「できる人」に仕事を集める上司が組織を弱くするのはなぜ 優秀な社員の「頑張り」に頼りすぎていませんか

「この仕事は、あの人に頼めば何とかなる」

   そんな社員が、皆さんの職場にもいるのではないでしょうか。仕事が速く、説明も的確で、難しい顧客への対応も任せられる。上司にとっては、実に頼もしい存在です。

   ところが、その頼もしさに甘え続けると、組織は思わぬ弱点を抱えます。優秀な社員が成果を出すほど、周囲がその人を頼るようになる。そして、さらに仕事が集まる。本人の能力が高いからこそ、問題が表面化しにくいのです。

   私は、管理職には「誰ならできるか」と同時に、「その人に頼み続けたら、職場はどうなるか」を考えていただきたいと思っています。

  • 「できる人」に仕事を集める上司が組織を弱くするのはなぜ(写真はイメージ)
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「評価している」が、本人には「負担を増やされている」になる

   例えば、営業部門で安定して成果を上げている中堅社員を想像してみてください。

   自分の担当顧客に加え、新人の指導、提案資料の確認、他の担当者が抱えたトラブルへの対応まで任される。上司からは「君にしか頼めない」と言われます。

   最初は、その言葉をうれしく感じるかもしれません。しかし、任される仕事が増えても、自分の担当業務や目標は変わらない。人を指導している時間は、個人の売上には直接つながらない。それでも期末には、売上目標の達成度を中心に評価されるとしたら、どうでしょうか。

   上司は信頼の表れだと考えていても、本人には「仕事をこなすほど、さらに仕事を増やされる」と映りかねません。

   ここで注意したいのは、負担が単純な仕事量だけではないことです。自分では決められないのに、調整は求められる。新人の育成を任されても、そのための時間は確保されない。責任と権限、期待と支援の釣り合いが崩れることが、働く意欲を削っていきます。

   「嫌なら相談してくれればよかった」と上司は思うかもしれません。ですが、期待に応えようとする社員ほど、断ることにためらいを感じる場合があります。相談がないことを、余裕がある証拠と受け取ってはいけません。

見えにくい「周囲を支える仕事」を確認する

   では、管理職は何から始めればよいのでしょうか。

   まずは、担当表に載っている業務と、実際に行っている仕事の差を確認することです。

   正式な担当業務は把握していても、周囲からの細かな相談や、会議前の根回し、資料の手直しまで見えているとは限りません。こうした仕事を引き受ける人がいるから、職場は円滑に動きます。しかし、その貢献は成果物の名義にも、実績の数字にも残りにくいものです。

   面談では「忙しいですか?」と聞くだけでは不十分でしょう。「この1週間、誰のどんな仕事を手伝いましたか」「予定していた仕事を後回しにしたのは、どのようなときですか」と、具体的な行動を尋ねてみてください。

   そこで見つかった仕事を、すべて本人の工夫で吸収させないことです。必要な仕事なら、正式な役割として位置づけ、時間や目標を調整する。別の人が担える仕事なら、担当を見直す。そもそも必要性が低ければ、減らすことも考えるべきです。

   見えにくい貢献に気づく目的は、「助かっているよ」と感謝を伝えて終えることではありません。仕事の配分と評価を変えるためです。

「手の空いている人に渡す」だけでは解決しない

   ただし、仕事を分散すれば済むわけでもありません。経験や知識のない人に、いきなり難しい仕事を渡せば、結局は元の担当者がやり直すことになります。

   例えば、顧客への提案業務なら、情報収集、論点整理、資料作成、顧客への説明といった工程に分けて考えます。そのうえで、まずは情報収集を別の社員に担当してもらう。次は資料の一部を作成してもらう。習熟に合わせて、担当できる範囲を広げていきます。

   大切なのは、教える側の負担も含めて計画することです。「新人に教えておいて」と追加するだけでは、負担はむしろ増えます。指導を依頼するなら、その期間は何を減らすのか。誰が補うのか。管理職自身が決める必要があります。

   また、すべての仕事を全員が同じ水準でできるようにする必要はありません。高度な判断は専門性のある社員に任せつつ、その判断に必要な準備や定型業務を周囲が担う。重要な仕事には、補佐役をつける。こうした役割の組み合わせも有効です。

   優秀な社員が、いつまでも同じ問い合わせに答え続ける状態から、より難しい課題に取り組める状態へ移れるか。仕事の分散は、その視点で進めると意味が明確になります。

「助けた人」が報われる目標と評価にする

   もう1つ見直したいのが、目標と評価の整合性です。

   後輩の育成や部署をまたぐ支援を求めながら、個人の数字だけで評価すれば、社員は協力することに不利益を感じてしまいます。かといって、「チームへの貢献」という曖昧な項目を加えるだけでは、何をすれば評価されるのか分かりません。

   例えば、新人が1人で担当できる業務を増やす、特定の人にしか分からなかった手順を共有する、他部署との確認にかかる時間を短縮する。こうした到達点を、本人と話し合っておくことです。その役割にかける時間に応じて、個人目標も見直す必要があります。

   もちろん、支援件数を競わせるような運用には注意が必要です。相談を受けた回数が多くても、周囲が自立できなければ、仕事の集中は続きます。大切なのは、その人の働きによって、チームが何をできるようになったかです。

   管理職の側も、特定の社員がどれほど頑張ったかだけでなく、チームとして対応できる仕事が増えたかを振り返ってみてください。

頼れる社員が休める職場になっているか

   仕事の集中を放置すると、頼られる本人だけでなく、周囲の成長機会も失われます。難しい案件はいつも同じ人が担当し、ほかの社員は経験を積めない。能力差が広がり、ますます仕事を分けにくくなる。この循環を変えることが管理職の仕事です。

   まずは、最も頼りにしている社員が、安心して1週間休める状態かを考えてみてください。

   その人がいなければ重要な判断が止まる、顧客との約束が分からない、資料の所在さえ誰も把握していない――。そうであれば、本人の責任感に頼って解決できる問題ではありません。情報の共有や補佐役の育成を、上司の責任で進める必要があります。

   優秀な社員を大切にするとは、褒めて仕事を託し続けることだけではないはずです。その人が力を発揮できる仕事を見極め、次の挑戦に向かう時間をつくること。そして、その人が培った知恵を、周囲も活用できるようにすることです。

   「あの人なら何とかしてくれる」と思ったときこそ、一度立ち止まってみてください。その期待に応え続けるための条件を、上司である自分は整えているでしょうか。



【筆者プロフィール】
高城 幸司(たかぎ・こうじ)/株式会社セレブレイン代表取締役社長。1964年生まれ。リクルートに入社し、通信・ネット関連の営業で6年間トップセールス賞を受賞。その後、日本初の独立起業専門誌「アントレ」を創刊、編集長を務める。2005年に「マネジメント強化を支援する企業」セレブレインの代表取締役社長に就任。近著に『ダメ部下を再生させる上司の技術』(マガジンハウス)、『稼げる人、稼げない人』(PHP新書)、『決定版 「リーダーシップのコツ」をマンガでマスターできる本』(Gakken)

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