2024年 5月 6日 (月)

老舗つまようじ会社、転売ヤーの「相乗り出品」被害に 何とか撃退も...Amazon利用者に注意喚起

   2年前の火災から立ち直りつつある国産爪楊枝メーカー・菊水産業(大阪府河内長野市)の「転売」をめぐる騒動が大きな注目を集めた。

   SNSで話題になった化粧箱入りの爪楊枝が完売した隙に、無関係な事業者が通販サイト「アマゾン」で高額な予約販売を開始した。しかし同業者らの知恵を借りて、悪質な事業者らは3日間ほどで撤退したという。

   いったい何があったのか。J-CASTニュースは2023年8月23日、代表の末延秋恵(すえのぶ あきえ)さんに一連の経緯を取材した。

  • 菊水産業の爪楊枝。パッケージは火災被害後に初めて作った
    菊水産業の爪楊枝。パッケージは火災被害後に初めて作った
  • SNSで注意喚起を行う
    SNSで注意喚起を行う
  • 現在のアマゾン商品ページ
    現在のアマゾン商品ページ
  • 菊水産業の爪楊枝。パッケージは火災被害後に初めて作った
  • SNSで注意喚起を行う
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「自社でも在庫が無く、いつ再販できるかもわからないのに...」

   菊水産業は1960年、爪楊枝生産が盛んだった大阪府河内長野市で創業した。同社によれば、現在も国内で爪楊枝の生産を行っているのは同社含めたった2社しかない。末延さんは21年、祖父たちが残した大切な会社を残したいと考え、4代目後継ぎとして代表に就任した。

   しかしその1か月後に巻き込まれた火災によって、工場を除き事務所や倉庫など全ての建物を失う。復活を目指したクラウドファンディングがSNSで話題になり、メディアでも取り上げられ、問い合わせも寄せられるようになった。末延さんは多くの人に支えられたことに感謝し、SNSで応援してくれた人々に近況を発信している。

   そういったエピソードの1つがX(ツイッター)で話題になったことをきっかけに、化粧箱入りの爪楊枝「きくすい 日本製 純国産しらかば楊枝 約300本入」(税込み550円)が8月20日に完売した。取材に対し末延さんは、従来であれば月に100箱ほど売れる商品で十分な在庫はあったと振り返る。

「400箱ほどあったのが、急に売り切れてしまいました。手元にあった箱と注文数を確認しながら、オンラインサイトの在庫に反映していきました。新たに化粧箱の発注をかけましたが、週末だったので納期も不明で、いつ販売を再開できるか分からない状態でした」

   すべてのオンラインサイトの在庫を0に反映したはずが、20日にアマゾンで1800円で出品されていた。菊水産業が商品を販売していたページで、無関係な事業者が高額な転売を始めたのだ。すでに販売されている商品と同じページで別業者が販売できる「相乗り出品」という仕組みを用いたものだった。

「21日に見たときは予約販売に変わっていて、9月1日発売予定と告知されていました。自社でも在庫が無く、いつ再販できるかもわからないのに、おかしいと感じました」

   アマゾンに問い合わせを行うも、返事を待っている間に4事業者が出品していた。

高額な転売が売れてしまい「正規価格」で販売が

   末延さんによれば、アマゾンからは菊水産業でも予約販売を行うよう助言を受けたという。やむを得ず納期を長めに設定して、商品を登録しようとするも、いつまで経っても反映されず、おかしいと思っているとカスタマーセンターからメールが届いていた。

「カスタマーセンターから寄せられたメールによれば、他の事業者が1600円から1800円ほどで出品しているのを購入された方がいらっしゃったようです。アマゾンのシステムでは、販売実績をもとに平均価格が決まるようで、本来の価格である550円は安すぎて適性の価格ではないとみなされてしまったようです」

   アマゾンでは、過去60日間に購入された価格に基づき平均販売価格を算出している。この価格設定を下回る場合、適正な価格であることを証明できる情報を送らねばならない。しかし末延さんによれば、他のECサイトなどの情報を伝える場合、販売中の情報でなければならなかったという。在庫が無かったために、正規の価格を伝えることはできなかった。

   末延さんは菊水産業の公式ECサイトにも、長めに納期を設定した予約販売ページを立ち上げた。このページをもって、アマゾンに正規の価格を伝えたいと考えたためだ。しかし反映には時間がかかる。待っている間にも、別の事業者から高額で届くことのない爪楊枝を購入してしまうユーザーが現れるかもしれない。

「アマゾン利用者の多くは出品者、発送元を見ていない人が多いように思います。なにかあれば、クレームが寄せられるのはメーカーです。勝手に予約販売されて届かないとうちにクレームが来ても困ると思いました」

   Xで21日、「今Amazonに出ている商品の販売元はうちではありません」などと注意喚起を行った。

「だってこれ9月1日発売予定って...今在庫ないって言ってるのに、9月2日にお届けってどうするつもりなん?予約した人は菊水産業が送って来ない!ってうちにお問い合わせするやんな?気を付けてください!」

高額出品者が撤退...SNSのおかげ?

   菊水産業が注意喚起を行うと、フォロワーから心配の声が寄せられた。高額転売を行う事業者を通報したと報告するユーザーもいたという。さらに同業者からたくさんの助言が寄せられたという。

   とくに心強かったのが、アパレルブランドnakotaの代表取締役・吉田真太郎さんだった。日ごろから付き合いがあったが、Xの投稿を見てダイレクトメッセージで相談に乗ってもらったという。

「アマゾンのカスタマーセンターは時間がかかるから自分で対応したほうがいいと、連絡をくれました。アマゾンを通じて高額で出品している事業者たちに、無在庫販売による転売を行っているとして、弊社の商品の出品取り下げなどを要求しました。無在庫販売はアマゾンの規約でも禁じられています。今回は完全に在庫がない、製造元にもどこにもない状態ですので、絶対に言い逃れできない状況だったはずです。文面はほとんど吉田さんが考えてくれました」

   21日の夕方に通告すると、4事業者全てが22日昼までに出品を取り下げた。末延さんは「在庫が無いものの予約販売を行うのは詐欺だと思う。絶対に届くわけがなく、悪質だと感じた」と振り返る。

   菊水産業はまだ、アマゾンに正規価格での出品は行えていない。しかし今回の転売騒動によってふたたびSNSで注目を集めたことで、フォロワー数が増えた。さらにこれを機に立ち上げた自社サイトには、すでに400件以上の予約注文が寄せられたという。

   末延さんは次のように呼びかける。

「購入者の方々も、日ごろから『誰が売っていて、どこが発送するか』注意する必要があると考えています。私自身も便利な通販サイトを日ごろからよく利用していますが、何か変だなと感じたら、調べてみてほしいです。実際に出品者の電話番号が繋がらなかったり、住所が変だったりしたという話も聞きます。私自身も今後、気を付けていきたいです」
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