1番うまく対応したのは西野じゃないですか。そういうスピード感とネットの使い方、ネットの人間に対する対応力はすごいなと思っているんですよね。(※2)山里編集長がぐうの音も出ないと白旗をあげた、西野さんのブログ。ここでの発言が"炎上"の火種になることもしばしば。ブログタイトルは「西野亮廣ブログ」。(※3)2018年1月の成人式の日、晴着販売・レンタルを行っていた「はれのひ」が突然営業を取りやめ、晴れ着を着られない新成人が相次いだ事件。このニュースを受け、西野さんは、被害に遭った新成人のために成人式を開催。振り袖を無料で提供したほか、着付けとヘアメイク、プロのカメラマンによる写真撮影も無料、さらに、クルージングディナーをプレゼントした。藤代:なんか(彼の中に)「勝ちパターン」があるのかもしれないですね。ジャーナリストで法政大学社会学部メディア社会学科准教授の藤代裕之さん山里:昔は、あいつにツイッター上でよく噛みついていたんですけど、なんというか、もう「ペリーが来たときに、竹やりでえいやー!」ってやってるようなもんだなと。藤代:(爆笑)。大砲ドーン! みたいな(笑)。山里:そう。大砲ドーン! って撃ち込まれているときに、こっちは一所懸命小石を拾って投げているみたいな(笑)。そんな滑稽なことあります? 自分がみじめになることを見せつけられている感じですよ。藤代:今話を聞くと、撒き餌をまいて批判する人が群がってきたところを高いところから見物しているような感じですよね。「見ろ、人がゴミのようだ」と(笑)。山里:ムスカ(※4)ですね(笑)。(※4)スタジオジブリの映画『天空の城ラピュタ』に登場する悪役の名。藤代:そうムスカ状態(笑)。そこでスイッチを押すとドカーンですね(笑)。山里:あれは正解のモデルなんですかね。藤代:いろいろやり方はあると思うんですけど、ソーシャルメディアをうまく使えない人はあまりにも"流れ"を見ていなさすぎだと思うんですね。ソーシャルメディアには"流れ"があって、西野さんは流れをつかむのが上手なのでしょう。あれくらいのパワーがあると、むしろ"流れ"さえも作れる方ですよね。みんなが「次はこういうことやるだろう」という予想もどんどん裏切っていきますし。そのあたりは、トランプの手法に似ていますよね。山里:日本のトランプ!?藤代:日本の芸能界のトランプ!山里:うわー、認めたくないーーーーー!!!SNSは「発信」ではなく「分析」せよ藤代:次は何をやるんだろう、と思うから見ざるをえないですよね。トランプさんも、時々いいことやるじゃないですか。そのときは「今回はまともだ!」とか新聞が書くんだけど、その翌日にはまたとんでもないツイートをして、ドカンと燃えて(笑)。その予測不能さに、みんな右往左往させられていますよね。山里:西野やトランプさんって、どんなに叩かれても、それで注目が集まればいいっていうことですよね。しかも、攻撃してくるやつらを、一瞬で黙らせる"弾"を持っているんだぞ、と。それがソーシャルメディアの向かい方としては、一番健康的なんでしょうね。藤代:あれは職人芸ですよ。超能力に近い。誰もかれもみんな、あんなことはできないですよ。普通の人は、西野さんやトランプさんみたいになれない。特に企業は難しい。だから組織的にソーシャルメディアをうまく利用するには、発信じゃなくて「聞く」のがいいと思うんですね。ソーシャルメディアは、発信ばかりに目がいきがちなんですけど、実は「分析」に向いていると思うんです。山里:分析ですか? ということはですよ。今SNSで何言っても叩かれるから、怖いっていう芸能人多いじゃないですか。それは、怖くて発信できないと思うくらい、まだ分析ができてないってことですか?藤代:そうですね。どういう発信はまずいのか、批判される時はどういうパターンがあるか、などを分析した方がいいと思います。山里:なるほど。単純に「叩かれたもうだめだ」じゃなくて、その叩き方をみて、いろんな武器を用意していけばいいってことですか?藤代:芸能人の方は、テレビとかラジオに出ている時にその反応を見て、ある種のマーケティングをしているのではないでしょうか。「山ちゃんいいね!」という好意的な意見から、その人らしさや、何が売りになるのか考えていますよね。所属事務所で分析チームを作ってやればいいんじゃないですか。「攻撃的な意見もあるけれど、これはひとつのアカウントだから無視しよう」とか、「新しい役柄にチャレンジしたけど好意的な意見が多いな。