2024年 5月 6日 (月)

霞ヶ関官僚が読む本
奔放放埓に酒精と異性に溺れ…「自由」求めてさまよった大正の奇人9人の物語

初めての方ご注目!プロミスなら最短1時間融資でお急ぎでも大丈夫!

実妹、その学友とも…「女と文学のコスモポリタン」

   著者が「女と文学のコスモポリタン」と評する武林無想庵は、当時「日本のアナトールフランス」と称せられた博識の作家であるが、幼時に養子に行き、一高生の時初めて実妹光子と会い、彼女を愛し交わってしまう。その後芝居茶屋の女と京都へ恋の逃避行するが逃げられ、郷里出身の女性との結婚も2年で破たんする。デスペレートな生活にピリオドを打とうと比叡山に上り、「摩訶止観」を読んだりするが、性根は改まらず、帰省した時には、異母妹の常子を抱いて子供まで作ってしまう。光子の学友の鎌倉の若夫人とも恋愛し、その愛欲生活を描いたのが、彼の代表作である短編「ピロニストのように」である。その後偶然から、のちに「パリの妖婦」と書き立てられる文子という破天荒な女と結婚し、二人でパリに渡る。やがて彼は養父母の財産を使い果たし、文子は他の男とできて、無想庵は、文子をあきらめることもできず追って回る。これを書いたのが、やはり彼の有名作である「Cocuの嘆き」である(コキュ=仏語で「妻を寝取られた男」)。困窮して文子と別れて帰国した無想庵は、数年後60歳ちかくなって再婚して文子と対照的な貞淑な妻朝子を得、漸く平穏を得たものの、やがて失明する。しかし、妻への口述筆記により「むそうあん物語」なる全45巻の大冊を完成させたというからしぶとい。

   他の奇人たちの生き様にも、正しくリバータリアンの面目躍如たるものがある。こういう男たちが輩出した大正時代は、偉大なる明治と波乱万丈の昭和に挟まれてやや印象が薄いが、すごい時代だったのである。

   平成の御世にあって、典型的な霞が関の住人にして無頼の対極にいる筆者は、昔から「アウトロー」的なものに惹かれ西部劇や任侠映画を愛好してきたのであるが、本書の影響で当分はリバータリアンを夢見てしまいそうである。

(山科翠  経済官庁 Ⅰ種)

【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

姉妹サイト

注目情報

PR
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中
カス丸

ジェイキャストのマスコットキャラクター

情報を活かす・問題を解き明かす・読者を動かすの3つの「かす」が由来。企業のPRやニュースの取材・編集を行っている。出張取材依頼、大歓迎!