2019年 11月 19日 (火)

岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち ベツレヘムの「壁」とメキシコの「壁」

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「セキュリティ・フェンス」と呼ぶイスラエル

   ベツレヘムに高々とそびえ延々と続く分離壁は、思った以上に威圧的で閉塞感があった。まるで刑務所の中にいるような錯覚を覚える。監視塔ではイスラエル兵がパレスチナ人を見張っている。有刺鉄線や電気フェンスに囲まれている壁もある。

   分離壁はパレスチナ人の土地を奪い、そこに生活する人々を追い出し、町を分断した。イスラエル政府はこの壁を「セキュリティ・フェンス」と呼び、テロの被害が大幅に減ったと報告している。

   壁には、トランプ大統領がらみのグラフィティが多く見られた。実際の監視塔を抱きしめる巨大なトランプ氏が描かれ、その周りにピンクのハートが散りばめられていた。

   「壁ではなくてフムス(伝統的なアラブ料理である豆のペースト)を作れ」と大きく描かれたものや、トランプ氏を汚い言葉でののしったものもある。

   2019年1月、この町に住むパレスチナ人牧師が、メキシコとの国境に建設する壁の予算の合意が得られない親イスラエルのトランプ氏を皮肉るツイートをした。

「親愛なるトランプ氏へ、壁ならここパレスチナにありますよ。喜んでこの壁をプレゼントしますよ。グラフィティも一緒にどうぞ。この壁の費用は、あなたたちがすでに支払い済みなんですよ」

   ツイートには、敬虔なユダヤ教徒が使う帽子キッパを被って祈るトランプ氏の、大きなグラフィティが描かれた分離壁の写真が添えられている。ユダヤ教徒の聖地『嘆きの壁』を訪れた時の様子で、「I'M GOING TO BUILD YOU A BROTHER...(君の兄弟を建設しますよ=別の壁を建設しますよ)」と頭のなかでつぶやいている。

   壁で分断された2つの世界は、接触がなく、お互いの顔がまったく見えない。敵対心は大きくなり、溝は深まるばかりだ。

   獣医でもあるデービッドには、ユダヤ人入植地に住むユダヤ人の仕事仲間がいるという。「僕たちが友だちになれるのなら、アラブ人とユダヤ人は友だちになれるということじゃないのか」

   それだけが唯一、希望を持てるかもしれないと思えたデービッドの言葉だった。

(次回に続く、随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計37万部を超え、2017年12月5日にシリーズ第8弾となる「ニューヨークの魔法のかかり方」が刊行された。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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