不正会計で揺れるモーター大手「ニデック」(旧・日本電産)が2026年10月1日、京都市の本社で記者会見を開いた。2026年3月期の連結決算は最終損益が5646億円の赤字。減損損失は6321億円に達し、一連の不正会計に伴う損失は累計1兆円を超える見通しだと報じられている。
株価は急落し、さらに社長が突然辞任。監査法人は2期連続で「意見不表明」とする異例の事態となった。創業者の永守重信氏が経営から完全に退き、再建に向かうはずだったニデックで、いったい何が起きているのか。
巨額赤字発表の前日に社長が突然辞任
ニデックは9月29日、岸田光哉社長の辞任を発表した。過年度決算の訂正などを進める中で、岸田氏に「財務報告に関し必ずしも適切とは言いかねる言動」が確認され、本人から辞任の申し出があったという。専務執行役員だった戒田理夫氏が社長執行役員に昇格した。
ただ、その直前には、9月25日の臨時取締役会で岸田氏の解任を決議していたと「ダイヤモンド・オンライン」で報じられていた。会社発表上は「辞任」だが、再建を託されたはずのトップの不可解な電撃交代は市場に新たな不安を与えた。
9月30日に公表された26年3月期決算では、最終赤字が5646億円、減損損失は6321億円に上った。さらに、その後の精査で一連の不正会計による純利益の累計水増し額が、従来の1607億円から2080億円に拡大したことも判明。派生的な減損損失2880億円などを合わせると、累計損失は1兆円を超える規模になったと朝日新聞が報じている。
さらにニデックの監査法人を務めるPwCジャパンは、有価証券報告書について十分な監査証拠を得られなかったなどとして意見を表明しなかった。前年に続いて2期連続の「意見不表明」である。10月1日の会見には、PwCの代表執行役も同席する異例の展開となった。
不正会計を受け、ニデックは東京証券取引所から「特別注意銘柄」に指定されている。内部管理体制の改善状況によっては、上場廃止もあり得る。上場廃止リスクへの警戒から株価も急落しており、新社長を中心として、一連の混乱を収拾できるのかが焦点となる。
不正会計の原因は永守氏からのプレッシャー、第三者委が明言
そもそも、なぜニデックで不正会計が広がったのか。第三者委員会が4月にまとめた最終報告書は、その原因を明確に示している。
報告書によると、ニデックの業績目標は長年、創業者の永守氏によるトップダウンで決められ、事業部門や子会社の実力を超える水準になることもあったという。
さらに、不正会計について「強すぎる業績プレッシャーを原因として引き起こされていた」と明言し、
「業績プレッシャーの起点となっていたのは永守氏」
と結論付けた。永守氏自身が個々の不正を指示・主導した事実は確認されなかったが、一部の会計不正を容認したとの評価は免れないとも指摘。
「今般発覚した会計不正について最も責めを負うべきなのは、永守氏であると言わざるを得ない」
と厳しく断じている。
ニデックでは品質管理でも、顧客の承認を得ず部材や工程を変更したケースや、試験・検査結果の改ざん、捏造など多数の不適切行為が判明した。
永守氏は25年12月に代表取締役を退任し、今年2月には名誉会長も辞任。同社によると、永守氏は今後、経営には一切関与しないという。
圧力的な経営手法を「手本」として広めたメディア
興味深いのは、現在は厳しく批判されている永守氏の経営手法が、かつては少なくないメディアで「成功モデル」として盛んに持ち上げられていたことだ。
例えば、「日経BP」は17年に永守氏の"名言"を集めたビジネス書『日本電産 永守重信が社員に言い続けた仕事の勝ち方』を出版。「珠玉の100の言葉」から「普遍的な仕事術」を学ぶ本として売り出した。日経新聞も、永守氏を「カリスマ経営者」などと持ち上げ、経営手法を称賛するような記事を掲載していた。
「ダイヤモンド・オンライン」は19年、「人・組織を鍛え抜く 日本電産『永守流』」と題する全10回の特集を掲載。買収先企業の意識を変革して「ミニ永守」を増殖させる人材育成術や、「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」といった、部下への圧力を感じさせるような仕事の流儀を詳しく紹介していた。
しかし、22年には「東洋経済オンライン」などが、社員の大量退職や極めて高い業績目標による強い圧力を問題視。そして現在、第三者委員会が会計不正の原因として認定したのは、まさに永守氏による「強すぎるプレッシャー」だった。
メディアが持ち上げていた当時は、日本電産が成長を続けて数字を出していた。それだけに、永守氏の手腕を高く評価したこと自体は理解できる。だが、好業績の時期は「カリスマ経営者」「奇跡の人材育成法」などと絶賛していた手法を、不正発覚後には"元凶"として批判している手のひら返しには矛盾を感じなくもない。
今回の一連の問題はニデックだけにとどまらず、数字だけを見て経営者を英雄化し、社員を間違った方向に進ませかねない圧力的な経営手法を「手本」として広めたメディア側にも、検証すべき点はあるのではないか。
不正会計の処理、巨額赤字、社長交代、上場廃止の危機と混乱が続くニデック。今後は単に業績を回復させるだけでなく、「永守時代の企業体質」から完全に脱却し、失った市場の信頼を取り戻せるのかを問われることになる。