J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

大学卒業式「心を震わす学長の挨拶」はコレ!会社ウォッチ編集部が独断で選ぶ珠玉の言葉の数々【2:ビジネスの巨人に学ぼう編】

   2022年3月、多くの大学で卒業式が行われて、卒業生たちが巣立っていった。

   ウクライナ危機、人口爆発、気候変動、さらにAI時代の到来という未曽有の歴史の大転換のさなか、それぞれの大学の学長・総長たちは、社会の荒波に飛び込んでいった若者に激励のエールを贈った。

   どう社会と向き合い、どうやって生きていくか。教え子たちを思う熱情にあふれた言葉の数々。J‐CAST 会社ウォッチ編集部が、独断で選んでみた。

  • 学長・総長たちが卒業生に贈った言葉とは(写真はイメージ)
    学長・総長たちが卒業生に贈った言葉とは(写真はイメージ)
  • 学長・総長たちが卒業生に贈った言葉とは(写真はイメージ)

ジョブズのアイデア、点と点をつなぐ「フォント」革命

   <大学卒業式「心を震わす学長の挨拶」はコレ!会社ウォッチ編集部が独断で選ぶ珠玉の言葉の数々【1:熱き志で世界を救おう編】>の続きです。

   卒業後すぐに実業の世界に飛び込む卒業生が多い。そんな教え子たちのために、ビジネス界の巨人の生きざまを紹介する総長・学長が何人かいた。もちろん、立身出世のコツをアドバイスするわけではない。いかに人間らしく働くかをとくとくと語ったのだった。

大阪大学の西尾章治郎総長(大阪大学公式サイトより)
大阪大学の西尾章治郎総長(大阪大学公式サイトより)

   大阪大学の西尾章治郎(にしお・しょうじろう)総長は、Apple社の共同創業者スティーブ・ジョブズを取りあげた。マッキントッシュ、iPhone、iPadなどを世に送り出し、コンピュータのみならず、社会生活に何度も革命を起こした偉大な人物だが、あまり知られていない業績に注目した。

「パソコンやスマートフォンなどで表示される文字には、何十種類もの『フォント』がありますが、このように文字にさまざまなデザインを施すという発想も、実は、スティーブ・ジョブズによるものです」

   そう語り、西尾総長はスティーブ・ジョブズの大切な言葉を紹介した。

「『Connecting the dots』 (点と点を繋ぐ)という言葉です。このフレーズは、彼の経験から出た言葉です」

   ジョブズは、大学には入学したが授業科目に興味が持てず、半年で退学。退学後も興味ある講義を見つけてはもぐり込んだ。その1つがカリグラフィーだ。欧州や中東に伝統的にある文字を美しく見せる技術だ。ジョブズは芸術的な文字の世界のとりこになった。

「それから10年後、マッキントッシュの製作をしているときに、カリグラフィーの講義の知識が大いに役に立ち、コンピュータにおけるフォントの設計に繋がったのです。さらに、彼のアイデアは現代のパソコンにフォントという機能を搭載する原点になっているのです」
「ジョブズが大学の中退を決意しなかったら、あるいはカリグラフィーの講義を受講していなかったら...。少しの挫折、ちょっとした寄り道が、世界のテクノロジーを変えたと言っても過言ではありません」

   西尾総長は、ジョブズが語った「点と点を繋ぐ」ことの大切さをこう説いた。

「皆さんが、コロナ禍で制約を受けながら過ごした学生としての貴重な時間。『外出できない悔しい気持ちをバネに、料理の腕を磨きました』『アプリを使って、語学学習を継続しています』。......皆さんが過ごしてきた1日1日が、ジョブズの言う、1つ1つのドット、点なのです」
「決して、なだらかな一本道だったわけではないでしょう。でも、良くも悪くもさまざまな経験、多くの出会い、喜怒哀楽の経験値を、きちんとドットとして認識し、大切に心の中に保管しておいていただきたい」
「点の1つ1つが、皆さんの人間性やスキル、アイデアを向上させるヒントとなるときが必ずやって来ます。そのとき、きっと皆さんは『ああ、これって、あの時の...』とつぶやき、目の前の霧がすっと消える瞬間を味わうことでしょう」

