2024年 4月 26日 (金)

本気で、社会を変え、少子化を止める

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   ◆「世界一子どもを育てやすい国にしよう」(出口治明、駒崎弘樹著、ウェッジ)

    昨年(平成27年=2015)の合計特殊出生率は1.46。平成17年(2005)の底(1.26)から改善したとはいえ、人口が均衡する水準(2.07)には程遠い。出生数でみると101万人と、ベビーブーム時代(昭和24年=1949)の270万人(現在67歳)の4割に満たない水準である。1989年の1.57ショック以来、いつか回復するだろうと淡い期待を抱かれながら30年近くが経過したが、未だ、本格的な反転と呼べる状況にはない。

   本書は、「保険料を半分にして、そのお金を子育てに回し、安心して赤ちゃんを産み育てる社会をつくる」という問題意識から、生命保険をインターネットで販売するライフネット生命を創設した出口治明氏(68歳)。そして、日本で初めて「共済型・訪問型」の病児保育を開始し、その後、障害児保育園「ヘレン」などを展開している保育分野の若手社会起業家、駒崎弘樹氏(36歳)の共著である。

   少子化問題や子育て対策に強い関心を持ち、発信を続けている二人の企業家が、日本社会を根底から変えることなくして少子化の流れは変わらないとの認識に立って、今、何をすべきかを熱く語り合ったものだ。

   30歳以上の年齢差がありながらも、世代を超えて、少子化への危機感を共有する両氏の対話は、共通点が多く、歴史に通じた出口氏と、子育て現場に精通した駒崎氏それぞれから示される事実、数値に説得力があり、とても具体的でわかりやすい内容となっている。

  • 「世界一子どもを育てやすい国にしよう」
    「世界一子どもを育てやすい国にしよう」
  • 「世界一子どもを育てやすい国にしよう」

社会が根底から変わらない限り流れを反転させられない

   二人は、繰り返し、戦後の高度成長という特殊な成功体験の下で発想している限り、少子化の流れを反転させることはできないと指摘する。子育て支援も、働き方も、そして政治(民主主義)の在り様も、もう一度グランドデザインから考え直していく必要があると説く。

   出口氏曰く、

「政府の問題意識としては、いまだに『将来の労働力が足りない。だから女性に産んでもらわなければ』という域を、大きくは出ていないように見受けられます。いったい、その程度の問題意識で、わが国の少子化問題が解決できるのでしょうか」
「少子化問題(への対応)は、単に労働力が増えるということではありません。僕たちがどのような社会をつくりたいかという、将来のビジョンに大きく関わってくる問題です。本心から、将来も人口1億人を目指したいのであれば、財源(≒増税)も必要ですし、男女を問わず、働き方を根底から見直さなければなりません」
「人間は動物です。動物の根源的な役割は、次の世代のために生きることです。だから、赤ちゃんを産みたいときに産めることが、何よりも素晴らしい社会だと思うのです」
「子どもを産みやすい社会をつくるためなら、消費税を上げるなどして財源を捻出するのは、大賛成です。『子どもを増やしたいなら、これだけ税金を上げます』と、根拠を示してきちんと話せば、賛成を得られると思うんですよ」

   駒崎氏は、危機感を持つ者が声を上げようと説く。

「子育てや少子化の問題がこんなにひどくなったのは、われわれが問題を温存させ続けてきたからにほかなりません」
「やる気のなさは、公的支出にも表れています。例えばGDPに占める家族関係支出は日本では1%あまりですが、フランスは3%弱。イギリスになると4%弱に達しています。国が投入している資源が、まったく違うんです」
「2050年に、日本の高齢者率は4割になり、労働者は3分の2に激減します。社会の持続可能性そのものが失われようとしている。僕はそのころ70歳ですが、子どもや孫の世代に『あのとき、なぜ問題意識を持ってくれなかったの?』『なぜ、手を打ってくれなかったの?』と言われたくはありません」
「ひと世代で世の中は変わります。われわれは世代を背負っていると思ったほうがいい。決して女性だけの問題ではなく、男性も語らなければなりません。子どもたちが見ています」

子育て支援も、働き方も抜本的に変えよう

   フランスでは、シラク元大統領が打ち出した「シラク3原則」を実行したことにより、1.66(1994年)だった出生率が約15年で2.0を超えるまでに回復したという。

   「シラク3原則」とは、次のような内容だ。

(1)女性がいつどこで赤ちゃんを産んでも経済的に困らないような措置(給付金の支給)をとる
(2)無料の保育所を完備し、待機児童を無くす
(3)育児休暇から職場復帰するときは、ずっと勤務していたものとみなし、企業は受け入れる

   出口氏は、待機児童の問題が長年にわたって議論されながらも解決しない日本の現状について、フランス人からこう言われたという。

「義務教育ならば、小学校の先生が足りないから、教室が足りないからという理由で、小学1年生を待機させるようなことはない。義務教育ならできるのに、なぜ保育園はできないのか? やる気がないだけでしょう。義務教育と同じレベルで義務保育にすれば、あっという間に解決するはずではないか」

   高度成長期の働き方を未だ引き摺っている現状についても、根本から見直す必要があるとする。

   日本の労働時間は、年間1700時間と一見減少しているように見えるが、これはパート労働が増えているからであって、正規労働者の労働時間はこの20年間、2000時間と変わっていない。結果として、女性にしわ寄せがいってしまい、「女性活躍」などと言っても、夢のまた夢だという。

   2030年には、現在と比べて800万人も労働力が減ってしまう状況を考えれば、日本は以下の3つの働き方改革を断行し、「働き方先進国」を目指す必要があると説く。

(1)残業禁止(残業が好きなおじさんは成長の敵!)
(2)定年制廃止(年功序列賃金は無くなるし、健康寿命も延びる!)
(3)非正規労働者への社会保険の適用拡大(下流老人問題の解決につながるし、年金財政も好転する!)

