2024年 4月 24日 (水)

霞ヶ関官僚が読む本
武雄市図書館と「知の広場」への挑戦 社会に開かれた「公共」の在り方とは

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   公共図書館の話題が全国ニュースになることは珍しい。この4月(2013年)にリニューアル・オープンした佐賀県の武雄市図書館はその例外だ。『図書館が街を創る。「武雄市図書館」という挑戦』(楽園計画編 ネコ・パブリッシング 2013年)は、「知の広場」をめざし、公共図書館の在り方にイノベーションを起こそうとする関係者の熱い想いのつまった本だ。「公共図書館=無料貸本屋」からの脱却を目指す新たな流れをそこに見つけることができる。

   同じく4月には、有川浩氏の『図書館戦争』(角川文庫 2011年)が映画化された。ベストセラー作家が、「図書館の自由に関する宣言」という、国民の知る権利を守り抜くために図書館関係者が戦後決議した宣言に着想を得て執筆された魅力的な物語だ。また、最近第2巻も出た、図書館を描く『夜明けの図書館』(埜納タオ著、双葉社 2011年)は、心温まる秀作漫画だ。

「図書館戦争」の敵役にみたてられ…

『千代田図書館とは何か 新しい公共空間の形成』
『千代田図書館とは何か 新しい公共空間の形成』

   しかし、武雄市の試みが、「図書館戦争」の敵役にまでみたてられ、司書、従来の図書館関係者や一部のメディアから、激しいバッシングを受け続けるのはどうしてなのだろうか。

   武雄市図書館の先行者としては、霞ヶ関の近く、九段にある千代田図書館がある。2007年5月にリニューアル・オープンしたこの図書館は、ビジネスパーソンも明確に視野に入れ斬新な取り組みを開始した。これには、国立国会図書館から千代田区に出向した柳与志夫氏が大きく貢献している。『千代田図書館とは何か 新しい公共空間の形成』(ポット出版 2010年)は、柳氏の率直な回顧録である。「はじめに」で、柳氏は、「日本の公共図書館は、今大きな転機にある。……このような状況を目にして、『大変だ、どうしよう』と思うか、『面白くなってきた、何かやってみよう』と楽しめるかは人それぞれだろう。好機と危機はコインの裏表の関係だ。むしろ問題なのは、現実を直視せず(あるいは認識できず)、あたかも問題が存在しないかのように、これまでどおり振舞い続けることである」とし、現状を守ることに汲々としている図書館界に強く警鐘を鳴らした。

文化・情報資源政策の中核に大化けするか

   柳氏は、公務を民間に開放する指定管理者制度への肯定的な評価、書店との連携により図書館で人気本を売るという発想や「図書館の自由に関する宣言」の特別扱いへの疑問など、これまでの業界常識にとらわれない豊かな構想を、本書で示していた。

   意見が異なるが、広い意味での「身内」であり、図書館界の頂点にある国立国会図書館の論客がやることには表だって厳しく批判できないが、その外にいる武雄市の「しろうと」首長と「TSUTAYA」(運営=カルチュア・コンビニエンス・クラブ)であれば遠慮はいらないということなのだろうか。2011年、同じ流れの千代田区の日比谷図書文化館が開館した際は、図書館界から大きな批判は起きなかった。

   10年前の本だが、『未来をつくる図書館~ニューヨークからの報告』(菅谷明子著 岩波新書 2003年)も、日本の残念な現状に鑑みて、コミュニティに根ざし、社会に向けて開かれた公共図書館のありようを生き生きと示す、いまだに一読に値する著作だ。

   篤実な図書館情報学者として著名な根本彰東大教授の『理想の図書館とは何か~知の公共性をめぐって』(2011年 ミネルヴァ書房)や柳氏が有意義な解説を書いている『知の広場~図書館と自由』(アントネッラ・アンニョリ著 2011年 みすず書房)を読めば、硬直化した図書館界の変革を期待したい気持ちになる。「『公共』図書館」の名に値する、地域活性化などに必要な文化・情報資源政策の中核に大化けする可能性にかけてみたい。

経済官庁B(課長級 出向中)AK

   J-CASTニュースの書籍サイト「BOOKウォッチ」でも記事を公開中。

【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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