世界80億人はすべてドットでつながっている

   点と点のつながりは、人間と人間のつながり、ひるがえってネットワークにもつながる、と西尾総長は強調した。

「皆さんには、社会の中にあっても、『Connecting the dots』を実践してほしいと考えています。社会はまさに、人と人、課題と課題、あらゆるドットを繋げることでネットワークが成立し、空間的、時間的な広がりを持ちます。そのネットワークから、今までになかったシステムやアイデアが生まれ、社会そのものが成長していきます」

   西尾総長はその好例を、ジョブズに関するもう1つのエピソードで紹介した。西尾総長は約30年前、大阪大学の情報教育部門の責任者を努め、その部門のコンピュータを更新するタイミングとなった。当時は、1台の大型電子計算機に専用の利用者端末を繋ぐ、使い勝手の悪いシステムだった。

「私をはじめとする若手教員は、ジョブズが開発したマッキントッシュのようなユーザーフレンドリーなマシンを何とか導入できないか、と熱く語り合っていました。難しいコマンドを使わなくてもマウス1つでアイデアを可視化してくれる画期的なマシンは、情報教育改革を先導するに違いないからです」

   そこで、導入マシンを決定する学内の重要な会議で、西尾総長はマシンの大変革期に来ている、すべての演習室ではなく1室だけでもよいからマッキントッシュを導入したいと思い切って訴えた。

「一瞬の沈黙の後、会議メンバーの1人の教授が、『若い教員たちが真剣に考えて、それほど良いと言うのなら、1室と言わず、全部そのマシンに入れ替えたらどうだ』と発言してくださいました。振り返れば、この瞬間が、我が国の大学における情報教育環境のあり方を一変させた重要なタイミングでもありました」

   その頃、ジョブズはどうしていたのか。理想とするコンピュータへの強いこだわりからApple社を離れ、新たにNeXT社を立ち上げ、マッキントッシュの持つ機能に加え、グラフィックス機能の卓越性、音楽も扱える豊富なマルチメディア機能も備えた魔法のようなマシンを作りあげていた。

   そして、大阪大学がこのマシンが400台、導入することになり、1992年7月、導入披露の式典にジョブズ本人が来日して記念講演をした。その内容は、将来のコンピュータ社会を予見する非常にインパクトのある講演だった。

   西尾総長はこの壮大な物語をこう締めくくった。

「この一連の出来事は、機種更新の時期に遭遇したこと、当時の情報教育に携わっていた若手教員たちの熱い思い、貴重な発言をしてくださった教授、そしてジョブズの新たなマシン開発、さらにはその開発・販売に関連していた日本企業。それぞれの信念、熱意、信頼、決断などあらゆるドットが1つに繋がった好事例であると言えます」
「今や80億人となった地球上の1人1人が抱えている悩みや境遇、将来の夢や希望。これらのドットを適切に新たなドットと繋ぎ、社会の望ましいネットワークを形成していく人が、これからの社会では必要です。皆さんには、そういう人になってほしいのです」

稲盛和夫氏の信念「人は仕事を通じて成長していく」を贈りたい

東京経済大学の岡本英男学長(東京経済大学公式サイトより)
東京経済大学の岡本英男学長(東京経済大学公式サイトより)

   東京経済大学の岡本英男(おかもと・ひでお)学長は、「自分の生き方の手本としている、尊敬する経営者」として、京セラの創業者である稲盛和夫氏(2022年8月死去)を取りあげた。岡本学長が何度も繰り返し読んでいる稲盛氏の著作が3つある。『生き方』、『働き方』、『考え方』の3冊だ。

「これらの著作の中で、私自身心の底から賛同し、皆さんにぜひ伝えたいと思うことを2点に絞って述べます。1つ目は、『労働の尊厳、勤労の誇りを取り戻そう』という稲盛さんの主張です。稲盛さんは、謙虚さの美徳と同様に、勤勉がもたらす美徳もまた、改めて考え直し、取り戻さなければならない精神であるとして、次のように述べます」
「戦後、働くという行為の意義や価値が『唯物的に』捉えられ過ぎたきらいがある。働く最大の目的は物質的豊かさを得ることであり、仕事とは、自分の時間を提供して報酬を得るための手段であるという考えに、私たちは慣れてしまっている。しかしながら、もともと日本、あるいは東洋には、労働のもつ精神性、すなわち労働を人間形成のための『精進の場』として捉える視点が、確固として存在していた」

