漫画「みいちゃんと山田さん」巡り「啓発的な側面も」と返信 「私信」晒された担当者が明かす3つの根拠

   亜月ねね氏の漫画「みいちゃんと山田さん」(講談社)のアニメ化発表をめぐり、特定の障害や立場の人々への差別や偏見につながるのではないかとの懸念がSNS上で相次ぎ、製作委員会と作品公式が声明を出す事態にまで発展した。

   この一連の流れの中で、アニメ化への抗議を求める要望が「発達障害当事者協会」にも寄せられた。これに対応した担当者は、「抗議等の予定はございません」と返信。作品自体が差別的であるとは考えておらず、「啓発的な側面もある」とも記した。

   すると、その私信の全文が匿名掲示板に公開され、SNS上でも拡散した。協会は26年7月28日の取材に対し、この文面は団体としての公式見解ではなく、担当者個人による回答だったと説明している(2026年8月27日公開の前編で既報)。

   では、文面に記された「啓発的な側面」とは、具体的に何を指すのか。要望に対応した担当者本人と、別の担当者も取材に応じた。重要なのは、作品の舞台が2012年に設定されている点だという。また、注意欠如・多動症(ADHD)と自閉スペクトラム症(ASD)の診断を受けた当事者にも話を聞いた。後半では、担当者らの話を詳報する。この取材も26年7月28日に行われた。

  • 2027年にアニメ化が控える話題作「みいちゃんと山田さん」(2026年7月28日撮影)
    2027年にアニメ化が控える話題作「みいちゃんと山田さん」(2026年7月28日撮影)
  • 「発達障害当事者協会」の担当者らも当事者へのやゆを懸念(2026年7月28日撮影)
    「発達障害当事者協会」の担当者らも当事者へのやゆを懸念(2026年7月28日撮影)
  • 2027年にアニメ化が控える話題作「みいちゃんと山田さん」(2026年7月28日撮影)
  • 「発達障害当事者協会」の担当者らも当事者へのやゆを懸念(2026年7月28日撮影)

作品が描いている時代の「発達障害」をめぐる状況とは

   物語の主な舞台は2012年の東京・歌舞伎町。つまり、現在から10年以上前の時代を描いている。中心人物のみいちゃんと山田さんはいずれも21歳という設定で、みいちゃんが小学1年生だったのは1997年のことだと作中で明記されている。

   担当者らの話によると、2010年代前半は、発達障害に対する認識が現在ほど進んでいなかった。05年には発達障害者支援法が施行されたものの、それと同時に社会の理解が深まるわけではない。また、発達障害を適切に診断できる医師の数も少なかったという。

「うちの協会の会員には、当時『統合失調症』だと誤診され、効果が出ない薬を10年以上も処方されつづけた人たちもたくさんいます」

   みいちゃんが小学生だった1990年代後半となると、まだ発達障害者支援法も施行されていない。当時の小学校では、知的な遅れが見受けられる児童も、身体障害がある児童とともに「特殊学級」(現在は特別支援学級)に編入させられるケースが多かったという。

   担当者らは、90年代後半には「発達障害」という言葉すらなかったと話す。一方で作中には、小学校の担任がみいちゃんに認知や言語の遅れがあると気付き、保護者に対して「特殊学級」への編入を勧める場面がある。

   SNS上では、担任はより慎重な説明を行うべきだったとの意見も見られた。しかし担当者らは、「当時の時代状況を考えれば、先生がみいちゃんの特性に気付き、このように伝えたこと自体が奇跡的だと思います」との見解を示した。

発達障害の当事者が語る過去の経験と作品への受け止め

   ADHDとASDの当事者である長嶋さん(仮名・30代後半)にも、これまでの自身の経験を振り返ってもらいながら、「みいちゃんと山田さん」に対する思いを聞いた。

「23歳のときに診断を受けました。それまでアルバイトはどれもうまくいかず、周囲からは『努力不足だ』と言われていたし、自分でもそう思っていました」

   大学4年生のときには「出会い喫茶」で働いていたという。店長からその働きぶりを褒められ、「すごく嬉しかった」と長嶋さんは語る。さらに仕事に力を注いだものの、収入が物足りなくなり、別の出会い喫茶でも働くようになった。

「そこでは、より高い値段で性行為もするようになりました。それでも、お客さんが喜んでくれて、『今まで役に立たなかった自分が、今すごい役に立っている』と思って、すごく嬉しかったです」

   だがその後、新卒で入社した会社は3か月で辞めてしまう。仕事をうまくこなせず、朝の起床が難しくなったからだ。退職後は一時的に入院したが、このときは発達障害だと診断されなかったと明かした。

   退院後は2年間ほどデイケアにも通った。しかしこの場所でも浮いてしまい、スタッフからはひどいことを言われることもあったという。やり場のない思いを抱えながら街中を歩いていたとき、「ここで働かない?」と声をかけられ、キャバクラで働くようになった。

   この店では、給与が適切に支払われないこともあった。それでも長嶋さんはあまり気にしなかった。「ここでしか働けないと思ったし、お店の人が必要としてくれるから、お金のことは言わなくていいと思っていました」

   半年ほど在籍していたが、店で暴れて解雇され、それ以降は長期にわたりスナックで働いていた。「みいちゃんと山田さん」にも、みいちゃんが癇癪を起こす場面がたびたび描かれており、長嶋さんは「みいちゃんみたいに暴れてしまって」と自身を重ねて話した。

   そんな彼女が福祉とつながれたのは、現在の夫がきっかけだった。彼が福祉制度に詳しかったため、自立支援などの制度を知ることができた。

   また、精神科入院中の友人からは手帳の取得を勧められた。当初は「障害者だと認めることになる」と思い悩んだというが、生活に支障が出ていることを指摘され、手帳の申請を決断した。

