政府が為替介入をしても、日銀が警戒をにじませても下げ止まらず、2026年8月には1ドル=160円台に乗せた円相場。ところが9月4日、一転して156円前後まで円高が進んだ。
ただ、今回の円高には、喜んでばかりもいられない事情がある。
アメリカの注文どおりとなった日銀の利上げ
きっかけは、日銀のなかで最も利上げに前向きとされる高田創審議委員が、9月2日に札幌市で行われた記者会見で、
「2025年までは年2回のペースだったが、2026年は局面が変わって新たなレジームになった」
との認識を示したことだ。
追加利上げの可能性をうかがわせるこの発言に市場も反応、円がわずか2日で156円台に急伸したのである。
つまり、日本の経済力によって円が買われたわけではなく、日銀が金利を上げるしかない、という観測が円を押し上げただけなのだ。
こうした円高の動きは、アメリカのベッセント財務長官の「注文」にも後押しされている。
8月31日、ベッセント財務長官はテレビ局CNBCのインタビューで、
「日本政府と日本銀行は、円高につながる措置を取るだろう」
と発言。翌9月1日には、自身のSNSで日本銀行の植田和男総裁と対面したことを明かし、アベノミクスを継承する「リフレ政策をやめるべきだ」と発言、金融緩和頼みを卒業すべきだと迫ったのだ。
実は5月に来日した際も、片山さつき財務相に高市政権の経済政策への不満を直接ぶつけていたという。
つまり、今回の円高は、アメリカの注文どおりに進んだと見ることができる。
日用品もガソリンも、電気代も高くなる
ベッセント氏の理屈にも一理はある。だが、金融政策をどうするかは、内政問題だ。ただ、円安を放置してしまえば、そのツケは私たちの家計に回ってくる。
日本は食料やエネルギーの大半を輸入に頼っている。円が安いほど輸入品の仕入れ値は上がり、日用品もガソリンも、電気代も高くなる。
8月31日、帝国データバンクが「『食品主要195社』価格改定動向調査 ― 2026年9月」を発表した。
それによれば、2026年の値上げ品目総数は、前年(2万609品目)を上回るとみられる。
理由としては中東情勢の行方が不透明で原油価格が高止まりしており、さらには異常気象による農水産・畜産品の不作・生育不良、恒常的なインフレへの懸念が根強いとされている。
今年の春闘の賃上げ率は5%を超え、実質賃金も直近6月は前年同月比+2.2%とプラスを保っているとはいえ、値上げラッシュがこのまま続けば、その伸びは物価高にのみ込まれてしまいかねない。
円安を止めるために利上げをしても、家計と国の財政を圧迫する?
ならば、アメリカの言うとおり利上げして、円安を止めればいいのではないか。
そうとも言いきれないのが、やっかいなところだ。利上げは利上げで、市民生活に影響を与える。その代表例が、住宅ローンだ。
8月18日の債券市場で、長期金利(10年物国債の利回り)は2.9%まで上がった。長期金利は住宅ローンの固定金利に反映される。一方、日銀は政策金利を6月に0.75%から1.0%へ、31年ぶりの高さに引き上げている。
変動金利は、この政策金利(短期金利)に連動する。多くの銀行は短期金利を目安に変動金利を決めており、日銀が利上げすれば、その動きはローンの返済額に影響する。
仮に4000万円を35年ローンで借りたとして、金利が0.1%上がるだけで、総返済額は約78万円も増えることになる。
現在、新規の住宅ローンは変動型が主流である。変動型は、金利が低いあいだは返済が軽くて助かるが、上がりはじめれば家計を直撃する。低金利を前提にローンを組んだ世帯ほど、利上げは家計に大きな打撃となる。
懐が痛むのは一般家庭だけではない。国も1000兆円を超す借金を抱えており、金利が上がれば利払いが増えて財政を圧迫する。その穴埋めは、まわりまわって税や新たな国債という形で、結局は私たちのところへ戻ってくることになりかねない。
さらに悩ましいのが、高市政権の看板政策「責任ある積極財政」との矛盾だ。食料品の消費税減税は財政を膨らませ、かえって円安を招きやすい。その一方で、円安を止めるには利上げがいる。つまりアクセルとブレーキを同時に踏むような話なのである。
円安を放置すれば物価高で庶民が苦しみ、円安を止めれば利上げで住宅ローンと財政が圧迫される。どちらに転んでも、割を食うのは私たちの暮らしであり、茨の道であることは明らかだろう。