2024年 4月 26日 (金)

「大震災」から1年たった今なにができるか? 冨田 晃の答えは『いのり』

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寄り添うことの意味

   一匹狼と冨田は自分自身を評し、ただし、いまはそれではいられないと吐露もした。

   このアルバム作りには、普通なら自分の作品で飾るであろうジャケットやPVに、他のアーティストの作品を使っている。

冨田「結果としてこういうものができた。ジャケットのイラストや、PVとしての動画も自分の1年間の心の動きの中から派生してきている」

   ジャケットのイラストは冨田の同級生、画家の榎俊幸氏の「ナマステハンズ」という作品。榎氏の作品は村上春樹の文庫版「東京奇談集」の表紙にもなっている。PVの動画作品は青森をベースに活動し東北の風景を美しく撮る映像作家・Aomorigonta氏とのコラボ作品だ。

冨田「僕は、音を創ることに集中したということになるかな。ジャンルにこだわらず、音創りに最大の気配りをした。
   どういうことかといえば、波形編集で音を創ることはできるけれど、生の音の方が良いのは当然。ただCDの音の方が良い場合もある。辛い時に人に寄り添えるのは生の演奏ではなく、1枚のCDなのかもしれない。生音を聴くにはどこかに出かけなければならないけれど、CDは聴きたいときにすぐに聴ける。パッケージメディアの価値は、各自の意志で再現できること。生はなにがしかの努力、偶然がなければ出合えない。
   そうしたことを踏まえて、聴く人々に寄り添える音を創りたかった」

   冨田は被災地を演奏ボランティアとしても駆け巡っている。ただしコーディネーターという黒子に徹して、学生など若いメンバーを前面に活動する。「おじさんが行ってもしょうがない」という。それでも実は、自分の立ち位置がないことに、一抹の寂しさも感じていた。

冨田「その中で僕が、被災した皆さんに寄り添えるには、"祈り"をCD化するという方法しかなかったということ。簡単に言えば、僕も学生達と同じように寄り添いたかった」

   冨田は東日本大震災で、人間の本質を突きつけられたという。

冨田「人間が生きる本質は、誰とも違う私がここにいるという感覚と、誰かと繋がりたいという感覚の二つから成り立っている。どちらも本質ではあるけれど、それが大震災を通じて究極的な状況として立ち顕れてきた。プライバシーがなければ苦しいが、誰とも繋がっていないと思えば辛くなる。人間の一番大事なところがハッキリしてくる感じ。
   お金で買えるような物は全部なくなると突きつけられたし、生命すら簡単に失われると思い知らされた。一番大切なものも無くなると分かって、初めて一番大切なものも見えてくる。理屈じゃなく、身体で分かるようになっている」

   冨田 晃の波形編集第2弾作品は「3.11東日本大震災追悼」の意を込めた。

   『いのり』に込められた音の一つ一つに、「祈り」の真音が貼り込まれている。

加藤 晋

【収録曲】
1.不屈の民 PartⅠ
2.弦楽のためのアダージョ
3.不屈の民 PartⅡ
4.ヴォカリーズ
5.不屈の民 PartⅢ
6.交響曲第5番 第4楽章 アダージェット
7.あこがれ/愛 *
(*Bonus Track)

◆加藤 普(かとう・あきら)プロフィール
1949年島根県生まれ。早稲田大学中退。フリーランスのライター・編集者として多くの出版物の創刊・制作に関わる。70~80年代の代表的音楽誌・ロッキンFの創刊メンバー&副編、編集長代行。現在、新星堂フリーペーパー・DROPSのチーフ・ライター&エディター。

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