2024年 4月 19日 (金)

雨のパレード「BORDERLESS」
誰も止められない 名もなき僕らの声を

   タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」

   人間の第一印象がそうであるように、バンドやグループにとっても名前によるイメージというのはかなり強いものがある。良い名前はもちろん、変な名前だなあと思うのも忘れられない出会いになる。

   そういう例でいうと、「雨のパレード」という彼らの名前を耳にした時は、それだけで好感を持ってしまった。ウエットの代名詞のような「雨」とマーチングバンドの陽気な行進を連想させる「パレード」の組み合わせ。日本的叙情と西洋的解放感。陰と陽の同居。雨の中でタップダンスするシーンが有名な50年代のアメリカのミュージカル「雨に唄えば」のようなミスマッチの効果。どんなバンドなんだろうという関心はそこからだった。

  • 「BORDERLESS」(ビクターエンタテインメント、アマゾンサイトより)
    「BORDERLESS」(ビクターエンタテインメント、アマゾンサイトより)
  • 「BORDERLESS」(ビクターエンタテインメント、アマゾンサイトより)

思うようなアルバムが完成

   雨のパレードは福永浩平(V)、大澤実音穂(D)、山崎康介(G・SY)という3人組。結成は2013年。同じ鹿児島で別々のバンドを組んでいたメンバーが東京で結成した。リーダーの福永浩平が詞と曲を書いている。当時は4人組だった。メジャーデビューしたのは2016年。アルバムタイトルは「New Generation」。2017年に出た二枚目は「Change Your Pops」だった。日本語にすると「新しい世代」と「君のポップスを変える」というタイトルに彼らの姿勢が伺えないだろうか。

   彼らに感じたのは、バンドの「楽器」に捕らわれない「音像」だった。ギターやベース、ドラムという個々のメンバーの演奏というよりバンド全体の音が醸し出す「像」。ロックやジャズ、ソウルという音楽のジャンルというより「音全体」のイメージ。それでいてメロディーは親しみやすく、歌詞には内省的で思索的な言葉が綴られている。

   例えば、一枚目のアルバム「New Generation」の中の「Petrichor」には「僕の虚空は降り続いている雨でいっぱいになってしまった」「今にも崩れそうな世界だ」というような歌詞があった。バンド名になっている「雨」が、彼らにとってどういうイメージなのか。文学青年の名残を感じさせるそんな生硬な言葉も、音に対してのこだわりに現れているようだった。更に、二枚目のアルバム「Change Your Pops」の中の「Count me out」には「クールなふりして中指立てるさ」「本当は何もかも気に入らないんだ」というような歌詞もあった。

   ただ、それらのアルバムには、そうしたこだわりが、彼らが求めている形で作品になっているようにも思えなかったのも事実だった。

   それが変わった。2020年1月22日発売の彼らの4枚目のアルバム「BORDERLESS」には、そうした「やりたいこと」と「やれること」の間のギャップのようなものが感じられなかった。ようやく、彼らの思うようなアルバムが完成したように思った。

周囲や時代に迎合しない頑なさ

   新作アルバムが、どんな風に出来上がったのか。彼らは筆者が担当しているインタビュー番組 FM NACK5「J-POP TALKIN'」(1月18・25日放送予定)でこんな話をした。

   「メンバーが1人抜けて3人になったんです。今までは金銭的な理由もあって、どんな音もバンドのセッションで作ってきたんですが、その発想だとメンバーの手の数しか音を出せない。これをきっかけに今まで使ってこなかった器材や音の重ね方をすることにした。それがいい結果につながったと思います」

   4人バンドが3人になる。それをどうプラスに変えるか。今まで控えめにしていた電子的な音作りや避けていた外部プロデューサーの起用。新作「BORDERLESS」では、YUKI、ゆず、SUPERFLY、JUJUなどを手掛ける売れっ子プロデューサー、蔦谷好位置と組んでいる。

   そうやって作り出したアルバムは、まるで何かをかなぐり捨てたかのような清々しいまでの「幕開け感」に溢れていた。

   初回盤には去年の4月、3人体制になって初めて行われたライブ盤もついている。その時の最後の曲であり新作アルバムも締めくくりの曲となっている「Ahead Ahead(new mix)」では、こう歌っている。

   「I am here 僕らは今ここにいる
I am here まだ想いは届かないまま
あの高く飛ぶ鳥のように
もう迷わない僕たちは」

   リーダーでソングライターの福永浩平は91年生まれ。平成生まれということになる。彼らのアルバムタイトルを借りれば「New Generation」である。同世代のミュージシャンには今をときめく米津玄師や小袋成彬、Suchmosのヴォーカリスト、YONCEなどもいる。

   物心ついた時からインターネットに親しんできた世代。欲しい情報は何でも手に入れることが出来て、音楽には時代もジャンルもない。自分の関心と世間の流行とは折り合わず自分だけの世界に引きこもっていたこともある。雨のパレードの3人が鹿児島出身と知って驚く人もいるかもしれない。福永浩平は「アイスランドのような寒い国の音楽が好きだった」と言った。

   周囲や時代に迎合しない頑なさは、その頃に培われたものかもしれない。

   アルバムの中に「友人の結婚を見て感じたことを素直に書いた」という「Story」という曲がある。アカペラのコーラスで始まる温度感のあるバラードも初めてだろう。アルバムの一曲目「BORDERLESS」は、力強いコーラスが印象的だ。タイトルの「BORDERLESS」には、音楽のジャンルというだけでなく「音」と「人」の垣根を超えたという意味もあるように思った。

   彼らが初期の頃から口にしていたのが「変わり続ける変わらないために」という言葉だった。形は変わっても流れているものは変わらない。キャリアを重ね大人になってゆくことで当然のように変わって行くこともある。でも、それを歌ってゆくことには変わりはない。それを歌うことが変わらないことにつながってゆく。アルバムタイトル曲「BORDERLESS」には、こんな歌詞がある。

   「誰も止められない
名もなき僕らの声を」

   そんな一節にファーストアルバム「New Generation」の中の「Movement」のこんな言葉が重なり合った。

   「どんなに偉大な波だって
きっと最初は僕らのような
名もない日々から
名もない声から」

   令和の空は晴れているのだろうか。

   それとも名もなき人たちの涙の雨で溢れているのだろうか。

   彼らの「雨」はどんな「パレード」になってゆくのだろうか。

(タケ)

タケ×モリ プロフィール
タケは田家秀樹(たけ・ひでき)。音楽評論家、ノンフィクション作家。「ステージを観てないアーティストの評論はしない」を原則とし、40年以上、J-POPシーンを取材し続けている。69年、タウン誌のはしり「新宿プレイマップ」(新都心新宿PR委員会)創刊に参画。「セイ!ヤング」(文化放送)などの音楽番組、若者番組の放送作家、若者雑誌編集長を経て現職。著書に「読むJ-POP・1945~2004」(朝日文庫)などアーティスト関連、音楽史など多数。「FM NACK5」「FM COCOLO」「TOKYO FM」などで音楽番組パーソナリテイ。放送作家としては「イムジン河2001」(NACK5)で民間放送連盟賞最優秀賞受賞、受賞作多数。ホームページは、http://takehideki.jimdo.com
モリは友人で同じくJ-POPに詳しい。

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