愛知・名古屋アジア大会の野球競技、チャイニーズ・タイペイ対中国戦(2026年9月25日)において、客席から「Taiwan」と書かれた応援タオルを掲げた観客が、大会スタッフに注意を受けた。この出来事が、大きな波紋を呼んでいる。
アジア大会では「台湾という言葉を使わない決まり」がある?
タオル掲示を制止したスタッフは「大会では台湾という言葉を使わない決まりになっている」と説明したが、観客側は「中国の国旗だって、政治のもの。あれも撤収してください」と反発した。
このやり取りを映した動画がSNSに投稿されると、ネット上では大会側の対応に対する疑問の声が広がった。
翌26日、日本戦の会場入口には、台湾の国旗(青天白日満地紅旗)と日本の旭日旗の写真を並べ、「持ち込み禁止」とする貼り紙が出された。
ところが大会組織委員会は28日になって、旭日旗については「現場スタッフの勘違いだった」と謝罪した。
大会が禁じているのは「参加国以外の国旗を掲げること」であり、旭日旗はこれに当たらない、というのが組織委の説明だった。
しかし、同じ紙に書かれていた台湾の国旗については何も説明しなかった。
さらに「Taiwan」タオルへの対応については、後に「会場担当者などの誤った認識」だったと釈明している。
たしかに2024年のパリ五輪では、IOCが「Let's go, Taiwan」と書かれた横断幕も政治的メッセージにあたるとして禁止していたが、今大会の観戦ルールには、文字が書かれた応援グッズにまで国旗と同じ制限を広げる規定は明記されていない。
国際大会では「チャイニーズ・タイペイ」の名称で参加
台湾がオリンピックなどの国際大会で「台湾」という名前や国旗を使えない理由は、40年以上前の出来事にさかのぼる。
1979年、まさに今回の舞台である名古屋で開かれた国際オリンピック委員会(IOC)の理事会で、台湾は「チャイニーズ・タイペイ」という名称を使い、専用の旗と歌で参加することが決められた。いわゆる「名古屋決議」である。
今回のアジア大会をまとめるアジア・オリンピック評議会(OCA)もこのルールに従っているため、台湾の国旗を持ち込めないこと自体には国際的な前例がある。
しかし、タオルに書かれていた「Taiwan」は国旗ではなく、誰でも日常的に使う地名である。
文字が書かれた応援グッズにまで国旗と同じ制限を広げる根拠は、どこにも明記されていない。
もし日本のファンが「JAPAN」と書かれたタオルを掲げても、誰も止めないだろう。
代表チームの公式名と普段の呼び名が一致していない台湾のファンにだけ、規制のしわ寄せがいってしまう構造になっているのだ。
「政治的メッセージ」と「応援」の線引きは誰が決めるべきか
国際大会における旗のルールは、「それが国旗かどうか」ではなく「大会側が事前に合意して認めたかどうか」で動いている。そのわかりやすい例が、朝鮮半島の「統一旗」だろう。
2018年8月に開かれたアジア大会(ジャカルタ・パレンバン)で南北合同チームが出場した際、選手団は国旗ではなく白地に青い半島を描いた「統一旗」を掲げて入場した。
この旗のデザインは関係国が大会側と話し合って認められたものだ。
もともと、同年2月開催の平昌冬季五輪に向け、南北合同チームが強化試合を行った際には、竹島(韓国では「独島」と呼称)が描かれた統一旗が使用されたが、日本政府が抗議したことから、IOCの要求で、公式行事においては竹島を描かない統一旗を使用することになった。そして、アジア大会もこれにならった統一旗が使われたのである。
このように、大会の運営トップには、何が政治的で何がセーフなのか、あらかじめ吟味してルールを示す責任がある。
今回の混乱を招いた理由は、「Taiwan」という地名をどう扱うのか、組織委が明確なルールを決めないまま現場スタッフの判断に丸投げしてしまった点にあるのではないだろうか。