2018年 7月 22日 (日)

現実の「思想業界」は複雑すぎて...大理論ではくくれない

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   政治思想史分野で活躍する仲正昌樹氏が、10年ほど前に著した「集中講義! 日本の現代思想~ポストモダンとは何だったのか」(NHKブックス 2006年)ではやくも喝破していたように、「大きな物語・大理論」を再び求めたいという願望から、「かつての『現代思想』の旗手たちや、その影響を受けてジェンダー・スタディーズやカルチュアル・スタディーズなどの『差異ポリティクス』に従事していた人々が『左旋回』して、旧来の左派といつの間にか"合流"し、"新自由主義者"や"ナショナリスト"などの『右』勢力と正面から対峙するようになった。そのため、今や『思想業界』は、1970年代以前のわかりやすい『左/右』の二項対立状況に戻ったかの様相を呈している」。二項対立は素人にわかりやすい構図だが、現実の複雑な人間社会の問題の解決にはあまり貢献しないことは明らかだ。

「リベラルが衰退して日本は右傾化した」のか

橘玲著「朝日ぎらい~よりよい社会のためのリベラル進化論」
橘玲著「朝日ぎらい~よりよい社会のためのリベラル進化論」

   そのような中、朝日新聞出版から「朝日ぎらい~よりよい社会のためのリベラル進化論」が、この6月に出版された。著者は、作家の橘玲氏で、2016年の新書大賞を受賞した「言ってはいけない~残酷すぎる真実」(新潮新書)などで、最先端の科学的知見を披露する。

   橘氏は、「リベラルが衰退して日本は右傾化した」という見方に懐疑的で、そのように見えるのは、朝日新聞に代表される日本の「リベラリズム(戦後民主主義)」が、世界全体ではリベラリズムが勝利を収めつつある中、根底に「普遍性」を持つなどの「グローバルスタンダード」のリベラリズムから脱落しつつあるからだという。

   また、「右傾化」は、「アイデンティティという病」から生まれるグロテスクな「愛」と「正義」のことだとする。アイデンティティは、進化の過程で脳に埋め込まれた自己と集団を一体化させる仕組みだそうだ。知識社会の進展の中で、この病を解決するのは極めて難しく、著者は悲観的だが、個人が複数のアイデンティティがもてるような社会を構築するしかないと思える。「朝日ぎらい」の本質は、「愛国」を拒否する朝日新聞の論調が、脆弱なアイデンティティしかもたない人々のそれを傷つけるからだとする。

   本書のあとがきで、「『リベラル』を名乗る組織は、リベラルがどのようなものかを身をもって示す責任を負っている。多くのひとがそれを見て、『自分もあんなふうになりたい』と思うことで社会は前に進んでいくのだ」とし、「リベラリズムを蝕むのは『右(ネトウヨ)』からの攻撃ではなく、自らのダブルスタンダードだ。」という。日本の「リベラル派」の復活には、「愛国」との関係の整理のほか、かなりの覚悟と自己規律が求められそうだ。

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