2024年 4月 29日 (月)

霞ヶ関官僚が読む本
国際会議と「武士道」の関係 「日本のソフトパワー」生かす道

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   今年(2012年)の夏の定期異動で初めて国際関係の担当ポストに着任し、9月から約3週間開催された4年に一度の大規模な国際会議への対応の責任者となった。国際関係と言えば、日米・日中関係といったバイ(1対1)の関係や日ASEAN、TPPなど関係国がある程度限定された枠組みについての話題が上ることが多いが、筆者が担当する国際会議は190か国以上が加盟する国連の専門機関による会議である。

   開催までの限られた期間の中で、マルチの国際会議における自らの振る舞いを模索する中で読んだ2冊の本を紹介したい。

ジョセフ・ナイが説く「信頼される具体的な行動」の重要性

『スマート・パワー 21世紀を支配する新しい力』
『スマート・パワー 21世紀を支配する新しい力』

   『スマート・パワー 21世紀を支配する新しい力』(ジョセフ・S・ナイ著 日本経済新聞出版社)。ジョセフ・ナイは、クリントン政権下において国防次官補等を歴任し、現在はハーバード大学にて教鞭を執る米国の外交・安全保障政策の大家である。彼は本書の中で、国際社会における力の移行・拡散や世界的な情報化が進展する中、今後の米国の外交方針として、従来重要視されてきたハードパワー(軍事力や経済力を背景とした強制や支払い)に加えて、ソフトパワー(魅力や説得による誘引)の活用を重視していくことの必要性を強調し、両者の源泉となる資源を総合的・戦略的に組み合わせた「スマート・パワー」を発揮することの重要性を提唱している。

   特にソフトパワーの活用については、意図的な宣伝活動と見られれば効果は望めず、信頼される具体的な行動こそが重要だと強調しており、示唆に富む。

外交官OBに助言求めると…

   もう1冊の『武士道』(新渡戸稲造著 PHP研究所)については、国際会議への対応を模索する中、外交官OBの方に助言を求めたところ本書の名前を挙げられたので、改めて読み直してみたものである。

   恥ずかしながら、『武士道』を初めて読んだ時は、「日本男児の心得」を日本人に対して説くことを意図とした本だと想定して読み始めたため、期待外れという印象しか受けなかった。だが、このたび国際担当となって、ナイの『スマート・パワー』を読んだ後に改めて読み返してみると、何のことはない、この『武士道』という書物、そしてそこに描かれる武士道精神そのものが、世界最強と言っても過言ではない日本のソフトパワーの根源ではないかと痛感している。

   『武士道』は、外交的打算に基づくプロパガンダといった低い志ではなく、元は農学者でありキリスト教徒である新渡戸が、日本人の倫理・道徳観や行動原理について諸外国の理解を得たいという一心に立ち、欧米における類似・対比の例や古くはギリシャ哲学者等の言葉も引用しつつ説明を試みようとしているものである。行間からにじみ出るその狂おしいほどの思いは、読む人を惹きつけずにはおかないであろう。

日本の大きな武器に

   また、武士道精神に関しては、筆者が出席した国際会議の現場においても、公の秩序を尊重し、約束したことは必ずやり遂げるといった我々日本代表団の姿勢や行動が、世界各国の代表団から尊敬・尊重の念をもって受け止められることを幾度となく感じた。最近、ミス・インターナショナルで世界一となった吉松育美さんも、日本人としてはごく当たり前の「5分前精神」に基づく自らの行動が評価されたとの話をしていたが、我々日本人に今なお流れる武士道精神は、ソフトパワーが重視される今後の国際社会において、日本の大きな武器になっていくであろう。

   先人達が累代に渡って地道に築き上げたこの貴重な財産を大切にしつつ、その価値を更に高めて次の世代に引き継ぐことができるよう、私自身も研鑽努力を重ねていきたい。

経済官庁(課長級)GK

   J-CASTニュースの新書籍サイト「BOOKウォッチ」でも記事を公開中。

【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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