   こうした3つの取組みが徹底されれば、自ずと、性別、年齢、正規・非正規の違いによる待遇格差が生じない「同一労働同一賃金」が達成されるというのだ。

   ドイツでは、シュレーダー元首相が社会保険料負担の増加を嫌う産業界の強い反対を押し切って、社会保険の適用拡大を断行した。その際、非正規労働者の社会保険料については、給与が少ないからとして、むしろ企業負担分を増やすといった措置すら講じたのだ。

   「会社がつぶれてしまう」との中小・零細企業側からの反発に対し、シュレーダー元首相は次のように語ったという。

「老後のための年金保険料や、病気になったときの健康保険料を負担できないような企業は、そもそも人を雇う資格がないのではないか」

   結果として、シュレーダーは、その後の選挙に負けて政権を失ったが、こうしたラディカルな構造改革によって、ドイツ経済は強くなり、現在のメルケル首相は10年以上にわたって安定政権を維持している。

   日本においても、これまで3度にわたり、社会保険の適用拡大がチャレンジされたが、事業主サイドからの強い反発があって道半ばの状況にある。しかし、人手不足が深刻化する中で、働き手の確保が最優先課題となっている現状を考えると、いつまでも、この社会保険の適用拡大問題に手をこまねいているわけにもいかない。

   この状況をどう前に動かすか、具体的な知恵を絞り出さなくてはならないと思う。

クオータ制導入やひとり一票の見直し...民主主義のアップデートを考える必要

   少子化の流れを変えるためには、政策だけではなく、政治、つまり、民主主義の在り様についても、考え直す必要があるというのが本書の主張だ。

   二人の著者が一致するのは、日本は世界的に見て、女性の地位が低く、遅れているとして、政治の場に女性のクオータ制(割り当て制)を導入すべきという点だ。

「『女性は意識が低い』というおじさんがいたりしますが、民主主義本来の理念は意識が高いか低いかは関係ないんです。そもそもそれ以前に『意識の高い低い』は個人的な問題であって、性差ではくくれない話です」(出口氏)
「女性活躍の審議会に、男性しかいなかったらどうでしょうか。女性の視点は何も反映されません。子育ての審議会が、子育てしたことのないおじさんばかりでは、子どもやお母さんの視点がどこにも反映されません」(駒崎氏)

   さらに、当事者自身が直接的に政治や政策に関わる「草の根ロビイング」を積極的に展開すべきだとする。インターネットを利用すれば誰でも楽に声を上げることができる時代であり、現場の事情を熟知し、困っている当事者自身が、政治家や官僚とコンタクトすることが有効だし、大切だという。

   実際、駒崎氏は、今年の通常国会で改正された二つの法律(①児童扶養手当法:ひとり親世帯に給付される第二子以降の児童扶養手当が36年ぶりに増額された、②障害者総合支援法:これまで制度の谷間に落ち、十分な支援が受けられなかった医療的ケア児への支援体制の強化が法定化された)を例に、その意義を強調している。

   加えて、駒崎氏は、人口ピラミッドが逆三角形(現役世代に比べ高齢者の数が多くなる形)となり、しかも、若者の投票率が低位のままだとすると、「シルバー民主主義」全盛の時代となってしまうことを懸念する。このままでは、目先の高齢者の利益が優先され、将来世代にとって重要な中長期的な投資が軽視されてしまうというのだ。

   こうした事態を回避するために、民主主義をアップデートすべきだとして、ドメイン投票制(親権者に子どもの数だけ投票権を与える)や世代別の選挙区制(青年国会、中年国会、高齢国会)といった未だ世界に例をみない選挙制度の提案を行っている。こうした提案は、最近、世代間格差に懸念を示す若手の経済学者等を中心に展開されているが、そこには停滞する日本社会への焦りや怒りに似た思いが感じられる。

   出口氏は、こうした問題意識に理解を示しつつも、年齢フリーの原則を基本に、年齢によって差を設けるのではなく、むしろ、若者の投票率を引き上げるための工夫、例えば、エストニアで導入されているようなインターネット投票を実現するといった提案を行っている。

   ドメイン投票制や世代別の選挙区制といった民主主義の在り様を大きく変えるような改革案が広く受け入れられるかどうかはわからないが、こうした世代の違いを正面から問う提案が現役世代から出されるようになった現実を前にすると、少子化という人口構造の変化がもたらすインパクトの大きさを改めて感じさせられる。

    本気で、未来に向けて、どう取り組むかが問われているのだ。

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