簗和生農水相が2026年10月14日、辞表を提出した。9月17日の内閣改造で初入閣してから、わずか28日のことだった。取材に応じた高市早苗首相は、
「任命責任はもとより内閣総理大臣である私にある。こうして大臣が辞任する事態に至ったことについて、任命責任を重く受け止めている」
と語った。
事実上の更迭か、本人の意思による辞任か
発端は9月30日配信の『週刊文春 電子版』だった。簗氏が、2月の衆院選で自身を応援しなかった首長がいる市・町の道路予算を「大幅にカットした」と語っていたと報じられたのだ。
簗氏は10月5日、発言を撤回して謝罪した。
だが『週刊文春』は10月8日発売号で、簗氏が衆院選で支持者をシャトルバスで無料送迎していたとして、公職選挙法違反の疑いを報じた。
結局、簗氏は14日午前の衆院予算委員会で自らの答弁を修正し、その数時間後に辞表を出したのだ。
首相は、
「本日の夕方、本人から辞表の提出があったので受け取ったということに尽きる」
と述べ、本人の意思による辞任だと強調した。しかし、報道各社は「事実上の更迭」と伝えている。
第2次安倍政権でも「任命したのは私だ」
高市首相が師と仰ぐ安倍晋三元首相の時代にも、「任命責任」が問われる場面が多々あった。
第2次以降の安倍政権では、2014年10月の小渕優子経済産業相と松島みどり法相の同日辞任に始まり、西川公也農水相、甘利明経済再生相、今村雅弘復興相など、計10人の閣僚が任期途中で辞任している。
安倍氏は、小渕・松島両氏の辞任時に、
「任命責任は首相である私にある。こうした事態になったことを国民に深くおわび申し上げる」
と述べている。
その後、閣僚が辞任するたびに安倍氏が口にした言葉は、ほとんど変わらなかった。
2019年9月に法相として初入閣した河井克行氏は、妻・案里氏の参院選をめぐる疑惑報道を受け、10月31日に辞任した。
このときも安倍氏は、
「任命したのは私だ。こうした結果となった責任を痛感している。国民に深く心からおわびしたい」
と述べている。
2020年6月18日、夫妻は公選法違反(買収)の疑いで逮捕された。翌21年6月には東京地裁が克行氏に懲役3年の実刑判決を言い渡し、同年10月に刑が確定した。
案里氏の陣営には、自民党本部から1億5000万円が提供されていた。そのうち1億2000万円は政党交付金、つまり税金だった。しかもその額は、同じ選挙区で落選した自民党の別の候補の10倍にあたる。
この資金提供への関与を問われても、安倍氏は明確な説明をしなかった。法相経験者が実刑を受けても、任命した安倍氏からは「おわび」以上の言葉はなかった。
「任命責任」と「責任を取る」ことは別もの?
ひるがえって、今回の簗氏の辞任について、高市首相は師である安倍氏にならうつもりだろうか。
簗氏は、自民党派閥の裏金問題で党役職停止6か月の処分を受けた過去がある。それでも高市首相は、「私の大事なやなちゃん」と呼ぶほど目をかけ、農水相に抜擢した。
今回報道されたシャトルバスでの無料送迎について、神戸学院大の上脇博之教授は15日、公選法が禁じる利益供与にあたるとして、告発状を宇都宮地検に送ったと明らかにした。
仮に捜査が進み、簗氏の刑事責任が問われる局面が来たら、高市首相はどうするのか。
安倍氏と同じように、「任命責任」を口にすることと「責任を取る」ことは別もの、という姿勢を貫くのだろうか。
首相は15日、簗氏の後任に、自ら「即戦力」と評する武部新・元農水副大臣を起用した。
連立を組む日本維新の会の藤田文武共同代表は、簗氏の辞意表明を受けて「高市総理の決断を尊重し、支持する」と述べた。
政権側にとっては、農林水産行政に精通した武部氏をすぐに起用したことこそが「責任の取り方」だ、ということなのだろう。
高市首相は、事あるごとに「責任ある積極財政」を訴えている。だが、自ら任命した閣僚が辞めるたびに「重く受け止める」と繰り返すだけで、本当に「責任ある」政治と言えるのだろうか。