2024年 5月 7日 (火)

73歳シニア記者、生成AIでリスキリングに初挑戦 文章はうまくなったのか?

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   ITスキルが低く、「職場のお荷物」と見られがちなシニア世代。生成AI(人工知能)の登場でますます仕事を奪われると思いきや。

   むしろ、シニア世代ほど生成AIによるリスキリング(学び直し)の「底上げ効果」が大きいという研究が発表された。

   本当ならうれしい! J‐CASTニュースBiz編集部の73歳シニア記者が研究者の門を叩き、生成AIに初挑戦してみた。

  • 白石さんからAI講習を受ける筆者と、それを画像生成AIで作ったイメージアニメ
    白石さんからAI講習を受ける筆者と、それを画像生成AIで作ったイメージアニメ
  • 白石香織さん
    白石香織さん
  • (図表1)白石さんの8歳と4歳の子どもが画像生成AIで描いた絵(白石さんの修正あり)
    (図表1)白石さんの8歳と4歳の子どもが画像生成AIで描いた絵(白石さんの修正あり)
  •  (図表2)生成AIで変わるリスキリングの領域(第一生命経済研究所の作成)
    (図表2)生成AIで変わるリスキリングの領域(第一生命経済研究所の作成)
  • 白石さんからAI講習を受ける筆者と、それを画像生成AIで作ったイメージアニメ
  • 白石香織さん
  • (図表1)白石さんの8歳と4歳の子どもが画像生成AIで描いた絵(白石さんの修正あり)
  •  (図表2)生成AIで変わるリスキリングの領域(第一生命経済研究所の作成)

4歳の子どもでも、驚きの絵を描くことができる

   筆者(J‐CASTニュースBiz編集部記者、福田和郎)は現在73歳。新聞社時代を通じて記者歴は長いが、IT音痴だ。ガラケーからスマホに替えたのは、ようやく2022年3月。auの3G携帯電話向けサービスが終了することになったからだ。スマホ入力は、タッチペンを使ってのキーボード入力。いつも電車の中では恥ずかしい思いをしている。

   パソコン歴は長いが、ワードで文章を打つ程度。未だにエクセル、パワーポイントなどができない。ビデオ通話する方法が難しいので、取材を申し込んだ相手から「オンライン取材ならOKです」と言われると困ってしまう。これまでメール、電話、対面インタビューでしか取材してこなかったからだ。

   というわけで、「職場のお邪魔虫になっているのでは」と肩身の狭い思いをしていたところに、救いの研究レポートが現れた。第一生命経済研究所の白石香織さんが2023年11月21日に発表した「生成AIの『底上げ』効果で変わるリスキリング」だ。

   白石さんによると、生成AIの登場によって仕事を奪われるのではないかと心配する人が多いが、むしろ逆の面もある。会社の中では弱者の立場の人々、たとえば筆者のようなITに疎いシニア層、あるいは日本語能力が不足している外国人等が、生成AIを活用することでスキルの「底上げ」作用が可能となり、リスキリング(学び直し)の効果が見込めるというのだ。

   2023年4月に米スタンフォード大学が発表した研究でも、生産性が低い人ほど生成AIの活用による生産性向上が顕著にみられた。生成AIを活用した業務遂行状況を調査したところ、高スキルの熟練者より、初心者レベルの低スキルの人への影響が大きかった。つまり、生成AIは働く人のスキル格差を縮める効果がある。

   白石さんは、レポートの中で自身の8歳と4歳の子どもが生成AIを使って美しい絵を描いたケースを紹介している。「宇宙服を着たサルが宇宙でバナナを食べようとしている絵」と「レゴブロックで作った新幹線と富士山の絵」だ【図表1】。

(図表1)白石さんの8歳と4歳の子どもが画像生成AIで描いた絵(白石さんの修正あり)
(図表1)白石さんの8歳と4歳の子どもが画像生成AIで描いた絵(白石さんの修正あり)

