2019年 7月 17日 (水)

急に変えてはいけない習慣 五木寛之さんは年賀状を出したことがない

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   週刊新潮(1月24日号)の「生き抜くヒント!」で、五木寛之さんが年賀状への思いといおうか、年賀状を「書かない習慣」について告白している。文筆を生業としながら、大人になってから年賀状を出したことがないという、意外な話である。その冒頭...

「毎年、暮れから正月にかけて悩ましいのは年賀状のことである。いつもの繰り言になるが、私の筆不精はほとんど病気と言っていい。成人してこのかた六十有余年にわたって年賀状というものを書かずに過ごしてきた」

   キャリアの長い人気作家だから、人づき合いは多いに違いない。多くが後輩だろうが文壇仲間、出版各社の編集者、各紙の文芸記者、長年の愛読者、行きつけの飲食店主などなど。

「そういうかたがたに、せめて新年には賀状の一枚ぐらいはお届けすべきではないか。というわけで、十二月になると、毎年のように心せかされる日々が続くのである」

   有名人だから、五木さんが出さなくても出版社経由で届く賀状は少なくない。一念発起し、年賀はがきを大量に買い込んだこともあるし、出すべき人の住所一覧を作ったこともある。しかし「賀状を書かぬままに慙愧の年末、年始を送ってきた」という。

   昨年末、今年こそと決心した作家は悩んだ。送る人と送らない人の線引きをどうするか。付き合いの長さで決めるか、これまで賀状をもらってきた人に限定するか。

  • 年末に頭を悩ませる人も
    年末に頭を悩ませる人も

「東郷元帥」は例外?

   こうして迷っている時、世間に名を知られた医師による、健康と養生に関する文章に接したらしい。ここまで読んできて私(冨永)は、小さな胸騒ぎを覚えた。もしかして...

   「健康記事には、いいかげんなものが多いが、そのかたの持論にはかねがね深く共感するところがあった」というその医師は、こう主張したらしい。

   〈永年の習慣は急に変えてはいけない〉...あぁ、やっぱり。

「悪い習慣であろうと何であろうと、それを変えるなら三年、五年、いや十年をかけて徐々に変えるべきだ。突然の変更は断じてよくない、と書かれているではないか」

   そして五木さんは、賀状を送った場合の相手(夫婦)の反応を妄想する。

「イタズラじゃないのかい」
「本人の字みたいだけど」
「何かの予感とか」
「ガンかも」
「こないだの写真で見ると元気そうだったんだけどなあ」
「昭和が遠くなっていくわねえ」

   そして筆者はやや強引に...

「正月そうそうしんみりさせるのも申訳ないような気がしてきた」

   かくして五木さんは「健康優先」の結論を下す。習慣は2019年も維持された。

   この話を聞いて「そんなこと言ってちゃ駄目だ。日本海海戦のとき、東郷元帥は急ターンしてバルチック艦隊に勝ったんだぞ」と忠告する人がいたそうだ。たとえ話からして同年代以上と思われるが、そういうリアルのお付き合いがあるのなら、確かに虚礼は不要か。

「生存確認」なら不要では

   私も2019年の新春のご挨拶を遠慮した。はやりの「賀状じまい」ではなく、親類に不祝儀があったためだが、何を隠そう、できれば「生存確認」のような年賀状はもうやめようかと思っている一人ではある。

   あれは40歳前後の数年間だったか、賀状のデザインに凝ったことがある。プリントゴッコで不細工な「寅」を大量生産し、取材先などに送り付けたのは1998年の正月だった。勤務地が目まぐるしく変わった時期でもあり、住所変更の案内を兼ねていたように思う。

   その年代までは、届く賀状にも転職あり、結婚あり、子ども誕生あり、異動ありと、なにがしかのニュースを含むものが多かった。それが50を過ぎたころから「こちらは相変わらずです」「ぼちぼちやっています」みたいな文面が互いに増える。親の介護話や、老後の趣味を並べたようなものも混じりはじめ、「そろそろいいか」と思い始めた次第である。

   急に習慣を変えてはいけない? 大丈夫、すでに十年ほどかけて賀状の数を減らしてきたからだ。あとは「卒業」を内外に告知するのみ。で、この場をお借りして宣言する。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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