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究極のプレゼン師は、昭和のアノ人だった!――勝ち残るリアル営業(6)

   前回、いわゆるネット営業が「説明型プレゼンテーション」にならざるを得ないという弱点があることと、それに打ち勝つリアル営業は、コミュニケーションを重視した「対話型プレゼンテーション」であると説明しました。

   では、具体的にはどのようなスタイルを採ればいいのでしょうか。私にとって身近な少年時代の記憶を例にしてみたいと思います。

自分のやり方の誤りに気づかされた「事件」

「記載事項の説明」に終始するなら意味がない
「記載事項の説明」に終始するなら意味がない

   高校時代にこんな教師がいました。授業の最初にその日のポイントをガリ版プリントで配布し、授業はその説明に終始する社会科の教師です。

   時間と労力の短縮を考えてなのでしょうが、このやり方は教える方だけでなく、教わる方も楽ができます。

「ポイントが書いてあるから、試験前に読めばいいや」

となってしまい、授業を一生懸命聞く者などほとんどいませんでした。私語をするものや居眠りをする者、弁当を食べる者…。本当に悲惨な状況でした。

   これは生徒だけでなく、教師にも責任があったというべきです。そして、これに近いプレゼンテーションをしている営業マンは、実は意外に多いのではないでしょうか。

(1)ポイントを書いた資料を作成する
(2)そのポイントを資料に沿って説明する
(3)「いかがですか?」と判断を迫る

   これ、まさに悪い教師と同じ例。言ってみれば聞き手に楽をさせてしまい、楽に断りのセリフが出やすいプレゼンなのです。

   かく言う私も駆け出しの頃には、これに近いプレゼンを何度かやっていました。そして、どうして自分のプレゼンのとき、いつもみんな退屈そうなのか、なぜ断られてしまうのかと悩み、話術のテクニックが足りないと思い込んでノウハウ本ばかり読んでいました。

   誤りに気づかされたのは、自分がプレゼンを受ける立場になってから。本社でマーケィングを担当していた時のことです。ある営業マンのプレゼンに、その場にいたみんなが引き込まれ、取引実績のない新規取引先と大きな調査レポートの外注契約を結ぶという「事件」が起きたのです(これは銀行では、とても珍しいことです)。

その一枚でストーリーが読めてはいけない

   彼は決して話術が巧みなわけではない、朴訥としたまじめなタイプなのに、なぜか引き寄せられたプレゼンテーション。これは一体何なのだろうか。考えに考えた挙句に、子どもの頃に出会った「達人」を思い出しました。

   それは小学校の帰り道、毎日公園に来ていた紙芝居屋のおじさんです。飴を買うと前の方で見られる静止画劇場。私はこの紙芝居に魅せられ、毎日通っては、なけなしの小遣いから飴を買い、前の方に陣取って「開演」を待ったものです。

   ご覧になったことのある人はお分かりでしょうが、紙芝居は一枚一枚めくられた絵を見ただけでは、どういうストーリー展開になるのか分からない仕掛けになっています。そして、話し手である紙芝居屋さんのおじさんとの双方向のやり取り、

「さぁ、ここで主人公はどうなったかな?そこの赤いシャツのボク!」
「ドアを開けたらものすごい音がぁ~!ってどんな音だと思う?お嬢ちゃん」

といった対話こそ、聞き手に決して楽をさせない演出だったのです。

   リアル営業におけるプレゼンの極意として紙芝居から学ぶことは、まず資料づくりです。見た目に関心を引きながらも全容が分かってしまってはいけないということ。

   資料を見ただけではこれからどんな話が聞けるのか分からないことで、相手をプレゼンに集中させ、より期待感を煽ることでそこに引き込むことができるわけです。

ジョブズのプレゼンも「紙芝居おじさん」だった

   また、その場での対話も重要です。相手への質問や同意の投げかけを適宜しつつコミュニケーションを成立させ、相手との一体感をつくることが大切です。

   先の悪い例のように単なる説明に終始することは、話し手として孤立してしまいがちです。ネット上の営業と同じく、よほどの人気商品かお買い得価格でない限り、聞き手を引き込むことはできません。

   そうやって考えると、レベルこそ違うものの、達人スティーブ・ジョブズのプレゼンも、突き詰めれば「電子紙芝居」だったのではないでしょうか。

   彼はネット上では紙芝居ができないことを知っていたからこそ、自らが紙芝居屋のおじさんになって、見る者に「次はどうなるのだろう」という期待感を煽ることで新商品をより魅力的に見せることに注力したのです。

   「ネット営業にできないリアル営業のプレゼンは、紙芝居である」。ネット営業全盛の時代であればこそ、紙芝居的演出はより大きな威力を発揮すると思います。(大関暁夫)