   彼らはまだパソコンを使えないし、タイピングもできない。それなのになぜ、こんな絵が描けたのかというと、音声入力によって生成AIに「指示」を出すことができたからだ。

   白石さんはこういう趣旨のことを強調する。

《生成AIのスゴイところは、4歳でも使える点にある。親の監督のもとで、子どもでも簡単にクリエイティブな作品を作り上げることができる。従来の画像ソフトでは、パソコンの知識、タイピングや画像ソフトの操作の習得が必要となり、子どもにはハードルが高かった。しかし、生成AIではそうした知識の習得を省略し、より高いレベルからスタートすることができる》

   【図表2】が、白石さんがイメージする「生成AIで変わるリスキリングの領域」だ。たとえば、絵を描く際、プロのレベルを「10」、子どもの絵のレベルを「1」とすると、生成AIとの協働によって、5つの段階を飛ばして「6」からスタートすることが可能になるという。

記者をナイスシニアに描いた画像生成AIの親切心

   IT音痴の筆者でも、「6」からスタートすることができるだろうか。実際に白石さんに取材し、合わせてシニア記者への「生成AIリスキリング講座」を受けることにした。

   まず、筆者のパソコンで画像生成AIの「Adobe Firefly」と、対話型生成AIの「ChatGPT」(GPT3.5)を使えるよう指導を受ける。割と簡単に登録が完了。

   そして、いよいよ画像生成AIのリスキリング講座が始まった。ここでは、Adobe Fireflyを使ってシニア記者のリスキリングの記念画像を作ってみる。画像生成AIに以下の指示(プロンプト)を打ち込んだ。

「73歳の記者が女性からパソコンを習っています。アニメ風に楽しそうな雰囲気で書いてください」

   すると、候補の画像が4枚出てきた。ここからさまざまな加工が可能ということで、白石さんから指導を受けているところを撮影した写真を画像生成AIにアップロードし、写真のイメージに近い画像を新たに作った。この画像と実際の写真を並べたのが【写真1】だ。

   生成AIがつくった画像上の記者のほうが、実物よりだいぶ「ナイスシニア」に仕上がっているが、これは「Adobe Firefly」の親切心と受け取った。

   さて、次に本題の「ChatGPT」を使った原稿執筆作業のリスキリングに進む。

白石さん「ChatGPTにご自身の立場や目的を説明して、何を聞きたいか、できるだけ具体的にプロンプトを書いてみてください。目的をはっきりと書くことが重要です。また、アイデアを〇個ください等、数字で示すと効果的です」

   そこで、こう書き込んだ。

「私は73歳のインターネットニュースのシニア記者です。ネットニュースでは記事へのアクセス数を稼ぐことが求められています。20代や30代の若者たちによく読まれる記事を書くにはどうしたらよいでしょうか。3つアイデアをください」

   ものの3秒もしないうちに、チャット君が答えた。

「素晴らしいですね!インターネットニュースでのアクセス数を増やすために、20代や30代の読者に向けた魅力的な記事を書くためのいくつかのアイデアがあります。
1. 若い読者層はトレンドやポピュラーカルチャーに敏感です。映画、音楽、テクノロジー、ファッション、ゲームなど、彼らが興味を持っているトピックにフォーカスすることが重要です。......
2.若い読者は健康やライフスタイルに関心を持っています。健康的な食事、フィットネス、メンタルヘルス、旅行、趣味に関連する記事は、彼らの生活にプラスの影響を与える可能性があります。......
3. ソーシャルメディアやコミュニティ活動に積極的に参加することで、読者との関係を構築しやすくなります。投票、クイズ、コメントへの回答など、読者が参加できる要素を取り入れることで、コミュニケーションを促進し、記事のシェアやコメント数が増える可能性が高まります」

教科書のような答えばかりの「チャット君」

   う~む。どれも教科書的だし、分かり切った内容だ。最後のコメント数の増やし方は少し参考になるが...。そこで、より詳細にこう聞いた。

「私が書いているのは経済ニュースが中心です。お金儲けや、投資、働き方、転職、上司や同僚との付き合い方などの情報で、若い読者に興味を持って読まれる記事にはどんなものがありますか。4つアイデアをお願いします」