これは参考にしよう」とか。山里:なるほど。......先生、今度1回、弊社(吉本)に講演に来ていただいてもいいですか?藤代:お声がかかれば(笑)。売れなきゃバズり損藤代:そういうソーシャルメディアの使い方をしているところって強いなと思っているんですよ。だって、バズっても売れなきゃ意味ないじゃないですか。山里:バズるのと売れるのをくっつけられている人って少ないですよね。藤代:少ないですよ。売れなきゃバズり損ですよ。バズり損は意味ないですよね。ソーシャルメディアって発信に命を懸けている人もいるけど、リアルな生活の中で生きている人にとってはソーシャルメディアはひとつの"ツール"に過ぎない。単にバズるだけじゃなくて、どうやったらお客さんが来るとか、どうしたら本が売れるとか、を考えているから、西野さんは強いんだと思います。山里:そうか、その先のビジョンがあるんですね、西野には。藤代:そこが全然できていない人が多いですね。何のために発信するのかが大事。怖かったら無理に発信しなくてもいいんですよ。山里:そうなんですよね。なのになぜかみんな勝手にニュースを甘く斬ってみたり(笑)。ニュースを甘斬りしてしまったときのあの後悔感(笑)。藤代:甘斬り(笑)。山里:本当に(笑)。お酒を飲みながら怒りにまかせて「こんなのおかしい」って甘斬りしちゃって、翌朝、"大叩かれ"しているとか。藤代:甘斬りした結果が?山里:そう、それこそバズり損ですよ! 単純に無知をさらして終わるっていう(笑)。難しいですね。藤代:バズり損はよくないですね。山里:そうですよね。バズることと連動させる、って、聞けば当たり前だけど。ツイッターなどでバズって盛り上がっている先にあることを考えてリンクさせるって自分の武器になるし。得るものもありますよね。藤代:そうしないとむしろお金も回らないし、ものも売れないし。単にバズるだけだといけないってだんだんわかってきたんですよね。山里名誉編集長の抱負藤代:ところで、名誉編集長になって抱負ってあるんですか?山里:きょう先生に教わって、僕は思いましたよ。正義面せず、ゲスい目線になるかもしれないけど、僕がきっかけでこういう目線ってあるんだなっていうのを伝えられたらいいなと思います。藤代:今の学生って新聞やテレビをあまり見ていない人が多いんですよ。ネットが当たり前ですが、これまで話してきたようにネットはゲスい。ゲスいだけ、バズるだけでなく、新聞のように学びがあるような中間的なメディアを作ってくれたら面白いんじゃないかなと思うんですよね。山里:そう。今プラットフォームを整備することが大事だということに、早く気付いたので、絶大な信頼感がうまれるプラットフォーム作りに一役買っていけたらと思いましたね。先生、本当にありがとうございました!Photo中川容邦編集後記:「ネットニュースをやっていく上での心得を教えていただきましょう」というレクチャー的なものかと思ったら、思った以上に濃厚なお話が聞けました。自分のネットニュースへの怒りを納得させるものをここで教えてもらえたおかげで、付き合い方や戦い方、嫌い方の選択肢を増やしてもらいました。何も知らないなぁ僕は...と思えたありがたい時間でした。(J-CASTニュース名誉編集長・山里亮太)これまでの記事もチェック↓【1】「文字起こしニュース」を根絶やしにしたい【2】ネット軍団と共存するには【3】テレビのネットアレルギー【4】ラジコが起こした革命【5】「炎上ビジネス」が終わる日【6】「正義」を振りかざす恐怖藤代裕之氏プロフィールふじしろ・ひろゆき 1973年徳島県生まれ。広島大学文学部哲学科卒業、立教大学21世紀社会デザイン研究科前期修了。徳島新聞記者を経て、NTTレゾナントでニュースデスクや新サービス立ち上げを担当。現在、法政大学社会学部メディア社会学科准教授。専門は、ジャーナリズム論、ソーシャルメディア論。近著に『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』(光文社新書)。ミドルメディアだけでなく、ニュース変化の歴史や、フェイクニュースが生まれる構造についても詳しく書かれている一冊。ネットメディア覇権戦争偽ニュースはなぜ生まれたか(光文社新書)postedwithカエレバ藤代裕之光文社2017-01-17
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