2024年 4月 19日 (金)

頭山満が評した海舟、鉄舟、泥舟の風格

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   ■「幕末三舟伝」(頭山満著、島津書房)

   頭山満といえば、戦前の右翼の巨魁と言われている。なるほど相当に暴れた過去もあるようだが、自由民権運動を支援し、これと決別してからも孫文を支援した、とも聞く。であれば昨今いわゆる「右翼」とは趣が異なる。最近評伝も出版されたが、どのような人物だったのだろう。

   その頭山が、幕末の傑人、勝海舟・山岡鉄舟・高橋泥舟の三者を評して語ったのが本書である。生きる時代が一部重なっていただけあって、現代仮名遣いに直されたテンポの良い語り口によって、三者の偉業がまさに「観てきたように」活写される。

   出版のため、頭山の口伝を門人・武劉生が整理したというが、同人もこう記している。「三舟の風格が翁(評者注・頭山)の舌端をかりて、躍如として現出し来ったことは、わたしのひそかに愉快とするところである」(本書「編者のことば」)。

西郷相手にみせた山岡鉄舟の胆力

   全編これ痛快で引用に迷うが、ここは山岡鉄舟の言動を紹介したい。

   まずその言である。曰く「...どんな事変にぶつかっても、びくりとも動かず。その難に堪え忍び、綽々としてその境遇の座を占めこんで、その大事を処理する...しかるを苦しいと云うままに、その難を免るるのは、まずまず錬胆の実薄く、忠孝仁義の誠に乏しき証拠である」。このくだりに、評者は嘆息せしめられた。

   今年の仕事の山場、政治の要請を「綽々と」受け止めつつ「大事を処理」したか。「苦しいと云うままに」甘い仕事をしなかったか。

   本書はさらに、駿府まで進軍した西郷南洲と鉄舟の激論を開披する。西郷の攻め手に、鉄舟は必死の防御だ。

   慶喜を備前預かりとせよとの西軍の言い条に、鉄舟は堂々たる言葉を放つ。「この儀は、拙者において承知できぬばかりでない。徳川家恩顧の者、一人として承知するものはござりませぬ。つまるところ(中略)なし得ざるところを強いて兵端を開こうとなさるようなもので、これがため、数万の生命を絶つとあっては(中略)先生は、ただの人殺しでござります」。

   朝命を楯になおも押し込む西郷に、鉄舟は、立場を変えてみよ、同じことを言われて薩摩藩士は引き下がれるのか、と鮮やかに切り返す。

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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