   「素晴らしいですね!」とチャット君はまた言って、次の4つを挙げて、それぞれに簡潔な説明をつけた。

1.未来のキャリアと予測に関するアドバイス。2.投資の初歩的な解説と成功事例の紹介。3.働き方の変化と新しいビジネスモデル。4.お金のマネジメントとライフプラニング。

   そしてこう結んだ。

「これらのアイデアを活用して、経済ニュースをより若い読者にとって魅力的で、アクセスしやすいものに仕上げてみてください」

   う~む。これもよく言われていることだし、こんなことでアクセスを稼げるなら苦労はしない。そこで、さらに突っ込んでみる。

「若者の投資について聞きます。2024年から新NISAが始まりますが、新NISAで儲けるにはどうしたらいいですか。アイデアを5つ教えてください」

   チャット君は素早く次の5つを挙げ、また教科書のような解説を送ってきた。

1.長期的な視点でのポートフリオ構築。2.成長産業やテクノロジーへの投資。3.分散投資。4.情報収集と教育。5.トレンドを取り入れた投資。

   チャット君、また、どこかの投資専門サイトから、そのまま記事を引っ張ってきたようだ。待てよ、5の項目にこうあるぞ。

「社会的なトレンドや環境に対する意識が高まっている現代では、ESG(環境、社会、ガバナンス)に焦点を当てた投資が注目されています。社会的責任を果たす企業や環境に配慮した企業への投資も考慮してみてください」

   これは、使えるかもしれない。そこで、こう突っ込んだ。「ESGに焦点を当てた投資とは、具体的にどこの企業に投資するといいですか。4つのアイデアを出してください」

   チャット君は「以下は、ESGに注力しているとされる企業の例です。ただし、投資判断を行う際には十分なリサーチと検討が必要です」と断りながら、4つの企業の名前を挙げた。

1:ベスト・バイ(米国の家電小売業)。2:ネスレ(スイスの食品・飲料メーカー)、3:トヨタ自動車。4:クエスト・ダイアノスティクス(米国の医療診断サービスプロバイダー)

   チャット君が、初めて具体的な内容を挙げた瞬間だった。しかし、どこまで信用していいのだろうか。

「年の功」の人生経験と日本語力があれば

白石さん「ChatGPTが言うことが全て正しいとは限りません。ここから先は人間が情報の正しさをしっかり調べることが大切です。ChatGPTから情報を引き出すためには、今、福田さん(筆者)がしてきたように、ChatGPTと対話を繰り返しながら解決策を導く『プロンプト力』(AIへの指示や質問をする能力)が求められます。

その際、福田さんが40年以上の記者生活で身につけてきた文章力や日本語力が役立つのです。シニアの多くは、人生経験が豊富で、日本語力が長けています。生成AIがシニアのリスキリングの底上げに大いに役立つというのは、シニアが持つ長年の経験や深い知識に基づいて適切な指示を出せるからです」

   白石さんに励まされて気持ちがグッと乗ったところで、記事の「見出し」の練習に入る。チャット君も「アクセス数を稼ぐには、タイトルや見出しも重要」と言っていたからだ。

   筆者自身が書く記事の内容をこう指示して、チャット君に見出しをつけさせた。

「これから私が書く記事は、シニア記者が生成AIを新しく学び、若い人たちに追いつき、面白い記事を書けるようになるのがテーマです。若者に読んでもらえるような見出しを10本、お願いします」

   チャット君が即座につけた見出しはこうだった。

1.AIと私:シニア記者の冒険と学びの旅
2.未知のテクノワールド:AI探検家の日常
3.世代を超えた学び:AIの魅力に迫る
4.AIの魔法:シニアが解き明かす若者へのメッセージ
5.デジタル転進:シニアがAIで再発見する若さ
6.未来への一歩:シニアジャーナリストのAI入門
7.AIの魅力を探る:シニアの新たな挑戦
8.シニア目線で見たAI革命の先にあるもの
9.若さの探求:シニアがAIにどっぷり浸かる 10.未来の筆者:シニアが綴る冒険譚

   どれもイマイチだが、白石さんがこうアドバイスしてくれた。

「ChatGPTは知ったかぶりが得意の、出来のいい新入社員のようなものだといわれています。ここがよかったよと、具体的に褒めてあげると、もっといいアイデアを出します」

