2020年 10月 1日 (木)

霞ヶ関官僚が読む本
大学紛争と「学歴貴族文化への怨恨」 今望まれる新しい教養主義

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   『学歴貴族の栄光と挫折』(竹内洋著 中央公論新社)。「日本の近代」と題された全16巻のシリーズの中の第12巻である。このシリーズは、前半8巻は明治以来の通史、後半8巻はテーマ別で、学者が一人1巻ずつ分担して著している。筆者は数巻しか読了していないが、いずれも読み応えがある。

「軌道からずれた」永井荷風と芥川龍之介

『学歴貴族の栄光と挫折』
『学歴貴族の栄光と挫折』

   本書は、永井荷風と芥川龍之介の話から始まる。著者は、高級官吏の長男で山の手階級出身でありながら、一高工科の試験に失敗して学歴貴族の道を踏み外した永井壮吉(荷風)と、下町の中流階級出身で府立三中から一高・東大に進み、学歴貴族に成り上がった芥川龍之介について、社会的軌道のねじれを指摘する。つまり、旧制高校・帝大という学歴貴族かどうかを横軸に、山の手階級出身か下町出身かという出自を縦軸に分類した場合、山の手出身であれば学歴貴族になり、下町出身であれば下町知識人になるのが標準的軌道だが、二人はその軌道からずれており、これにより、反俗や上昇知識人の「不安」を代償に、作家としての特権的ポジションを得たと指摘している。

   この話を皮切りに学歴貴族の分析が種々の逸話を交えて幅広く展開する。特に興味深かった点を紹介すると、英国のパブリックスクールやオックスブリッジでは高額の授業料や面接試験の重視等によって能力主義が限定されていたのに対し、日本の旧制高校や帝大の入試は純粋の能力主義であった。しかし、英国でも実際には、成功した一部中産下層階級からの入学で社会的流動性が生じていたし、日本でも実際には、専門職、会社員等の新中間層を中心とした社会的再生産が生じていたと指摘する。

【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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