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こども本の古本屋には「今の子ども」にも「子どもだった大人」にも心躍る楽しさがある(Vol.10「みわ書房」)

「みわ書房」は神田古書センターの5階にある
「みわ書房」は神田古書センターの5階にある

親子連れから研究者まで、さまざまなお客さんが店に足を運ぶ

「当時、9階建ての神保町古書センターは都内でも珍しいものでした」

と、みわ書房の店主、三輪峻さんは懐かしそうに話す。

「もともと古書に興味を持っていました。20代の頃にこの場所で店を開いていた喜鶴書房に出会い、こどもの本のおもしろさに惹かれて、この業界に飛び込んだんです」

   1978年に神田古書センターがオープンして、5年後の1983年。三輪さんの勤めていた喜鶴書房から5階の場所を引き継ぎ、みわ書房がスタートした。

   古書販売業を始めてから40年、オレンジ色のエプロンをつけた三輪さんは「人生の半分以上、古書店をやっていますね」と柔らかい目で、ニヤッと笑う。

   店内は本棚から天井まで、ぎっしりと子どもの本が並んでいる。ここ、みわ書房は「こどもの本の古本屋」だ。三輪さんは店内をぐるりと歩きながらお話をしてくれた。店内には多種多様な子供向けの本が鮮やかな背表紙を見せている。童話や絵本、図鑑、学習本に詩集など、ジャンルは幅広い。

床から天井まで、子どもの本の世界が広がる
床から天井まで、子どもの本の世界が広がる

   主な商品は、戦後の児童書。「なんとなく私が子ども時代に読んでいたような年代の本を集めています。当時の様子を知る貴重な資料として、戦時中のものも揃えています。お店に来られるお客さんは当時を懐かしんで集めている人や、出版関係者、研究者や作家、海外から来られる方や親子連れなど、さまざまです」

   みわ書房は、児童書を求める人々の貴重な場として、長くお客さんから愛されてきた。

挿画の迫力に魅入られたオススメの1冊

つい、当時の三輪さんの姿を想像してしまう
つい、当時の三輪さんの姿を想像してしまう

   三輪さんが売れ筋の一冊として選んだのは、「講談社の絵本 ガリバー旅行記」(文:西条八十/絵:吉邨二郎 講談社 1949年)だ。ページをめくれば、鮮やかな色彩でガリバーと小人の国の様子が広がっている。吉邨二郎のダイナミックな挿絵が美しく、ガリバーの体験した不思議な世界が生き生きとした線で描かれている。

「これは自宅にも保管してあります。当時は比較的高価なもので、講談社の絵本のシリーズが揃っている友人がとても羨ましかった。夢中になって読みましたね。今見てもこの挿画のインパクトに唸らされます。童話シリーズは不動の人気ですね」
どちらも三輪さんにとって思い出深い本だ
どちらも三輪さんにとって思い出深い本だ

   オススメの一冊は、「ヤシノ木ノ下」(文:土家由岐雄/畫:赤松俊子 小學舘 1942年)。占領下のシンガポールを舞台にした絵本で、物々しいストーリーながら赤松俊子(のちの丸木俊)の挿画が光る。

   三輪さんは

「現地の人々の様子を温かい眼差しで見つめているような絵が、いいんです。今見てもタッチや色彩が素晴らしい。丸木俊の原点が垣間見える、貴重な一冊です」

と語る。

「古書は人の手から手へ渡って初めて価値が生まれる」

   現在は新型コロナウィルスの影響で、神保町のほとんどの古書店が営業を自粛している。みわ書房もその中の一つ(4月16日より休業)。営業再開は5月6日に予定しているが、様子を見て判断するとのこと。確実な営業再開の見通しは立っていない。

「40年間でこのようなことは初めてで、神田の街全体がひっそりとしています。店側はもちろんですが、お客さんもつらい思いをしているのではないでしょうか。何より古書は人の手から手へ渡って初めて価値が生まれるもの。本が動いていないことが、今は心寂しいですね」

   神保町の古書店にも、辛抱の時期が続く。

※ みわ書房ではネット販売も実施している。ぜひ、こちらをチェック!
みわ書房http://www.miwa-shobo.com/
自由で柔らかい子どもの本には、無限の世界が広がっているはず。神保町の街が、みわ書房の空間がにぎわう日を願ってやまない。(なかざわ とも)