   そこで、「1と5と7がとてもよかった。これと同じような感じで、もっといいものを10個出してください」

   チャット君は「もちろんです。こちらが追加のアイデアです」とすぐに答えた。筆者同様、ほめられると調子に乗るタイプらしい。

1.AI学びの奇跡:シニアの新たな冒険と発見
2.若さの源は知識:シニアが描くAIの魅力
3.年月を越えて:シニアの心、AIと共に揺れる
4.AIの魅力:シニアが解き明かす新たな次元
5.異なる世代、異なる国、一つの未来:AIの魔法
6.AIへの想い:シニアの視点で描く未来
7.未知へ扉を開けて:シニアがAIの魔法に触れる
8.新たな挑戦の序章:シニアのAI学び舞台裏
9.AIの魔法:シニアが若者に贈る新しい物語
10.未知へのタイムトラベル:シニアのAI冒険譚

   だんだん良くなってきたが、「魔法」や「冒険」「タイムトラベル」といった言葉が踊り、映画「ハリー・ポッター」や「スター・ウォーズ」のキャッチコピーのような雰囲気も漂う。ファンタジーの世界に入ってしまった。チャット君の能力を引き出すのはなかなか難しい。

変化を楽しみ、冒険と奇跡を楽しみ、人生を楽しもう

   ここで改めて、白石さんに話を聞いた。

――今日、ChatGPTを初めて使って、うまく使いこなすことができれば、記事を書くうえで頼りになる助っ人になると感じました。ところで、企業が生成AIを活用して、シニア世代のリスキングに取り組んだほうがいい理由には、シニア世代の生産性を上げること以外にありますか。

白石さん 今後、生成AIは「ChatGPT〇〇会社版」といった、個々の企業に特化したバージョンが生まれてくると予想しています。

それぞれの企業が持っている膨大な情報や資産、データ、社員の知識やスキル、ノウハウ等をChatGPTに読み込ませて、企業内に共用して活用する時代がやってくるでしょう。

その際、重要になるのが、その業界・会社での専門知識や特有の経験です。こうした知識や経験を豊富に持ち、生成AIに高度な指示を出すことのできるシニアを活用することで、新たな価値やソリューションにつなげることができると考えます。シニア層はITスキルがないと決めつけずに、シニア層が培ってきたスキルを積極的に活用していくことが今後企業に求められるでしょう。

――なるほど。そんな時代を迎えて私のようなシニア層は、どういう心構えで生成AIと向き合っていけばよいでしょうか。

白石さん 今日、生き生きとした表情で生成AIに挑戦されていたように、変化を楽しんでください。新しいものを積極的に試してみて、冒険と奇跡を楽しみ、人生を楽しんでください。

ただし、現時点のChatGPTはインターネット上にある膨大なデータから言葉を編み出しているにすぎないため、新しいものを生み出すことはできません。また、間違うこともあります。

しかし、人間は新しいアイデアを生み出します。たとえば、今日、福田さんがやってみた「生成AIを自分が試してみて、シニアのリスキリングを記事にしてみよう」という発想は、ChatGPTでは思いつかないでしょう。生成AIを使うことは、人間の素晴らしさを再確認することでもあります。

(J-CASTニュースBiz編集部 福田和郎)


白石香織(しらいし・かおり)

第一生命経済研究所総合調査部マクロ環境調査グループ主任研究員

慶應義塾大学卒。第一生命保険入社後、2010年米ノースカロライナ大学で経営修士号(MBA)取得。仏パリにあるOECD(経済協力開発機構)経済産業諮問機関に出向、政策アドバイザーとして国際ロビー活動に従事。2011年より現職。

専門は労働政策・国際政策(リスキリング、ジェンダー)。研究リポートに「男女賃金格差解消には『OBN文化』からの脱却~脱・オールド・ボーイズ・ネットワーク(OBN)文化のカギはDE&I~」など。日経xwoman(クロスウーマン)アンバサダーとしても活動中。2歳・4歳・8歳の3児の母として仕事と育児に奮闘中。

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