2024年 4月 24日 (水)

速筆ロッシーニの確信犯的「再」転用は代表作に
オペラ「セビリアの理髪師」序曲

「序曲」をめぐる顛末とは

   彼の代表作、「セビリアの理髪師」は、全2幕、2時間40分もかかるオペラの全曲をわずか2週間ですべて作曲したということになっています。これはもちろんロッシーニにとっても最速記録です。有名な作品ということもあって、多少「話が盛られている」としても、人間離れした速度で作曲をしていったことは事実だと思われます。時は1816年、24歳のロッシーニにはエネルギーがみなぎっていたのでしょう。

   オペラの「本体」は、無事に完成したのですが、ローマでの初演日の直前になって、ロッシーニははたと気づきました。「序曲がない!」・・・オペラには、全体のあらすじを音楽的に予見させるような「序曲」がつきものです。本体を完成させてからでないと、とりかかりにくいものだから、ロッシーニは作曲を後回しにしていたのです。しかし、もう時間がありません・・・!

   そこでロッシーニは、「自作転用」に走るのです。その前年、1815年にナポリの劇場向けに完成させていた「イングランドの女王エリザベッタ」、こちらは「セビリア」とは違って、シリアスなオペラでしたが、この序曲をそのまま、転用したのです。

   しかし、驚くなかれ、「エリザベッタ」の序曲も転用だったのです。これは、もともと1813年、ミラノのスカラ座で初演された「パルミラのアウレリアーノ」というオペラの序曲だったのです!つまり、「再」転用ということですね。

   多少は手を加えているものの、序曲として使われたそれぞれのオペラの時代・場所の設定もまちまちで、喜劇に悲劇と全体の傾向も違うのに、同じ音楽が、あたかもオリジナルのようにフィットしてしまう・・・「序曲の2回転用」の事実の前に、ロッシーニの作曲の才能に驚いてしまいます。まあ、このように「どの場面をとってもふさわしく聞こえる」曲を書いてしまえる実力がもともとあったからこそ、ヒット・オペラを量産する「速筆の達人」になれたのかもしれません。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール

私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でピルミ エ・ プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソ ロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目CDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラ マ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを 務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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