2018年 12月 17日 (月)

ヴィヴァルディの「冬」が教えてくれる ヴェネツィアの厳しい冬

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   先週に引き続き、今週も冬の寒さが北半球を覆っています。日本列島は、例年より寒気の襲来が多く、長期化しているかな・・程度ですが、諸外国ではナイアガラの滝が凍ったり、サハラ砂漠に雪が降ったりと、「尋常じゃない寒さ」が観測されるところも多く、今年の冬の寒さが特別なことが感じられます。地球温暖化というより、気候変動・・ひょっとしたら、地球は寒くなっているのかもしれません。

   先週は、寒さに関連してヨーロッパの寒い国、ロシアのスクリャービンの作品をとりあげましたが、今週は、ヨーロッパでは南の国、イタリアの作曲家が登場です。イタリア・バロックを代表する巨匠、アントニオ・ヴィヴァルディの代表作、「四季」の中から「冬」を取り上げます。

  • ヴァイオリンを持っているヴィヴァルディの肖像
    ヴァイオリンを持っているヴィヴァルディの肖像
  • 四季、とは書いていないが、冬、とは書いてある楽譜の出だし
    四季、とは書いていないが、冬、とは書いてある楽譜の出だし
  • オーケストラとヴァイオリンが一体になって、冬の厳しさを思わせるような激しいパッセージが弾かれる
    オーケストラとヴァイオリンが一体になって、冬の厳しさを思わせるような激しいパッセージが弾かれる

家の中も水浸し

   クラシック音楽の発祥の地でもあるイタリア半島は、ヨーロッパでは南の国に入りますが、日本と比べれば、はるかに緯度が高く、冬季は夜が長く、日照時間が短くなります。そして、天気も悪くなります。

   水の都、として現代でも人気の観光地、ヴェネツィアは、冬季期間中は憂鬱な時期となります。日照時間が少なく、寒くて、天気が悪いだけならばヨーロッパ各都市共通ですが、冬季は、海の水位が上昇して、ヴェネツィアは町中が浸水することが多く、有名なサン・マルコ広場をはじめとして、夏季には道路となっているところや家の中も水浸しになり、水の都ならぬ「水の中の都」と化してしまうのです。

   もちろん居住者は毎年のことですから、長靴を履いたり、または浸水した広場に歩行者用の板を渡したりしてしのぎますが、観光客にとっては、バッドシーズン、冬季に訪れる人はぐっと少なくなります。

   もっともヴェネツィア通の人は、あえて、その「空いている」冬の時期に訪れる人もいるようですが。

   現代では観光が主要産業のヴェネツィアですが、まだイタリアという統一国家ができる前、ヴェネツィアは、海の上にあって外敵から身を守りやすいことと引き換えに、農地がほとんどなく、貿易で生きていくしかありませんでした。

   通商国家であることがヴェネツィアの力の源泉だったのです。しかし、冬はそれも阻みました。地中海と、そこへつながるアドリア海、いずれもが冬季は荒れる海となり、さらに風も帆船の航行には適さなかったのです。貿易ができない季節、冬は、ヴェネツィア共和国にとって、いろいろな意味で憂鬱な季節なのでした。

「四季」とは表記せず

   そのヴェネツィア共和国がまだ存在した1678年に、アントニオ・ヴィヴァルディは生まれました。司祭であり、ヴァイオリニストであり、音楽院の教師であり、作曲家であったヴィヴァルディは、生誕の地ヴェネツィアで、若いころから活躍します。

   ヴァイオリンが得意だったため、イタリア・バロックに多く見られる「ヴァイオリン協奏曲」形式の曲をいくつか残したヴィヴァルディでしたが、円熟期の40代半ばに作曲した「和声と創意への試み Op.8」の全12曲は特に傑作とされています。そのうち、第1番から第4番までが順に「春」「夏」「秋」「冬」と名付けられ、この4曲だけで演奏されることが現代では多くなっていますが、ヴィヴァルディ自身は、この4曲をまとめて「四季」と表記していません。従って、今日取り上げた「冬」は、あくまでヴァイオリン協奏曲「和声と創意への試み 第4番『冬』 RV297」(注 リュオム番号:ヴィヴァルディ作品だけの作品番号)とすべきなのです。

   四季、というタイトルが独り歩きしたために、第1番の春の、それも第1楽章の部分だけが突出して有名になり、ヴィヴァルディの代名詞ともなっていますが、私は、特にこの「冬」に魅力を感じます。

足元は洪水、上空からは小雨

   第1楽章の冒頭から、激しい独奏ヴァイオリンと、弦楽合奏が、争うように早いパッセージを弾き、ヴィヴァルディ独特のハーモニーの心地よい進行に乗せられていると、私は、足元は洪水、そして、上空からは小雨が降っている霧の立ち込めた冬のヴェネツィアの広場を、速足で駆け抜けているようなイメージを想像してしまいます。

   最近では、徐々に人気が出てきているようで、フィギュアスケートの音楽や、CMの楽曲として、「冬」が単独で聞かれることも多くなったように感じます。

   現代では「四季」のおかげでバロックの巨匠のひとりとされるヴィヴァルディですが、彼は、仕事を求めたウィーンで不遇のうちに亡くなったということもあって、死後しばらくは忘れられた作曲家でした。

   しかし、多くのすぐれたヴァイオリン協奏曲などを残し、それを遠く離れたドイツのJ.S.バッハが、イタリアの協奏曲形式の勉強のために、編曲をしたり、自作の中に取り入れたりしていたため、バッハがドイツで再評価されるようになると、自動的にそのバッハがリスペクトしていたと思われる、ヴィヴァルディの作品にも陽が当たり始め、再評価されて、今日の高評価につながってゆくのです。

   厳しいヴェネツィアの冬は過ぎて、また麗しの春がやってくるはずです。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール

私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でピルミ エ・ プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソ ロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目CDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを 務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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