   ただ、当時こうして手を差し伸べてくれる人は非常に珍しかったと、長嶋さんは振り返る。

   彼女はこれまでの経験を通じて、作品には「すごく自分と重なる部分がある」と受け止めている。2012年当時21歳のみいちゃんとは年齢も近い。安定剤を飲みながら漫画を読み、過去の記憶を想起して涙が出る。しかし読み終えると、少し心がすっきりもする。

   作品をきっかけに、当事者がやゆされたり攻撃されたりすることは自分も嫌だと話す一方で、つぎのようにも語った。

「みんな一人ひとり生い立ちも違うし、いろんな意見があって当たり前だと思います。でもこの作品が嫌いだったとしても、この作品が存在することは認めてほしいと思う自分がいます。私は以前からファンだったので。『こういう辛い時代があったんだ』ということを伝えてほしいなと思います」

「みいちゃんと山田さん」の啓発的な側面とは

   長嶋さんが取材で話した経験と受け止めは、「発達障害当事者協会」の担当者らが重視した点とも重なる。つまり、作品の舞台が12年に設定されている点だ。当時は発達障害への理解が進んでおらず、適切な支援も受けづらい状況だった。

   こうした時代背景なども踏まえたうえで、アニメ化への抗議を求める要望に対し、「作品を通じて現状の課題を社会に問いかける啓発的な側面もあると認識しております」などと担当者は返信した。

   この文面が協会としての公式見解ではないにしても、回答の中に記されていた「啓発的な側面」とは具体的に何を指すのか。要望に対応した担当者本人は取材に対し、下記の3点を提示した。

   1点目は、福祉業界の格言として知られる「真の弱者は救いたい姿をしていない」という現実を正面から描いた点だ。従来の作品には「最後には困難を乗り越えて克服する」などの展開が多く、支援からこぼれ落ちる人々を描いた作品は少なかったという。

   みいちゃんに対しては、「ここ最近で一番腹立つ」「みいちゃんと暮らすのは無理」「社会的な常識が一切なくて本気でイライラする」といった読者コメントも多く見られる。

   担当者は、「こうした姿を見て石を投げる人たちは必ず現れるため、作品の広まりを危惧する人たちがいるのも十分理解できます」と話す。一方で、作品が描くような現実を知ってもらうことも重要だと説明した。

   2点目は、家族の無理解により適切な支援を受ける機会が奪われる現実を描いた点だ。先述したように、みいちゃんの担任が「特殊学級」への編入を勧めるが、母親と祖母が激しく反発して、みいちゃんが小学校に通わなくなるというエピソードが出てくる。

   この場面は1999年から2000年にかけての時代だ。当時は自分の子どもを「特殊学級」に通わせることへの抵抗感が根強かったという。作品はこうした状況を扱っている、と担当者は指摘する。

   3点目は、障害認定と福祉申請の手続きの問題を描いた点だ。障害者手帳の交付を受けるには、医師の診断や専門機関の判定が必要になる。そのうえ福祉制度は、自分から手続きを行わなければ支援にはつながらない。

   作中では、みいちゃんと対照的な、ムウちゃんという人物が登場する。刑務所からの出所後に療育手帳を取得し、みいちゃんには福祉センターに行こうと提案するものの、みいちゃんは「障害」ではなく「個性的」なのだと拒む場面がある。

   担当者は上記の3点を提示する一方で、作品が差別や偏見を誘発する可能性があるとも捉えている。すでに特定の人々を「みいちゃん」「みいちゃん枠」などと呼び侮辱する事例もあると説明した。

   作品には「啓発的な側面」もある一方で、不特定多数がそう受け取るわけではない。こうした課題の存在を踏まえ、協会は出版元の講談社に対し、差別や偏見を誘発しないような作品処理と、ゾーニングやレーティングの検討を求めたとしている。

   それでも、担当者本人も協会の公式見解も、作品自体に直接的な差別表現はないという立場だ。そのため、作品は「表現の自由の範囲にある」と結論付けている。

   作品をめぐっては、協会が講談社に「一定の対応」を要請した後、製作委員会と作品公式が7月27日に声明を発表した。なお、担当者の一人によれば、製作委員会は当初から監修を入れる方針だったという。

抗議が協会の主な活動ではない

   協会が過去に抗議した事例もある。ADHDやASDの当事者を動物のイラストで表現した書籍は「露骨に差別や偏見を助長する内容だった」と担当者らは振り返る。

   一方で「みいちゃんと山田さん」の場合は、作中でみいちゃんに知的障害・発達障害があると明示されているわけではなく、作品が彼女を差別的に描いているわけでもない。「作品を読んで特定の人々を『みいちゃん』と呼ぶのは問題ですが、それは作品自体の問題ではありません」

   ただ今回の件では、抗議を求める要望に対する担当者の私信がSNS上で拡散した後、「勝手に私たちを代表してコメントしないでほしいです」「こんな甘いものじゃない」などの意見も寄せられたという。

   担当者らは抗議が協会の主な活動ではないと説明する。「本来、当事者の自助会を開く人たちを支援したり、発達障害の理解が進むような啓発をしたりしています。アンケートなどを通じて当事者から声を集め、広く社会に発信することを目的とした団体です」

※取材は26年7月28日に行った。その後、作者や編集者の過去の言動がSNSで問題視された。この論点は反映されていない。なお、「全国手をつなぐ育成会連合会」が8月19日、「全国『精神病』者集団」が21日、それぞれアニメ化に対する意見書を公表している。

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