経済産業省が2026年8月20日、日本発コンテンツの海外売上を33年に20兆円へ伸ばす「エンタメ・クリエイティブ産業戦略2026」を取りまとめた。副題を「ものがたり大国5か年計画」と銘打ち、24年の海外売上6兆1000億円から28年に10兆円、33年には自動車の輸出額に匹敵する20兆円まで拡大させる構想だ。この新戦略によって、ゲーム、アニメ、マンガ、音楽、実写の5分野の海外売上をさらに伸ばそうとしている。だが同じタイミングで、政府が官民ファンド「クールジャパン機構」(海外需要開拓支援機構)を廃止する方針を固めたことが明らかになった。2025年度の累積赤字は540億円。経産省は、27年度の財政投融資計画で同機構への概算要求を見送る方針だ。多額の公金を投じながら、540億円の累積赤字を残してクールジャパン機構が廃止へ向かう中、今度は日本発コンテンツの海外売上20兆円という大目標の実現に向け、新たな戦略をまとめた。過去の失敗を十分に検証しないまま、やみくもに突き進んで大丈夫なのか。「クールジャパン機構」が廃止方針も...政府は予算倍増を検討クールジャパン機構は、安倍政権下の2013年に発足。海外需要につながる日本のアニメやゲーム、食、先端技術などの事業に出資し、政府が「リスクマネー」を供給することで、民間資金の呼び水になるはずだった。ところが、2026年3月時点の出資金1513億円のうち、政府出資は1406億円。公金依存の色合いが濃く、ばらまきと捉えられかねない構造だった。最大投資先のバイオ繊維ベンチャー「スパイバー」には約140億円を投じたが、同社は債務超過となり私的整理に入る事態となった。吉本興業やNTTと進めた教育コンテンツ事業「ラフ&ピースマザー」も最大100億円の支援を決定し、実際に31億円を出資したものの、柱だった海外展開は頓挫した。最大12億円を投資した大阪市の劇場型文化集客施設「COOLJAPANPARKOSAKA」は、吉本興業や在阪テレビ局などが参加し、2019年に開業したが、コロナ禍で集客に大打撃を受け、思うような成果は上がらなかった。赤沢亮正経産相は6月、経営陣の第一義的な責任に加え、監督する経産省にも責任があるとして、損失の要因や責任を検討すると表明。政府も事実上の「失敗」を認める形になった。さて今回発表された新戦略「ものがたり大国5か年計画」では、海外売上について、ゲームは3兆4000億円から12兆円、アニメは2兆1000億円から6兆円、マンガは3000億円から1兆円などへ伸ばす。具体策としてコンテンツ産業支援メニュー「IP360」(コンテンツ産業成長投資支援事業)を展開し、新規IPの創出、大規模作品の製作、海外流通、翻訳、プロモーションなどを支援する。7月3日付の共同通信の報道によると、政府はコンテンツ産業を支援する予算の倍増を検討。現在の年約550億円から1000億円規模に増やし、今後5年で5000億円以上を確保する方針だという。新戦略を基に、これまで以上の公金がコンテンツ支援に投入される可能性が高い。クールジャパン政策「トータルでみて成功」発言が物議今回の新戦略と、廃止へ向かうクールジャパン機構は無関係ではない。新戦略を議論してきた経産省「エンタメ・クリエイティブ産業政策研究会」では、クールジャパン機構がステアリングコミッティーのオブザーバーとして参加。その座長を務める中村伊知哉氏は、2013年のクールジャパン推進会議でもポップカルチャー分科会の議長を務めた人物だ。さらに、中村氏は過去に吉本興業の社外取締役を務めた経歴もある。クールジャパン機構は、吉本興業などを中心に設立されたMCIPホールディングスや、吉本興業とNTTが進めた「ラフ&ピースマザー」などにも出資していた。中村氏は8月23日、自身のXで「第2次安倍内閣以降のコンテンツ政策に関して、(クールジャパン)機構を含む海外推しの本気度によって民間の海外シフトが進んだアナウンスメント効果は大きく、トータルでみて成功とぼくは見ています」と発言。先述したように「クールジャパン機構」の失敗は政府も事実上認めるところだったため、ネット上で物議を醸している。こうした状況を受け、新戦略に対しても「また莫大な血税を溶かしかねない」「本当にちゃんとやれるのか」「クールジャパン機構で失敗してるのに信用できない」などと、SNSなどで不安の声が相次いでいる。5年で5000億円規模の支援も...公金の使い道はそもそも、コンテンツ産業に公金を投入することにも賛否がある。日本は『ポケットモンスター』『ドラゴンボール』『ONEPIECE』『NARUTO』といった世界的人気IPを抱え、近年も『鬼滅の刃』や『ELDENRING』などが海外で大ヒットしているが、いずれも政府の支援で生まれたわけではない。もちろん、効果的に公金を使えば意味はあるだろうが、それができなかったのが「クールジャパン機構」だ。失敗の検証や清算が終わらないまま巨額の公金投入を続け、政府の支援を受けることを目的とした企画が増えたり、クリエイターが消費者より役人の顔色をうかがったりするようになったら本末転倒だろう。新戦略で掲げられた「ものがたり大国」の成否は、経産省の「目利き」だけの問題ではない。「クールジャパン機構」で支払った540億円という高すぎる授業料を、どうやって生かすかに懸かっている。
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