   つまり、稲盛氏は「人は仕事を通じて成長していくものだ」と確信しているわけだ。

「このように述べると、『では、好きでもない、楽しくもない仕事を一生続けなければいけないのでしょうか?』と反論される方もいるかもしれません。しかし、そうではないのです。自分の仕事はこれだと覚悟を決め、経験を積み、スキルを高め、精通したと言えるレベルまで実力を磨いてください、と私は述べているのです」
「そこまで到達すれば、人から命令されて働くのではなく、皆さんの意思と裁量で多くのことが決められるようになります。自分が成長することで、どんな仕事でも楽しくやりがいのあるものに変わっていくのです。皆さんもぜひ、このことを心に留めておいてください」

幸福と成功の方程式のカギを握る「考え方」

   岡本学長は2点目として、「『考え方』を変えれば人生は180度変わる」という稲盛氏の信念を紹介した。稲盛氏には、「人生をよりよく生き、幸福という果実を得るには、どうすればよいか」という幸福と成功の方程式があるという。それがこれだ。

「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」

   つまり、人生や仕事の成果は、これら3つの要素の「掛け算」によって得られるものであり、決して「足し算」ではないという点がポイントだ。

   岡本英男学長はこう語った。

「能力とは才能や知能とほぼ同じであり、多分に先天的な資質を意味します。また熱意とは、事をなそうする情熱や努力する心のことで、これは自分の意思で制御することができる後天的な要素です。掛け算ですから、能力があっても熱意に乏しければ、いい結果は出ません。逆に能力がなくても、そのことを自覚して、人生や仕事に燃えるような情熱で当たれば、先天的に能力に恵まれた人よりもはるかにいい結果が得られます」

   ここで重要になるのが、掛け算の式の頭にある「考え方」だ。

「稲盛さんは、このうち最初の『考え方』こそが、3つの要素の中で最も重要で、この考え方次第で人生はほぼ決まってしまう、と主張されます。考え方には、いい考え方もあれば悪い考え方もあり、プラスの方向に向かってもてる熱意や能力を発揮する生き方もあれば、マイナスの方向へ向けてその熱意や能力を使う人もいます」

   考え方という要素には、マイナス点も存在する。だから、熱意や能力の点数がいくら高くても、この考え方のところがマイナスだったら、掛け算の答えである「人生や仕事の結果」もすべてマイナスになってしまう恐ろしさがあるのだ。

「それでは、『プラス方向』の考え方とは、どのようなものでしょうか。稲盛さんは、それは常識的に判断されうる『よい心』のことだと述べ、次のような例をあげています」
「つねに前向きで建設的であること。感謝の心をもち、みんなと一緒に歩もうという協調性を有していること。明るく肯定的であること。善意に満ち、思いやりがあり、やさしい心をもっていること。努力を惜しまないこと。足るを知り、利己的でなく、強欲でないこと...」

   最後に岡本学長はこう卒業生に訴えた。

「仕事を心から好きになり、一生懸命精魂を込めて仕事に打ち込んでください。明るく前向きで建設的な人間でいてください。感謝の気持ちを忘れることなく皆と協調的に生きてください。善意に満ち、思いやりがあり、やさしい心を持ちつづけてください。『生きとし生けるものとの共存』をつねに意識して生活してください。皆さんがこのような人間になることを今世界は切実に求めています」

   熱情にあふれた言葉の数々......「心を震わす学長の挨拶」はまだまだあります。<大学卒業式「心を震わす学長の挨拶」はコレ!会社ウォッチ編集部が独断で選ぶ珠玉の言葉の数々【3:AI時代、キミたちはどう働くか編】>もぜひどうぞ。

(福田和郎)

「心を震わす学長の挨拶」シリーズ
大学卒業式「心を震わす学長の挨拶」はコレ!会社ウォッチ編集部が独断で選ぶ珠玉の言葉の数々【1:熱き志で世界を救おう編】
大学卒業式「心を震わす学長の挨拶」はコレ!会社ウォッチ編集部が独断で選ぶ珠玉の言葉の数々【2:ビジネスの巨人に学ぼう編】
大学卒業式「心を震わす学長の挨拶」はコレ!会社ウォッチ編集部が独断で選ぶ珠玉の言葉の数々【3:AI時代、キミたちはどう働くか編】
大学卒業式「心を震わす学長の挨拶」はコレ!会社ウォッチ編集部が独断で選ぶ珠玉の言葉の数々【4:人生に愛と哲学を持とう編】