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ホンダの新EV戦略...2030年までに30車種、年間200万台超生産へ 相次ぐ自動車大手の大型投資でEVシフト加速

   ホンダが新しい電気自動車(EV)の戦略を打ち出した。2030年までにEV30車種を世界で発売し、年間200万台超に生産を増やすとことを目指し、開発や生産設備に計5兆円を投じるというのだ。

   トヨタ自動車や日産自動車もEV目標を掲げて大型投資を計画しており、自動車大手のEVシフトがさらに加速しそうだ。

  • 自動車大手のEVシフトが加速(写真はイメージ)
    自動車大手のEVシフトが加速(写真はイメージ)
  • 自動車大手のEVシフトが加速(写真はイメージ)

「脱ガソリン車」へ...いよいよ具体的な目標、段取りを発表

   ホンダのEVへの取り組みは、J-CASTニュース 会社ウォッチも繰り返し報じてきた(※下の◆を参照)。

   三部敏宏社長の就任会見で2050年にカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)を達成すると、日本の自動車メーカーとして初めて「脱ガソリン車」を宣言したのがちょうど1年前の2021年4月。

   販売する新車を2040年までにすべてEVまたは燃料電池車(FCV)とするというものだったが、7月にはFCVの生産中止を表明し、EVへの注力を明確にした。年明け2022年3月には、自動運転や車内エンターテインメントなどをにらみ、ソニーグループとEVでの協業を打ち出した。

   そして4月5日、米ゼネラル・モーターズ(GM)とガソリン車並みの量販価格帯のEVを共同開発し、27年以降に発売すると発表した。GMとは、北米限定の提携を世界に広げる意味がある。

   こうした一連の基本方針や提携をまとめたかたちで、今回、22年4月12日に具体的な目標やそのための段取りを発表したのだ。

   これは、40年までに新車販売をEV(またはFCV)とするという1年前に打ち出した目標達成までの具体的なロードマップといえ、通過点の30年時点でEVの生産台数は年200万台超と設定した。

◆参照記事:
「ホンダEVわが道をゆく 『日本流』CO2ゼロに反旗 欧米に倣いスピード重視」(2021年5月2日付)
「売れないからやめる! ホンダFCVを生産中止 『脱炭素』に経営資源を集中させるはずじゃなかったの?」(2021年07月07日付)
「ソニー×ホンダ EV開発で異業種連携 米IT大手の動きにらみ『号砲』!」(2022年03月18日付)

今後10年間で、電動化・ソフトウエアの研究開発費5兆円

   具体的には、今後10年間で、電動化・ソフトウエア領域の研究開発費などとして約5兆円(空飛ぶ車などを含めると8兆円)を投じ、30年までに全世界で30車種のEVを投入する。

   30車種にはGMと共同開発するSUV(スポーツ用多目的車)2車種を含み、北米では27年に300万円台での発売を想定。中国でも27年までに10車種を投入するなどとしている。

   日本では商用の軽EVを先行させ、24年前半に100万円台で売り出す方針。まずは宅配などビジネス向けがターゲットとする。

   EVのコストの3割を占めるといわれる電池については、北米がGM製、中国では寧徳時代新能源科技(CATL)製など、地域ごとに調達先を変え、必要量を確保する。さらに、将来の競争力を左右するといわれる次世代の「全固体電池」の開発では、約430億円を投じて、実証ラインを24年春に栃木県さくら市の研究開発拠点に立ち上げるとした。

   こうした取り組みは、トヨタ、日産と比べてどうか。

   2030年のEV目標は、ホンダの200万台(世界販売の40%)、トヨタ350万台(同35%)、日産は車種の半分以上をハイブリッド車(HV)含む電動車にするとしている。そのため、30年までにホンダとトヨタがそれぞれEV30車種、日産は電動車全体で23車種を展開するといった具合だ。

   投資に関しては、ホンダが30年までに電動化・ソフトウエア領域の研究開発費などに5兆円(空飛ぶ車などを含めると8兆円)、トヨタはEVに4兆円、HVなどを含む電動車全体で8兆円、日産は26年までに電動化に2兆円としている。

   以上のように、各社の数字を比べると、それほどの差はないのだが、30年EV40%などとするホンダを「意欲的」(アナリスト)と評する声もある。

ホンダの計画のやや心もとない部分とは

   ただ、ホンダの計画は、よくよく見ると、やや心もとない部分がある。

   まず、日本でのEV化の本格展開に向け、商用の軽EVを突破口としようとしていることだ。

   宅配など配送業に使う近距離移動のバンを想定していると思われるが、この分野では、物流大手の佐川急便がベンチャー企業と小型配送用のEVを共同開発し、30年までに約7200台の軽商用車をEV化する計画を打ち出しており、車両は中国で生産するとみられる。

   SBSホールディングスも昨秋、中国の小型EVトラックを1万台調達すると発表した。「中国の格安EVと『100万円台』などで価格競争することに、どれだけ意味があるのか」(モータージャーナリスト)との疑問が浮かぶ。

   全固体電池も心配だ。

   今回の発表で、「2024年に実証ラインを立ち上げ、2020年代後半のモデルに採用できるよう研究を加速させている」と説明したが、はっきりした投資は実証ラインの430億円。発表でも「量産はチャレンジング」と、困難さを率直に認めている。

   トヨタは30年までにこの分野だけで2兆円を投じるとしている。また、日産も自社開発を進めており、24年にパイロット生産ラインを導入し、2028年の量産を目指している。ホンダの取り組みが、これら2社に大きく見劣りするのは明らかだろう。

   EVをめぐる業界の動きはめまぐるしく、トヨタでさえ、2021年9月に「全固体電池開発に1兆5000億円投資」と発表したのを、12月に投資額を2兆円に引き上げた。このように、一度立てた計画も、EV普及への政治的圧力、世論、ライバルの動向などにより、短時間で修正を迫られることが珍しくなくなっている。

   ホンダの今回の発表とて、早晩、修正を迫られる可能性もありそうだ。(ジャーナリスト 済田経夫)